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「子供を産みたいなら出世は諦めろ」と言われた会社で学んだこと。「諦める」ことは、「カッコいい」のだ


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記事:K子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
日本には、『石の上にも三年』という言葉がある。
例えば転職などで人生の方向転換に迷うときに、誰かからこの言葉をかけられる人は少なくないだろう。
そこにはどことなく、「諦める」より「こだわる」方がカッコいいというニュアンスが含まれている。
 
しかし本当にそうだろうか?
私が「子供を産みたいなら出世は諦めろ」と言われた会社で学んだことについて書きたい。
 
 
私は新卒で、世界各地でインフラを作る建設会社に入社した。
アフリカをはじめ途上国にも多くの社員を派遣する会社だった。
当時は100名ほどの新卒社員の中で総合職の女性はたったの3名。役員どころか課長クラスでさえ女性はゼロだった。
それでも、「途上国を支援したい」という熱い夢を持つ私にとってはこの会社が最適な場所で、この会社で出世することが夢への道だと信じて入社した。
 
配属された部署では出世のための暗黙のルールがあった。
それは、20代で1回、そして30代で1回の計2回、海外駐在することだった。
 
入社から数年が経ち、私についにチャンスが巡ってきた。
ひとつ上の代の先輩が海外に飛び立ち、次に空いたのは女性でも就労ビザがおりやすいA国でのポストだった。
周囲からも、次は私が選ばれるだろうという声が上がっていた。
 
しかし、忘れもしない6年前の冬。
部長から部員一同へ一斉送信されたメールを見て、私の頭は真っ白になった。
メールには翌月から派遣される海外駐在者の名前が書かれていた。そこに私の名前はなかったのだ。
失意の中で一人暮らしのアパートに帰宅すると、先走って勝手に始めたA国語の検定試験の合格通知がポストに届いていた。
泣きながら、その通知を破って捨てた。
 
選ばれなかった理由には、心当たりがあった。
以前、私がふと「いつかは子供を産みたいです」とつぶやいた際に部長から言われた言葉だった。
「女性は若いうちに1回海外駐在させても、30代で子供がいるともう行ってくれないじゃん。男性なら単身赴任で行けるけどさ。だから、子供産むなら出世は諦めたほうがいいよ」
 
今になって思えば、ほかにも理由は沢山あったはずだ。
しかし当時の私は、女性だからという理由でチャンスを奪われたとしか考えられなかった。
悔しい、悔しい。こんなところで、諦めたくない。
怒りに任せて部長に正面から楯突いた。
そのとき、救ってくれたのは新入社員研修でお世話になった別の部署の先輩だった。
 
先輩は、部長に噛みつく私をとりなして飲みに連れて行ってくれた。
その場で私が自分の不遇を嘆くと、先輩はあっけらかんと言い放った。
「あるあるだよ、そんなの。諦めればいいんだよ」
既に何度も海外駐在を経験して、会社のエリート街道を走る先輩に私の気持ちなんて分からないでしょう!
そんな言葉が喉から出る手前で、思い出した。
私はこの先輩が諦める瞬間を、何度も見たことがあったのだ。
 
先輩とは、配属前の新入研修で私が数ヶ月間だけ派遣された海外の建設現場で出会った。
その現場では日本ではありえないような出来事が沢山起こった。
運ばれてくるはずの機材が、海の上で海賊に盗まれて届かなかった。
建設に反対する島民のデモで、事務所の壁がボコボコになるまで石を投げつけられた。
どんなに頭のいい人が事前に考え尽くしても、思いつかないようなハプニングばかりだった。
 
ハプニングが起こるたびに、プロジェクト全体をコントロールする立場の先輩は、諦めていた。
ピンチを切り抜けられないと分かれば、数ヶ月かけて考えた計画でも勇気を持って諦めて、切り捨てていた。
限られた時間で大きなモノを建てなければいけないこの会社では、ひとつの選択肢にこだわるだけではゴールにたどり着けないことが沢山あったのだ。
そして諦めたあとも、プロジェクトは止められない。
だから必ず再び前を向いて、死にものぐるいでプロジェクトのゴールにたどり着くための別の道を探していた。
そんな諦めてばかりの先輩は、とてもカッコよかった。
 
 
私は結局、この会社にこだわることを辞めて、諦めた。
会社を去る決断をしたのだ。
 
諦めることは、傷つくことだった。
私がこの会社での出世を目指して頑張った時間は戻ってこない。今後の人生でA国語を使うことも、きっとない。
諦めると、頑張ってきた過去の自分に「ごめんね」と謝らなければいけない。切ない気持ちで一杯になった。
 
諦めることは、勇気が要ることだった。
この会社は、私のスペックで入社できたことが奇跡のような場所だった。そんな場所を捨てて、他の会社に行ったところで本当に夢に近づけるのか? 今以上に過酷な場所だったらどうするのか?
未知なる道へ進むことに、不安で一杯になった。
 
諦めることは、頭を使うことだった。
会社を辞めても、私の人生は止まること無く進む。
生きるためにお金は必要だし、若い時間は限られている。
私は子供を産みたい。生物学的に何歳がタイムリミットだろう? それまでにどんなキャリアを積むべき? どこでならそれが出来る?
次の選択肢を作るために、頭を一杯使って考えた。
 
諦めなければ、傷つくことも、勇気を振り絞ることも、頭から湯気が出るほど考え尽くすことも無かった。
しかし、退職して6年たつ今。
私は自分が産んだ2人の娘に愛を注ぎながら、子育てに理解のある会社で、一歩ずつ夢に近づいている。
あのとき諦めたことは決して無駄ではなかったと思う。
 
今まさに、人生の岐路に立ち「こだわる」と「諦める」の間で葛藤しているあなたに伝えたい。
人生は、時間が限られたプロジェクトだ。
ひとつの選択肢にこだわるだけでは、目指すゴールまでたどり着けないこともある。
諦めることは、負けや怠けではない。
傷つくし、勇気が必要だし、頭を使うカッコいいことなのだ。
もしあなたが人生というプロジェクトを成功させるために何かを「諦める」という決断をするのなら、そんな「カッコいい」自分にどうか誇りを持って欲しい。
 
 
 
 
***
 
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2024-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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