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学生生活をドブに捨てかけていた私を救ってくれたたった一言の別れの言葉


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:嘉村友里恵(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
秋が深まり始めてきた10月末。地方に住んでいるはずなのに芸能人の姿があしらわれたポスターをよく目にするようになってきた。
 
街中の至る所に貼られているのは地元の大学の学園祭のポスター。明るくて、楽しい学生生活の象徴のようなイベントのお知らせは、社会人になってそれなりに長くなった今でも、少しだけ居心地の悪さを感じさせる。
 
私が大学に入学したのは15年前。地元の学校の文系学部に現役で進学した。
 
ただ、そこを志望したことは出願ぎりぎりまで一度もなかった。当時のセンター試験で大失敗し、それでも志望校を受けようとすると担任が「お前に浪人は向いていない」と一蹴。心にもやもやを抱えながら、かといって、反抗するほどの気概も持ち合わせてはおらず、出願先のランクを下げた結果合格した。

この「不本意入学」は私の努力不足の結果ではあったが、かなり心にこたえた。
 
通っていた高校は地域のトップ校で、高校3年の時はなんとか最上位のクラスにも滑り込んでいた。クラスメイトたちの進学先の多くは県外の有名大学や地元の医学部や薬学部。
 
「え、その大学に行くの? どうして?」
 
心底不思議そうに尋ねる友達の表情に「そこしか行けなかったんだよ」と叫びたくなった。
 
大学の授業の初日、教室のドアを開けると、個性的な髪型で大声をあげている人やずっとトランプをしている人がいて愕然とした。
 
「今までとは違う世界に来たんだ。もう終わった」。そう打ちのめされた。

勉強ができるー。中学受験に取り組んだ小学校高学年のころからそれが自分の一番の「価値」だと思っていた。
 
学ぶことも嫌いではなく楽しい。頑張って成果を出しているからこそ周りの大人も友達も認めてくれると思っていた。高校入学後は通っている学校の生徒であることが自分の存在を支える根拠のようなものにもなっていた。だが、大学入学でそれらはいっぺんに消え去ってしまった。
 
とにかくここから早く抜け出したい、私から剥がれてしまった自分の価値を取り戻したい!
 
そんな思いに駆られ、入学後はサークルには入らず講義が終わるとすぐに図書館に向かった。大学院留学を目指して英語の資格試験の勉強をするためだ。友達と夜ごはんを食べに行ったり、休みの日に外出をしに行ったりもほとんどなく過ごした。ただ単位を取るためだけに学校に行き、時々アルバイトに行って帰る。大学生活らしい弾むような日々とはほど遠かった。
そうして2年ほど経った大学3年の夏休み。私はこれまでの腕試しのためにイギリスの語学学校のサマースクールに参加することにした。クラスには日本人学生も含めスペインやモロッコ、ブラジルなど世界各国から生徒が集まっていた。
 
授業は1日みっちりと詰まっていたが、放課後や休日はしっかりと時間があったため、クラスメイトと出かける機会も多かった。
 
バスに乗って海辺の町まで向かってただ砂浜を走ったり、アップルタイザーしか飲めないのにパブでしゃべり続けたり……。私がどこから来たのか、どんな能力があるのかなど気にする人はいない。私自身の中でも誰かと比べるような意識が薄まっているのも感じ始めていた。
 
サマースクールの最終日。学校側がお別れ会を開いてくれた。短い時間だったがお別れはやはり寂しい。出会えた仲間とできる限り写真に写ろうとみんな忙しく会場を動き回っていた。
 
「ユリ!」
 
1人のクラスメートが駆け寄ってきてくれた。笑顔が優しい、台湾出身の年上の女性だった。
 
「Your personality is very cute!」
 
そうにっこり笑うと、また別の場所へ足早に向かっていった。
 
「Thank you……」
 
思わずその場に立ち尽くしながら、心の奥底からじわじわと嬉しさがわいてきた。
 
英語で意思の疎通ができるとは言え、国も文化も違う人が私の人柄を褒めてくれた。学歴や能力がどうであっても、私が私でいるだけで認めてもらえた。私も捨てたものではないー。自分を縛ってきたこれまでの価値観からやっと抜け出せた瞬間だった。
 
帰国後、大学生活は少しずつ変わった。
 
当時関心があった子ども支援のボランティアに挑戦し、自分の学びたいことを学び始めた。無理に留学するのではなく、国内で大学院進学をすることにも決め、それがきっかけで公務員試験を目指す同じ学部の同級生と一緒に勉強するようにもなった。
 
その時間自体も楽しかったが、その仲間の住まいで人生初の鍋パーティーをしたり、旅行に一緒に出かけたりなど一気に日々の彩りが増した。彼女たちは社会人になってもつながり続ける大切な友達だ。
 
今この文章を書きながら、20歳前後の自分自身の視野の狭さを痛感するし、大学に通うことが経済的に簡単ではなくなっている昨今の社会状況を考えると、自分の甘い感覚に恥ずかしくもなる。
 
だが、10代までに日常生活で触れられる世界は令和の時代でもまだまだ狭いように感じる。自身が身を置く場所で良しとされる価値観に、いわゆる「良い子」とされる人ほど知らず知らずのうちに縛られがちではないか。仕事で出会ってきた中高生を見てそう思う時が時々あった。
 
自分の良いところはきっと自分だけでは決められない。多様な人々と関わり、喜怒哀楽を体験しながら移り変わり、気付いていくのかもしれないと今は思う。

先日、母校の大学の前を通りかかると、学園祭をPRする大きな立て看板が校門近くに立っていた。その向こうにもしかするといるかもしれない、かつての私のような誰かに、この小さなエールが届きますように。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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