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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:美村 悟 (ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
30年ほど前まだ関東に住んでいた頃、
千葉県の某港の岸壁から海に車が転落することがよく続いていた時期がありました。
 
その頃は一般車両も港の岸壁近くまで入ることが出来ていたので
(現在はほとんどの港湾施設にはゲートが設置され夜間は立入禁止になっている)
夜間、港の中を車で走り回る連中が誤って海中に転落したり、車ごと入水自殺を図る場合もあり多い時には2週間くらいの間に3台転落してその都度依頼があり引き揚げに行くことも。
 
その日も会社に捜索依頼の連絡があり私しかいなかったので一人でいつものその港に向かいました、
今回は新車で夜間走り回って遊んでいた公務員がハンドル操作を誤り海に転落したけどもすぐに窓を開けることが出来たので車が沈む前に脱出して九死に一生を得たようでした。
 
上司に付き添われてシュンとしている当人にその時の状況を聞き
岸壁の車止めに残った接触跡、タイヤ痕、進入角度とスピードでだいたいの場所を予測し引き揚げ方を打ち合わせる、
 
通常の車だと海に前進状態で転落するとしばらくは浮いていて徐々に車内に海水が流れ込み重たい車両前部から沈んでいく、
今回の車両はリヤエンジン車なのでいつもとは沈み方が違うだろうとは思いつつ
目星をつけた位置に引き上げ用のワイヤーをクレーンで降ろしそのワイヤーに沿って潜り始める。
 
視界は約2m位、
着底するとそこには海底のヘドロの中にテーブルのような物が……
でも4面にガラスが入っていてテーブル面のように見えた面には四角い開口部が開いている、
よく見るとテーブルのように見えたのは車の屋根の部分で開口部はサンルーフだった、
海底から車の屋根の部分だけが出た状態でヘドロに埋まっている!
水中無線電話で陸上に「車はあるけど違う車、車体のほとんどが埋まっているので相当年数経っているみたい」
と連絡を入れ目当ての車を探し始める。
 
ある程度視界がいいのと海底に降りてしまうと濁って何も見えなくなってしまうので海底から1m位上を泳ぎながら、
岸側から沖側にまっすぐ進みおよそ20m位で90度方向を変え
護岸と平行に2m位進み90度方向を変えまた沖側から護岸側に見落としがないように左右を確認しながら進んでいく
護岸側に到着したらまた2m位平行に進みまた沖側に進んでを繰り返していく。
 
あみだくじの様に移動しながら捜索開始した場所から30m位は水平移動したかなと思っていると海底から突き出たテーブルのような物が見えてきた……
確認すると先ほどの車だった!
「何で?」
 
先ほどの車から右方向に30mは移動しながら海底を確認していたのに!
 
頭の中が??? になりながらも気を取り直しまた右方向へ進んでいく、
 
「2mほどは見えているので間違うはずがない……」
 
「水平距離で30mは移動したのに…… 元の位置に戻っているなんて???」
 
今度は自分が通ったところが分るように少しずつ海底に跡をつけていった。
しばらく進んだが目当ての赤い車は見つからない。
そしてまた目の前に現れたのはまたしてもあの海底に埋まった車!
 
また同じところに戻って来ている……
 
こんなことは絶対にありえない!
 
たとえ全く見えない所でも、
 
手探りでも
 
きちんと移動できる自信があった……
 
やっぱりこの車、中にいる!
 
もう一度同じように右方向に移動してみた
 
海底に付けていった跡も確認できる……
移動方向も間違っていない……
でもいつの間にかまた元の車のところに戻っている!
絶対にこんなことありえない!
夕方から捜索し始めたので暗くなってきたこともあり
この日はもう無理と判断して翌日に捜索しなおす事にした。
 
機材を片付け帰路に就くが何度も何度も来ているこの場所で道に迷っている!
 
あの車! 絶対駄目な奴だな……
あの場所のすぐ近くで自分が知っているだけでも他に2台の車が転落している……
 
今回転落した方も
「何が何だかわからない、 いつの間にか海に落ちていた!」
と言っていた。
 
何度か同じところをぐるぐる回ったようだったが何とか自宅にたどりついた、
自宅に着く前に妻に電話して
「家に入る前に塩を振って」と連絡しておく、
捜索をした日は自宅に入る前に必ず清めの塩を振るようにしている。
 
だが夜中妻に起こされた
 
「家の中、誰か歩き回ってるんだけど!」
 
間違いない!
 
あの車中に入っている!
 
何としても自分の存在を知らせようとしている!
 
翌日目当ての転落した赤い車は船から音探(海底形状をグラフ化する器械)をかけて探しかなり離れたところから引き揚げた。
 
本来ならこれで終わりなのだが、あの埋まっている車をそのままにしておくと又ほかの車が引きこまれそうなので
「あの車、中に(人が)入っていると思うから絶対に揚げたほうがいい!」
と警察、保安庁にも進言してまたその翌日に引き上げることに。
 
翌日、ヘドロの中に埋まっている車を両サイドの窓をハンマーで割り天井部分にワイヤーを通して引き揚げる、
車周囲はブルーシートで囲って周りから見えないように
車の中はサンルーフから入ったヘドロで一杯になっていて確認できない、
 
自分たちの仕事はここまでなので帰り支度を始めていると警察から車の中の確認をしてくれと……
車の中がヘドロで一杯なのでポンプで洗い流さないと確認できないとのこと、
まあ仕方ないかとポンプで海水を汲み上げ車内のヘドロを洗い流しながら探していく、
予想どおりに中からご遺体を見つけたが完全に白骨化していて相当な年数ここに沈んでいたようだ。
結局車中から二人の方分の遺骨を回収し、
警察の捜査で約十年前に行方不明になった方だと判明した。
 
十年もの間この海底に沈んだままだったので
気付いてほしかったのだろう……
 
翌日昼頃この件の窓口になっていた建設会社の担当者A氏から電話があった
 
A氏「美村さんのところにも来た?」
私「何が?」
A氏「夢なのか現実なのかわからないけど、昨日の二人が枕元に立って『ありがとうございました』って言いに来た」
「はっきり顔も見えたので今警察に行って顔写真見せてもらった」
「間違いなくその二人だった……」
 
私「自分のところには来ないと思いますよ、『お礼はいいから成仏してください』って思ってやっているから」
 
 
 
 
***
 
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2024-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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