メディアグランプリ

仕事で、ごくたまに訪れる報われた瞬間のこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:カナコ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
同窓会での一コマ。
友人「カナコは、今何の仕事してるの?」
正直、その質問は一番答えづらい。
小学校の先生と言ってしまえば、簡単なのだが、学級担任をしている訳ではない。
私「小学校で、特別な支援が必要な子ども達に教えてるんだ」
友人「あ~、特別支援学級? とかそんな感じ? うちらが、中学の時にも、D組さんてあったよね?」
それも違う。私が担当しているのは、通級という特殊な教育なのだ。
私「特別支援学級ともちょっと違って……。普通のクラスの中で、友達と上手くコミュニケーションが取れなかったり、座っていられなくて立ち歩いちゃったりする子達が週に1回1・2時間だけ来て勉強する場所で教えてるんだ」
友人「へ~。そんなのあるんだ! 大変そうだね!」
大抵、その位で話は終わり、それ以上深く突っ込まれることはない。
 
正直、私が先程説明した内容は、一般人向けに分かりやすくしている為、子どもの立場に立った表現はしていない。
本当は、あんな説明の仕方はしたくない。
子どもに失礼だから。
 
私は、今の仕事に誇りを感じているし、天職だとさえ思っている。
しかし、なかなか報われない。でも、報われない日々を楽しむことができているから、天職だと思う。
 
大抵、報われない日々は長期間に及ぶ。
その理由は、人間はそう簡単に変わらないし、変えられないから。
 
担当していた子ども達の中には、発達障害の一つであるASDと呼ばれる自閉スペクトラム症の診断がおりている子どもがいる。
その子は、脳の機能上の問題から相手の立場に立つことが難しかったり、視野が狭くなったりして生きづらさを感じている。
それを、「コミュニケーションがとれない」と表現すると、瞬く間に子ども自身の問題のように錯覚が起きる。
 
「発達障害」という言葉は、ここ最近世の中での認知度が高まっているが、デメリットも大きいと思う。
それは、「あの子、もってるよね」という、発達障害の気配がある人のことを揶揄するような発言をする人が増えたからである。それは、残念ながら教員の中にも少なくない。
 
はっきり言って、それは大きな間違いである。
「発達障害」というものは、本人がもっているのではなく、特性と社会環境との間に起きるミスマッチによって生じる障害だからである。
 
先日、小学校1年生の時から担当していて、今年度中学校へ進学した子どもの授業を見る機会があった。
 
その子は、友達と上手くコミュニケーションをとる方法が分からず、いつも一人だった。
学力もあまり高い方ではなく、小学校の時、授業中に手を挙げることはほとんど無かった。
中学校での授業が見られると聞いた時は、一番最初に頭に思い浮かんだ。
どんな風に過ごしているかな。きっと、前のように下を向いて授業を受けているんだろうな。
 
実際の授業を見てみると、明るい表情とまではいかないが、しっかりと先生の話に耳を傾け、ワークシートを書いたり、指名された時には答えたりと、小学校の頃には見られなかった姿があった。
 
感動して、涙が溢れた。
 
学級全体の雰囲気もとても良かった。教えている教科担任の先生も、どんな意見も否定せず受け入れる姿勢が見られ、それが学級の雰囲気に直結していることはすぐに分かった。
 
途中で、グループでの話し合いになった時には、話し合い台本が配られ、司会と他のメンバーの役割が明確になっていた。
コミュニケーションをとることが難しくても、そこまで型がはっきりしていれば安心して参加することができる。その子は、一言二言ではあるが、小さな声で意見を言っていた。
 
そう。こういう瞬間に、子どもがくじけずに登校して教室の自席で座っていられるために、私は日々働いているのだ。
 
6年間通級で関わってきた中で、話し合いの練習も繰り返し指導してきた。
すぐには力を発揮できなくても、子どもの見えないどこかに少しずつ蓄積されていることを信じて関わり続けてきた。通級に通う子ども達は、元々自信を失って来るため、自己肯定感を育むことを第一に考えている。また、発達障害のある子ども達は、不登校のリスクが高いとも言われている。
 
学級担任のように、毎日6時間の授業で関われるわけではない。
週に1回、年間で言えば35回の指導しかできない立場だが、その1回1回の授業に私のもちえる知識と情熱の全エネルギーを注いでいる。
それは、ただ熱心に関わるということだけではない。
時には、意図的な無視をしたり、適度な距離をとったりしながら、一人一人の子ども達の特性や発達段階に合わせた声掛けや教材作りをする必要がある。
その、押し引きのバランスが腕の見せどころなのである。
 
通級担当をしている教員は、学校組織の中では黒子の立ち位置かもしれない。
学級集団を動かすわけでもなく、大きな行事に向かって子ども達が汗水垂らして切磋琢磨する時間を共に過ごすこともない。
 
でも、こうやって、何の前触れもなく、子どもの成長に出会える瞬間がある。
これこそがこの上なく幸せなのである。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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