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地に足のついた快適さ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松浦哲夫(ライティング実践教室)
 
 
成人の睡眠時間はおおよそ6時間から7時間だそうだ。医療系の雑誌の情報なので信頼してもいいだろう。私自身も毎日の睡眠時間は大体6時間くらいだ。少々短いかもしれないが、6時間きっちり寝ると朝はスッキリ目覚めるし、その日1日気分がいい。
 
つまり人は、1日24時間のうち4分の1は寝て過ごすわけだ。一生涯に換算すれば、途方も無い時間を寝て過ごしていることになる。
 
しっかりと睡眠をとること、睡眠の質を上げることの重要性は多くの人が知るところだが、ある出来事をきっかけに、私自身もまた睡眠、特に寝具に強いこだわりを持っていることに気づいた。今回はそんなお話である。
 
先日、友人が我が家に遊びにきた。私はあまり人を家に招待する方ではないが、その友人は昔からの知り合いで、人となりをよく知っているので、特になんの抵抗感もなく我が家に招待した。
 
友人は手土産を持ってきてくれた。渡された包み紙は有名なデパートのもので、包み紙を丁寧に剥ぎ取ると、中は見るからに高級品とわかるクッキーの詰め合わせだった。友人は私も嫁も甘いものが大好きなことをよく知っており、その心遣いがとても嬉しかった。
 
友人を席に案内、紅茶と手土産のクッキーをテーブルに並べると、すぐに談笑が始まった。真剣な話もあれば冗談で笑うこともあり、とても貴重で有意義な時間が過ぎてゆく。
 
そうして話していると突然友人が席を立った。お手洗いを借りたいという。もちろん拒否する理由などない。私は快くトイレの場所を伝えた。友人が部屋を出て2分ほどすると水洗トイレの水が流れる音が聞こえてきた。手を洗った後でまた席に着くだろう。まだまだ話し足りない。私は紅茶のおかわりの準備のために、キッチンで湯を沸かして友人の戻りを待った。
 
ところが、なかなか戻ってこない。水洗トイレの流れる音が聞こえてから2分ほど経過している。どうしたんだ、と不思議に思ったところで友人は戻ってきた。そして席に着くなり言った。「ねえ、ベッドってどこにあるの?」
 
どうやら友人は我が家のベッドを見ようとしていたらしい。わけを聞くと、友人は大手家具メーカーの営業マンで、ここ最近はベッド販売を担当しているらしいのだ。そのためマーケティングも兼ねて各家庭のベッドを見せてもらっているという。しかし、我が家にベッドはなく、寝具は専ら布団である。そういうと友人は少々驚いた様子だった。
 
「今時珍しいね、なんで布団なの?」
 
友人の質問に対する答えに私は迷った。私自身布団にこだわりがあるわけではなく、布団で寝ることの理由など考えたこともない。もちろんベッドだって快適だ。たまに出張に行けばビジネスホテルのベッドで寝ることもあるが、本当にふかふかで心地よく実に快適だ。
 
我が家にベッドを設置したい、と考えたこともある。ベッドの利点は何と言ってもマットレスの寝心地、そして押入れに片付ける必要がない利便性だ。ホテルでの心地よさを自宅で味わえると考えると、ついついベッド購入に気持ちが傾いてしまう。
 
ただ、である。出張や旅行で2、3日のベッド生活を経ると、どうにも布団が恋しくなっている自分に気がつく。カチカチの床にペラッペラの敷布団を敷き、掛け布団をかぶせる。もちろんマットレスのようなフカフカ感などない。敷布団に横たわると床の硬さをダイレクトに感じるが、なぜかそれが快適なのだ。マットレスとは比べようのない快適さだ。「地に足のついた快適さ」とでも言うのだろうか。一方のマットレスはフカフカで快適だが、つかみどころがなく安定感がない。「地に足がついていない」のである。
 
布団とベッドの違いは睡眠の質にも現れる。自宅の布団で寝ると朝までぐっすり、夜中に突然目がさめるなどと言うことはほとんどない。一方、ベッドで寝ると睡眠は浅い。よほど疲れていれば朝までぐっすり眠るが、そうでない場合、夜中に目覚めてしまうことがある。特段尿意をもよおしたわけでもない。
 
また、布団は1日の活動にメリハリをつける点でも有効だ。朝起きて布団を押入れにしまうと、「さあ、ここから1日頑張ろう」という気持ちになる。その日を終えて布団を敷けば、「1日の疲れを癒して明日に備えよう」という気持ちになる。改めて気づいたが、私は布団の出し入れによって1日の生活にメリハリをつけているのだ。
 
人は1日の4分の1の時間を睡眠に費やしている。100歳まで生きた人であれば、その人が睡眠に費やした時間は実に25年にもなる。途方もない時間だ。その貴重な時間を悔いなく過ごすために、私は「地に足のついた快適さ」を求め、ベッドではなく布団で眠りたいと思う。
 
そういった理由で我が家にベッドはなく、夜は布団で寝ている。私がそう説明すると、友人は興味深そうにうなずき、いつの間にかメモ帳にペンを走らせていた。大手家具メーカーでベッドの販売を生業としている友人にとって、私の話はあまり聞き心地の良いものではなかったかもしれない。ただ、私は布団にこだわっているわけでもないのだ。もし私が求める「地に足のついた快適さ」を実現するベッドが登場したならば、きっと私は今の布団生活に別れを告げるだろう。
 
プライベートでも仕事に邁進する友人、近い将来、そんな商品を私に紹介してくれるかもしれない。我が家にベッドが来たらどんな睡眠生活が待ち受けているのだろう。我が家の理想的な将来の姿を想像して少しほくそ笑む私であった。
 
 
 
 
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2024-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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