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推しのいる生活、いない生活


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記事:K(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
2015年8月、一度宝塚歌劇団を見てみたいという叔母さんを連れていくため、大して興味を持たずに見に行った「タカラヅカ」だった。
宝塚歌劇団といえば、全員女性が演じる歌劇団で、大地真央さんや黒木瞳さん、天海祐希さんなどの女優さんの出身元となっている。男役を演じる女性がカッコよく、女性のファンが大変多い。見た叔母さんの感想は「きれいねー。面白かったわ」だったが、連れて行った私の方が、当時雪組2番手のNさんに「どはまり」した。
 
当時から、歌もダンスもお芝居もかなりの実力派で、美人でファンを大切にする方であったが、それだけではない。
もともとは他の組、花組というところで育ち、苦労してもう少しでトップスターになれる!というタイミングで、親友の同期生が月組から異動してきて、自分の目の前でトップスターになったのだ。タカラヅカでは男役のトップスターの同期引継ぎは伝統的に行われていないため、彼女のスター街道は終わってしまったかに思われた。その失望感はいかばかりであっただろうか。その後雪組に異動して2番手となり、上級生トップスターを支えている。
こういう人を私が応援せず誰が応援するのか。
 
宝塚歌劇団のチケットは、公式には大抵「完売」しており、普通のルートでは手に入りにくいが、実は様々な方法で手に入れることができる。誰にも聞かなくてもそういうことを見聞きしながら学び、一人でチケットを手に入れて見に行くようになった。
私の応援の成果があったかなかったか、その後順調にトップスターになったNさんを見るために何度も通うようになり、全国ツアーがあるとなると追いかけていくようになった。長野県まで日帰りしたこともある。
はじめてトップスターとなって舞台中心で歌っている姿には感動した。自分一人では飽き足らず、ファン同士でその感動を語り合ったものである。
 
男役としてタキシードを着ていた彼女も、歌劇団退団後はすっかり「きれいなお姉さん」になってしまった。
歌はうまい。ダンスもうまい。美人で相変わらずおとぼけで性格もよい。
でも、でも。
私は、男役としてキザな「彼」が好きだったんだな、と思わずにはいられなかった。
お金もかかるし、もう見るのやめようかなとも思ったが、同じようにNさんが好きな友達と一日中、Nさんのあの演目はカッコよかった、あの歌が良かったという話をしていて楽しかったので一緒にファンを続けることにした。
 
そうこうして追っかけているうちに、今年は既に2023年。
調子よく観劇していたら、帝国劇場の17500円のS席を3回買ってしまっていたことに気づき、さすがに少し後悔した。
作品はとても見ごたえがあり、楽しかった。あの男役でギャング役をやっていたNさんが、娼婦役で、ばばーんと大きなポスターが帝国劇場の入り口を飾っている。ご立派になられてなんと素晴らしい。歌もダンスも演技も圧巻だった。間違いない。しかし、遠征代旅費を含めたらすごいことになっている。
はあ。私の財布をどうしてくれるのか。
その演目、ムーラン・ルージュは大好評で、来年の再演が決定しているとのこと。来年、さすがに遠征は無理だわ。
 
 
「今回、ちょっとNさんに課金しすぎた気がするんですよね」
 
遠征先で会ったタカラヅカファン歴うん十年という先輩に愚痴ってみた。
宝塚歌劇団の組は花、月、雪、星、宙の5組だが、それぞれの組が兵庫県と東京の大劇場に新人公演、全国ツアーに2番手3番手さんが主演の公演とあり、年間公演数は約1400回あるとも言われている。その先輩は、年間の宝塚歌劇団の演目スケジュールを手帳に書きいれてから、空いているときに仕事を入れるというくらい徹底されている方で、1日に午前と午後2回観劇といったことも普通にされている。正確な数を聞いたことはないけれど、話を聞く限り、年間100公演はゆうに観劇されているはずだ。1公演10000円としても、かける100回となるとなかなかの出費だ。
 
「あ、お金がもったいない、と、思った時がファンをやめるタイミングよ」
 
「そんなもんですかね」
 
「〇〇さんは観劇するために、宝塚にマンション買ったからね。私はそこまでしてないけど」
 
聞く相手を間違ったかもしれない。
 
その先輩は、頑張っている「若い男役の子」を応援するのが趣味なのだそうだ。どう見てもかわいい女の子が一生懸命男性に見えるようになるために頑張っている姿を見るのが楽しいらしい。
 
と、思っていたら、実はそれだけでもなく、全国ツアーに遠征した先々で、同じく宝塚歌劇団ファンのご友人とご当地の日本酒を飲むのを楽しみにされている、ということも分かってきた。
 
推しの追っかけができる気力と財力と時間、酒を浴びるように飲めるだけのアルコール分解能力と胃腸。
全国にいる推し友達。
 
今の私にはどれもない。
そもそもアルコールはほぼ飲めなかったりするが、豪快に楽しそうな先輩を見て、私も頑張ろうと思った。来年の観劇のため、貯金しよう。
 
「まあ、推しは推せるときに推せ、というからね」
 
もう一軒バー寄ってから帰るわ、と言って、先輩は夜の街に消えていった。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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