メディアグランプリ

空飛ぶ犬ぞり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:春日未歩子(2023年・年末集中コース)
 
 
「人間って、なんて、無力なんだ……」
人は、自分が状況をコントロールができると思うからこそ、自由に動ける。
しかし、私は今、身体が宙に浮くほどの無力感を味わっている。
あなたは、ブレーキの効かない乗り物に、乗ったことがあるだろうか?
 
3月のフィンランドの森の中。一面に、雪景色が広がっている。
念願のオーロラを見に、トナカイとサンタが住む町にやってきた。
オーロラを見れるのは夜なので、昼間は何をしようかと、ホテルが提供しているアウトドアプログラムの一覧を見ていると、犬ぞり体験の文字が目に入った。
 
ちょうどテレビで、日本人が犬ぞりレースに出るドキュメントを観たところだったので、
これはぜひ体験したい! と申し込むことにした。
 
受付に行くと、何頭ものハスキー犬が寝転がって遊んでいたり、スタッフになでられたりしている。
スタッフから説明を聞くと、そりには、前に座る人、後ろで立ってブレーキをする人と、二人一組になり、10kmの距離を自分たちでコントロールして走る、という。
一緒にスタートするのが他に3組で、親子2組と若いカップル1組。
犬は6頭の隊列で、リーダー、サブリーダーが決まっていて、どのポジションがその犬にとって一番いいかを考えてチーム編成されている。
スタッフから、私たちを担当してくれる犬チームを紹介された。
このチームのリーダー犬は、どうも、気性が荒いらしい。
リーダーを抑えるために、サブリーダーはしっかりしたメスと組み、しかも、そり4組中最後のポジションになった。
さらにスタッフから、このリーダーは、どうしても前を抜かしたくなる性分なので、前のそりに近づきすぎたら、ブレーキをかけてね、と言われた。
まぁ、自分たち素人で乗るのを任してもらえるくらいだから、そんなに心配いらないだろう、
と日本基準の安全第一アトラクションのイメージで考えていた。
しかも、ブレーキ担当の友達は、車のレースに出るくらい、運転に自信がある人だから、大丈夫。
 
そして、いよいよ、そりに乗り込み、スタートすることに。
スノーモービルで、4組の犬ぞりの前を、スタッフが先導する。
私たちの前のそりには、お母さんと子どもが乗っていて、お母さんが怒鳴りながら子どもをコントロールしている。
「このお母さん、こわい……。絶対、ぶつからないようにしないと」
前のそりが動き始め、後ろの友達がブレーキを外すと、
「ワオーーーーーン!!」
犬たちが待ってました!  とばかりに勢いよく走りだす。
そりに乗っていると、ビュンビュン、と風を切る音がする。
道幅はそり一つ分くらいで、横に振れると木にあたりそうで、ドキドキする。
 
おおお、思っていた以上に、スピードが出ているぞ。
 
前に座っている自分は、地面に近いので、体感的にもかなりスピードを感じる。
犬たちは、ハァハァ言いながら、獲物を捕獲するような勢いで、走っている。
途中、走りながら雪をかじり水分補給をする姿は、
まるで、マラソンレースで走りながら水分補給するレーサーのようで、
犬たちのアスリート魂から、本気度が伝わってきた。
 
これは、犬との時間を楽しむとか、そりで雪の森の風景を味わう、というものではなく、そりという競技だったのだ。
 
気が付くと、スタッフのスノーモービルは、かなり先頭を進んでいる。
間を詰めようと、犬ぞりのスピードが上がる。
道の先に、大きなカーブが、見えてきた。
友達が、車の要領で、カーブを回ったところでブレーキを徐々にかけようとする意図が伝わる。
私はカーブに備えてそりをしっかりつかみ、前方を向く。
その時、ブンッと、そりが大きく曲がった。
なんだか、全体が軽い感じ……
さらに、犬たちが意気揚々としだし、スピードが上がる。
まさか……
後ろを振り向くと、ブレーキ役の友達がいない。
来た道を横目でたどると、遠くに人の塊が落ちている。
 
えええーーーーーー!!!
 
どう考えても、このスピードでは、走ったところで、そりには戻ってこれない。
アップダウンとカーブが続く道を、暴走犬ぞりが走る。
目の前に下り坂がきた。
そのままのスピードで、犬たちは突っ込む。
その瞬間、そりが、空を飛んだ……
 
「人間って、なんて、無力なんだ……」
 
コントロールが効かない状況というのは、こんなにも、無力を感じさせるものなのか。
どうにかなるだろう、と思いながら、なんとかやってこれたのは、コントロールできる範囲が残っていたからだ。
 
もう、あとは、祈るしかない……
ここなら、サンタか。
気が付くと、犬たちは、レースに勝とうと、前のそりに追いついていた。
しかも、勝ちに行くために、リーダーが体をそりの横に入れ込み、追い抜こうとしている。
 
「Stop!Stop!STOP!!!」
 
その時、ものすごい剣幕のお母さん声が響き、リーダーがびっくりして、後ろに下がった。
お母さんが、リーダーを睨みながら、手を振り回している。
その怒号に、さすがのリーダーも、追い越す気持ちが萎えたのか、スピードが下がってきた。
そこへ、スノーモービルで友達を拾ったスタッフが追いつき、ようやく、そりが止まった。
 
「ほんとに、死ぬかと思った」
落ちた友達を、じっと睨む。
「ごめーん……」
その軽い声の調子に、こちらの大変さが伝わっていないのがわかる。
 
以前、車好きの人から聞かれた質問。
「車で何より大事なのはなんだと思う?」
その時の私は、エンジン、と答えた。
その人は、
「ブレーキなんだよ。ブレーキが効かなかったら、怖くてスピードが出せないでしょ」
 
この体験をした今なら、はっきりわかる。
自分の能力を拡張するものには、ブレーキが大事。
道具にしても、スキルにしても、地位にしても。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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