親友とは好きや嫌いを超えた存在
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記事:松本萌(ライティング・ゼミ6月コース)
「一年生になったら」は誰しも一度は口ずさんだことのある童謡だろう。一年生になったら友達100人できるかなという歌詞で有名だ。
子供の頃は歌詞のとおり、友達100人とおにぎりを食べたり遊んだり、一緒に笑う生活が幸せだと思っていた。一緒に時を過ごす友人が少ないことは寂しいし、一緒にいる時間が少ないなら友達とは言えないと思っていた。
大人になってからも人間関係において時間や思い出を共有することが大切だと思っていた。時に我慢しながら、煩わしさを感じながら人と一緒に過ごすことを必要なことだと自分に言い聞かせていた。
一緒に旅行に行っていた友人が結婚し、週末毎に飲んで仕事のぐちを言い合っていた同僚が出産したりと周囲が変わる中、私自身も仕事やライフスタイルの変化を通じて考えが変わっていった。
友達がたくさんいたら幸せなんだろうか。
いつも誰かと一緒にいる必要はあるんだろうか。
どんなときも誰かと思いを共有しなきゃいけないんだろうか。
そう疑問に思ったとき、ふと幼なじみのさとちゃんの顔が浮かんだ。
ゴールデンウィークを迎えるころ、兵庫に住むさとちゃんからイカナゴのくぎ煮が送られてくる。9月になると、我が家が懇意にしている農家の巨峰がさとちゃんの家に届く。毎年の恒例行事だ。
兵庫出身の私にとってイカナゴのくぎ煮は馴染みのある食べ物だ。春先に瀬戸内海で採れるイカナゴの稚魚を甘辛く煮た佃煮で、昔は各家庭で作られていた。子供の頃から醤油やみりんという和食に欠かせない調味料が好きな私にとって「甘辛い」食べ物は大好物だった。毎年春になると祖母の手作りのイカナゴのくぎ煮が我が家に届き、家族みんなで競うように食べた。
数年前さとちゃんに私のイカナゴのくぎ煮に対する熱い思いを語ったところ、毎年送ってくれるようになった。
さとちゃんが私の好物を送ってくれるのだから、私も何か美味しい物を送りたい。私は数年前にブレイクしたゆるキャラふなっしーのお膝元に住んでいる。梨はもちろんのこと、同じ時期に作られる巨峰もみずみずしくて美味しい。ふなっしーには申し訳ないが巨峰派のため、毎年巨峰を送っている。
さとちゃんとは0歳のころからのつき合いだ。当時は兵庫にある社宅に住んでいて様々な年齢層の子供がいる中、さとちゃんと私は同じ歳だった。両親同士の年齢も近く、さとちゃんのお兄さんと私の姉が同い歳ということもあり、何かと交流する機会が多かった。
家族構成は似ているものの、家風は全く違った。
さとちゃんの家は教育熱心でお兄さんは中学校から、さとちゃんは小学校から私立に通っていた。私の姉は不良学校として有名な地元の公立中学校に通っていた。私が10歳の時に千葉に引っ越したが、引っ越していなければ私も不良中学校に通っていただろう。
さとちゃんのお母さんは毎日手作りのお菓子を準備していて、私もごちそうになった。私がお菓子を作って欲しいとしつこくせがむので、母はしかたなくオーブンを購入してお菓子を作ってくれるようになった。
さとちゃんはリカちゃんやバービー人形、シルバニアファミリーシリーズをたくさん買ってもらっていた。私はリカちゃん人形一体で、シルバニアファミリーのグッツは母の実家に遊びに行った際、祖父母が買ってくれる以外に手に入れることはできなかった。
環境は真逆のことが多かったが、さとちゃんと私は馬が合った。何度もケンカをしたし口をきかない時期もあったが、私が引っ越した後も交流があり、40歳を超えた今も友達だ。
時々母が懐かしそうに話すエピソードがある。
ある日社宅に住む年上の女の子がさとちゃんの悪口を言ったとき「私の友達の悪口を言わないで」と私が言い返したらしい。「友達のことを大切にするあなたのことをお母さんは誇らしく思ったのよ。あなたにとってさとちゃんは特別な存在なんだろうね」
さとちゃんが私にとって特別な存在なのはなぜだろうか。
それは0歳の頃から一緒に過ごし、お互いのいいところも悪いところも知り尽くした関係だからだろう。私達の間に利害関係や損得勘定はなく、友達を超えた家族に近しい存在とも言える。
では家族とはどんな存在だろう。
以前母が言っていた母なりの家族愛が私は好きだ。昔「私のことを嫌いって思ったことある?」と母に聞いたことがある。「ないよ。あなたやお姉ちゃんに対して好きも嫌いも思ったことない。そういう感情はないの。家族ってね、好きとか嫌いとかを超えた存在なの」
さとちゃんと私の関係も母の言う「家族」そのものだ。
さとちゃんと私は頻繁に連絡を取り合うことはない。必ずしているのは年賀状とお互いの誕生日のお祝い、そしてイカナゴのくぎ煮と巨峰の送り合いくらいだ。ただ関東で大きめの地震があると「大丈夫?」とさとちゃんからLINEが来る。関西圏で豪雨のニュースが流れたら「被害はない?」と私がLINEを送る。
便りの無いのは良い便りと思いながら過ごしつつ、何かあると真っ先に連絡する。頻繁にコミュニケーションをとっていなくても絆を感じる、まるで遠く離れて住む家族のようだ。
子供の頃は友達はたくさんいなきゃいけない、たくさんの人と仲良くしなきゃいけないと思っていた。
この歳になるとそんなことはないと思うようになった。
たった一人でも「大丈夫?」と自分のことを気に掛けてくれる人がいれば有り難い。ケンカしてでも伝えたいことがあるならトコトン言いたいことを言い、お互いのことを深く知る機会にすればいい。
なんとなく繋がっている100人の他人より、強い絆で結ばれている1人の親友がいる人生の方がよっぽど幸せだ。
親友は人でなくてもいい。
一緒に住むペットや読むたびに明るい気持ちになる漫画でもいいし、落ち込んだときに自分に寄り添ってくれる音楽だっていい。生まれてから死ぬまで一緒にいる自分自身だって親友だ。
好きや嫌いという感情を超えて自分の愛情を捧げられる存在があるなら、それは最高な人生と言える。
以前さとちゃんと会ったとき「私達40歳超えたけどさ、いつまでお互いをちゃん付けで呼ぶんだろうね」と笑いながら話した。60歳や70歳、歳を重ねておばあちゃんと呼ばれる歳になっても「さとちゃん」「萌ちゃん」と呼ぶ仲でありたいと思う。
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