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わがままでごめんね


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:京 みやこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「お母さんはわがままや!」
離婚を決めた時、娘たちに言われた。
 
25歳で結婚してから3人の娘に恵まれた。
長女が大学を卒業して京都で一人暮らしを始め、看護師として働いていた次女が結婚をし、3女が専門学校を卒業した時だった。
 
次女は結婚後も看護師として働いていたので、子供の保育園の送り迎えなどのため3女が次女の家で一緒に住むようになった。そして私は家を出た後、長女の狭いマンションに転がり込んだ。
 
50歳を目前にした離婚だった。
 
長女の生活の負担にならないように、私もすぐ働ける場を探した。そして京都の老舗の料理屋で仲居をすることにした。そのような仕事をしたことはなかったのだが給料が良かったからだ。長女に生活費を少し渡すこともできた。
 
週一日の休みで、着物を着て働いた。初めは着られなかった着物も数週間でさっさと着られるようになった。初めは慣れない仕事で、上司にあたる仲居頭に怒られてばかりだったが、しばらくすると仲居頭の目配せで、することがわかるようになり、女将にも信頼を置かれ、部屋を一人で任された。
 
上客には舞妓が呼ばれるような格式の高い料理屋だった。使われる器も数万円はするようなお皿やバカラのガラス食器だった。料理人の繊細な大皿料理を客の前で取り分けることもあり、初めは手が震えたが、すぐに新入りの仲居の指導も任されるようになった。結婚していた時には体験することのできないことばかりで、働くのは楽しかった。
 
そして2年が経った。上客を招いてのクリスマスパーティーに歌手が呼ばれ、その部屋を担当した。
何曲かが歌われたが、その中に「見上げてごらん夜の星を」があった。
歌手が歌う間は、仲居は外で待機するのであるが、部屋の外にまで歌手の美しい歌声が響いてきた。
 
「見上げてごらん夜の星を」
 
これは愛する二人のささやかな幸せを歌った歌である。たとえ貧しくても二人が愛し合っていれば、幸せだと歌っている。
 
その歌を聴きながら、知らず知らずのうちに涙が溢れてきた。私はこの歌に歌われるような幸せを結婚で得ることはできなかったという悲しみの涙だったのだろうか。または、お金もない老後を一人で迎えようとしている先行きの不安の涙だったのだろうか。理由もわからず、ただ涙が出てきた。
 
もう50歳を超えている。
今はまだ50歳代で働けるが、もうすぐこの仕事もできなくなるだろう。今の内に何か資格をとって、もう少し歳をとっても働けるようにしたいと切実に思った。
 
そして資格を得るために大学に行こうと決心した。
 
貯金は全くなかったのだが、調べると奨学金というものがあり、今お金がなくても奨学金で賄うことができるとわかった。
 
そしてその大学は住んでいる家の近くにあった。ここなら、家から自転車で通える。交通費もいらない。
奨学金で授業料が賄えることはわかったが、仲居をしていては大学で勉強する時間はない。そして働かなくなれば生活費を長女に渡すことができなくなる。
 
私は大学に行くために、やっと慣れたこの仕事をやめることにし、大学に通いながら働ける短時間のバイトを探すことにした。
 
そして長女にそのことを話した。
 
「試験は受かりそうか?」
 
「分からへんけど、頑張るわ!」
 
「頑張って!」長女からは一応O Kをもらえた。
 
私は昔短期大学を出ていたので、大学の3年の編入試験を受けることになった。そして12月に行われた試験に合格することができ、次の年の4月にその大学に入学した。
 
4月1日に行われた入学式に長女が父兄として出席してくれた。
 
「あの、学生さんは1階に、御父兄の方は2階に行ってください」
私を見て係の人が声をかけた。
 
「はい」と言って、長女が2階のギャラリーへ向かい、私は入学式が行われる講堂に入った。
 
その大学は長女が卒業した大学でもあった。
 
そして2年が経った。大学の卒業式にも長女が父兄として出席してくれた。
 
そしてわたしの中にもっと勉強したい! という思いが湧いてきていた。
 
「院に進んで勉強したい」と長女に言うと、
 
「お母さんはわがままなんやから……。院の入学試験は受かりそうか?」と聞いた。
「分からへんけど、頑張るわ!」
 
「頑張って!」
 
そして、院の合格証書が送られてきた。
 
「あんな、〇〇(長女の名前)。院の勉強は大変らしいから、バイトしてる暇、なさそうなんや。バイト辞めてもええかな、生活費入れられへんけど……」
 
「そうなん?」さらりと長女が言った。
 
それから数日後のある日、長女が少しかしこまった顔で私に言った。
「ちょっとそこに座って」
 
生活費をもらえなくなるのは困る、と言われるのか、それとも……
何を言われるのか見当もつかなかった。
 
少し緊張して長女の前に正座した。彼女も私の前に正座した。
そして紙袋を前に置いた。何が入っているのだろう。
開けてみると
1万円札が束になって入っていた。
「これで、バイトせんと勉強して。生活費は入れんでええから。これは3人からや」
 
「そやけど、あんたら、これから結婚もせなあかんし、お金いるんとちゃうん?」
 
「3人で決めたんやし、もろといて。もうオカンのことはお母さんやと思てないから。」
 
どういう意味なのか図りかねた。
 
「お母さんじゃなくて、四番目の妹やと思てるから。我々のことは心配せんと、勉強頑張って!」
 
込み上げるものがあり、何も言えなかった。
 
そして院を修了し、資格を手に入れた。
 
そして、その資格を活かして働くためフィリピンに行くことになった。
 
「お母さんは本当にわがままなんやから!」
 
娘たちは空港まで見送りに来てくれ、そう言って笑った。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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