メディアグランプリ

元新聞記者なのにライティング・ゼミの課題がこんなにも苦痛に感じる理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:嘉村友里恵(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「初回が大事なんです!何としてでも出してください」。
 
10月14日についに始まったライティング・ゼミ。収録動画の終盤、講師のそんな呼びかけを聞いて私は深く納得した。何事も始めが肝心。こちらも安くはない受講費を払っており、最大限学びつくしたい。そう思い、早速課題の内容を確認しようとした。
 
だが該当する説明がどの資料を読んでも見つからない。唯一あったそれらしき記述は「テーマフリーとなっております。エッセイ、ビジネス、フィクション、なんでも構いません」の記述だけ。
 
「材料もないのに何が書けるの……」。思わず固まった。
 
私にとって0から文章を作り出すことは何よりも難しい。それは、文章を書くきっかけが長い間「誰かがした何か」だったからかもしれない。
 
私は今年3月まで9年間、新聞記者として働いてきた。
 
行政、事件事故、教育、美術など取材してきたジャンルはさまざま。どれも自分で選んだものではなく、会社や上司の指示で決められてきた。
 
それでも自分の興味関心を軸に記事にできそうなネタを見つける時間もあり、そうして書いてきた記事はたくさんある。時には相手に嫌がられたり、緊張で内心震えたりする取材もあったが、基本的に人に会いに行き、話を聞かせてもらうことはわくわくする時間だった。
 
自分が体験したことがない相手の経験に触れることは好奇心を刺激する。90歳を超えた今もおしゃれが大好きな女性が話す旧満州の華やかな女学生時代の話にも、不登校の女子高生がぽつりぽつりと語ってくれた眠れない夜の孤独さにも同じように引き込まれ、一つ一つのエピソードや感情は自分だけが見つけた「宝物」のように感じた。
 
この胸が掴まれる話をリアルに伝えたいー。そんな気持ちで次々に質問を重ねて得た要素を、それぞれの人の心の動きを読んだ人に体感してもらえるようにと考えながら、まるで機を織るような感覚で記事にしていった。私に話をしてくれた人々の言葉は色とりどりの糸のようだった。
 
逆に、書く作業が辛い記事もあった。その一つがコラムだ。日々の取材活動で考えたこと、感じたことを原稿用紙一枚強の文字数でまとめなければならない。ボリュームこそ少ないが、2カ月に1度コラムの順番が回ってくる度に軽い罰ゲームのような気分がしていた。
 
なにせ、他の記事を書く時に比べて圧倒的に何も文字を打てず考え込む時間が長かった。時には書き始めて1日半くらいの間にほぼ画面が真っ白だったことも度々ある。自分で取材したことなのに面白いくらいに考えや主張が湧いてこない。
 
結局、これまでの経験で編み出したコラムの「型」に何となく浮かんでいた言葉や考えをはめ込んで、まるでパズルを完成させていくように規定の文量を書き切ることでいつも精一杯。「私は何にも考えないで日々を過ごしているのか」と自己嫌悪に陥ることも時折あった。
 
この課題を書いている今も同じような苦痛でいっぱいだ。私に文章を書かせてくれる誰かはここにはいない。「織物」の材料となる言葉もない。そして求められる文章量がこれまで書いてきた記事より圧倒的に多い。今回もやはり書き始めるまでに数日を費やしてしまった。
 
「記者なんだから文章は得意でしょう」と周囲の人からそう何度も言われてきた。確かに、仕事としてたくさんの文章を書いてきたがそれはあくまでも新聞記事という一つの文章の形式に慣れているにすぎない気がする。「文章が書ける」にはきっといろんな要素を兼ね備えていることが必要なのかもしれない。小さなものへの感性や、あらゆる物事に対して自分の軸を持つこと……。獲得すべきものの多さを思うと途方にくれそうになる。
 
さらに今、私はウェブ関連の部署に移っており記者ではなくなっている。本当は苦しい思いをしてプライベートで文章を書き続ける必要性などない。それでもこうやってライティング・ゼミに来ているのは書き方を知りたい、読まれる文章を綴れるようになりたいと切に思うからだ。
 
新聞に掲載された記事を外部メディアに配信する作業に日々携わっているが、どんなに社内で評価が高い記者が書いた記事も、時間と労力を費やして仕上げた記事も悲しいほどにPVが伸びない時がある。それは何となく、自分が力を注いできた新聞記者の仕事を否定されているようでそれなりに傷つく。
 
もちろん題材のウケの問題もあるはずだが、これには伝え方にもかなり大きな課題があるように感じる。長い歴史の中で追求されてきた簡潔に大事なことを伝える技法と、選ばれ、読まれるための技法は残念ながら異なっていることを、日々目にするデータが突きつけてくる。でも私はそんな現実に負けたくない。好きな仕事と仲間をできれば守りたい。
 
だから私は書き方を学びたい。
 
自分の中で作り上げてきた「書くこととは」を真正面から壊していき再構築する。課題に取り組むことははそんな過程の一つだからこそしんどいのかもしれない。でも、それくらいのエネルギーを生じさせなければ何も変わらないはずだとも思う。
 
全16回の課題を乗り越えた先には何があるのだろうー。そもそも全回課題を出し切ることさえハードルが大きそうだ。それでも今、こうやってこの文章は何とか着地をしようとしている。もしかすると4カ月後、一歩、いや数歩今の自分よりも先に進んでいるかもしれない。そんな期待のおかげか、書き始めた時の苦痛が少しだけ小さくなっている気がした。
 
 
 
 
***
 
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2023-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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