メディアグランプリ

ブランド好きの祖母が付けていたネックレス


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:都宮将太(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「おばあちゃんが脳梗塞で倒れた」
ある日、母親から電話があった。
あの時の感覚は、今後も忘れることができないだろう。
 
 
私は祖母が大好きだ。
ドラえもんに出てくる、のび太とおばあちゃんくらい、仲が良いと思っている。
両親が共働きで帰りが遅くなることも頻繁にあった為、保育園や小学生のときなど、学校が終わると祖母の家へ帰り、翌日祖母の家から登校するなんてこともあった。
そんな生活を続けていたため、自然と祖母が好きになったのだ。
両親の帰りが早く、祖母の家に行けないときに泣いたことを今でも覚えている。
そんな私だが後悔していることもある。中学時代、授業参観に頻繁にやってくる祖母の姿を見て、
「グランドファザコン」
と、友人に馬鹿にされた。
今思うと非常にくだらないのだが、中学生の私は祖母が授業参観に出席するのが恥ずかしくなり、
「もう来んで!」と祖母に言ってしまった。
それ以降、祖母が授業参観に顔を見せなくなった。
これは二十年近く経った今でも後悔している。
 
 
それからというもの、高校生になって部活が忙しくても、大学生になってバイトが忙しくても、定期的に祖母に顔を見せに行った。
私が来たことで喜ぶ祖母を見るのが嬉しかった。
ある日、カフェオレが好きで毎日飲んでいる。と祖母に話したところ、次に行ったときは、カフェオレで冷蔵庫が埋まっていた。
冷蔵庫を見て驚く私を、嬉しそうに見ていた祖母の顔を今でも覚えている。
そんな私も、社会人の忙しさには勝てなかった。一人暮らしを始めたこともあり、祖母に会う頻度が徐々に少なくなっていった。
「次の休みで祖母に会いに行こう」
そう思って、何十回の休日が過ぎ去ったか分からない。
母親から予期せぬ連絡があったのはそんな中だった。
「母親」
と表示されたスマフォの画面を見て、「身内に何かあった」と瞬時に察した。
普段ラインしか送ってこない母親の電話だ。当然といえば当然だ。
「もしもし」
どうでも良い内容や、ポジティブな内容であってくれ! そう願う私の気持ちは、見事に裏切られた。
 
 
「おばあちゃんが脳梗塞で倒れた」
 
 
母親の声は、私の右耳を通り過ぎると、そのまま体内に侵入し、大きな手に姿を変え、私の心臓を握り潰そうとした。
仕事中だったが、上司へ事情を話し、そのまま搬送先の病院へと向かった。
病院へは母親含め、身内何名かが来ていた。
病院のロビーで祖母の手術が終わるのを待っていた私たちに、医師から連絡が入った。
結果、通報が早かったこともり、祖母は奇跡的に一命を取りとめた。
だが、素直に私たちは喜べなかった。
祖母の左半身が麻痺したと、医者から聞かされたからだ。
 
 
祖母の手術が終わり、お見舞いの許可が出るまで数日かかった。
「お見舞い行けるようになったよ」
母親から連絡を受け、手術後の祖母に初めて会いに行った。同時に、久しぶりに祖母に会う機会でもあった。
左半身が動かぬ祖母を見て、涙がでそうになったのを覚えている。祖母の前で泣くわけにはいかず、必死に涙を堪えた。
中々会えていないことを後悔していたこともあり、その日からは頻繁に病院へと通った。
何度祖母と会っても、どうしても入院前の祖母と比較してしまう。
保育園の頃、毎日のように会っていた祖母との思い出が蘇る。
一緒に公園で遊んだり、テレビゲームをして遊んでいたが、今はもうそれができない。
祖母が大好きだった海外旅行も行けない。
そう思うと、やりきれない思いもある。
 
 
「今日おばあちゃんの病院行くけど一緒行く?」
母親から連絡があった。
「行く」
私は即答した。断る理由などない。仮に予定があったとしても、その予定をキャンセルして祖母のもとへ向かっただろう。
病院に到着し、祖母が入院している病室へ向かった。
何度もお見舞いに来ているため、病室は把握している。すれ違う人がいなければ目を瞑ってでも病室に行けるだろう。
常連店の従業員とお客のように、看護師も私に対してかしこまった挨拶はしない。敬語を使わない者いるくらいだ。
「よう!」
病室のドアを開けると、祖母が右腕を挙げ微笑みながら出迎えてくれた。
左腕が動かない姿や、元気な頃と比較した痩せ細った姿。もう見慣れたつもりでいたが、内心どこか動揺している自分がいる。
 
 
「あれ?」
私は思った。祖母の首に、普段は付けられてないネックレスが付いている。
ネックレス自体は珍しいことではない。ブランド好きの見栄っ張りで有名な祖母は、病室でも宝石付きの指輪をはめ、使う予定の無いブランドバッグを枕元に置いている。
担当看護師に指輪を自慢している姿も見たことがある。
正直、ブランドに興味が無い私から見たら、ブランド名すら分からない。
だが、祖母が付けているネックレスを、私は知っている。
ネックレスの鎖はゴムでできており、メインの飾りは折り紙でできた手裏剣だ。
それは、私が保育園の工作で作り、祖母にプレゼントしたネックレスだった。
 
 
私はそのネックレスを見て泣きそうになった。涙を堪えることができないと分かり、お手洗いへと駆け込んだ。
そこで私は声を抑えて泣いた。
赤くなった目が治まるのを待って、再び祖母の病室へと向かった。
「そのネックレス俺が保育園の頃に作ったやつ?」
病室に戻り祖母に聞いた。
「そう! 一番お気に入りのネックレス!」
その言葉に再び涙が出そうになる。
同時に後悔の念がやってくる。
祖母が元気な頃、忙しさを理由に会えていなかったこと、中学時代ひどい言葉を放ち授業参観に来させなかったこと。
その場で謝罪しようと思ったが、言葉にしようとすると急に恥ずかしくなり何も言えなかった。
 
 
どれだけ足掻いても、どれだけお金を使っても、過去に戻ることはできない。
それなら、これからは時間の許す限り祖母に顔を見せに来よう。そしていつか、祖母に過去のことをお詫びし、これまで育ててくれたお礼を伝えよう。
折り紙でできた手裏剣を大事そうに触る祖母の姿を見て、私は一人誓いを立てた。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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