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鏡の向こう側からこっち側を見る

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:R.I(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
いつもの日常がマンネリ化してしまった。同じことの繰り返し。
そろそろだ。
そろそろ私は旅に出る時だった。
 
昨年の終わり頃から、定期的に外側から自分の置かれた場所を見つめてみたくなった。
定期的に行き来することで見えてくることがある。
学生時代に一度地元を離れたが、それぞれの場所にあるものとないものが見えてきた。
今目の前にあるものが全てではないことを理屈ではなくて感情で理解したかった。
 
行き先は京都と決めていた。
東京は学生時代、少し遠出をすれば行けたのでなんとなく土地勘はある。
だが、京都に行くには時間もお金もかかる。また、関西の文化はなかなか触れることがなく、身近に関西に長く暮らした人もいない。私にとってはまさに知らないことだらけの非日常なのだ。
 
そんなわけで非日常の京都に一人、桜が咲く前に私は行ってきた。
 
非日常の京都は想像がつかない。近道もわからない。知らない道だらけ。
そして久々の京都で暖かくて、私は完全に浮かれていたと思う。
 
そんな中、急に事件は起きた。いや、私がひき起こした。
昼時になり、落ち着いた感じのお店で食事を食べたくなり、暖簾がかかっていたのでまだ入れるのか聞いてある和食のお店に入った。
カウンターに座っているお客さんは5名ほどだったが、私以外は昼前に並んで入ったらしい。店主の方とのやりとりが隣から聞こえてくる。
私以外のお客さんは、そのお店に来る前に調べてきたようだった。一方、私はというと看板を見つけて入ってきてしまった。
私は関西と言えばあっさりしたお出汁の効いた味、という料理の知識は素人レベルだった。
だが、そのお店で出てきた料理はどれもしっかり味が染み込んでいて、私がイメージした味とは違っていた。
私はそれを京都風だからなのだ、と決めつけてしまった。
そんなことを考えて食べているうちに、他のお客さんは食べ終わってお金を払って帰って行った。
私は、味が想像していたものとずっと違っていたことを店主の方に伝えたくなった。
『京都の味付けって想像していたのと随分違って美味しかったです。』
 
この後の返答を想像できるだろうか。
 
店主は静かに答えた。
 
『別に京都風ってわけではないです。』
 
私は言葉が出てこなかった。
明らかに言ってほしくなかった一言だったことがわかった。
 
私はお金を払い、足早にお店を後にした。
 
帰りの電車で数時間、私はモヤモヤしながら家に戻った。
非日常は確かに味わえたけど、後味の悪い旅行だったな。
 
家に帰ってきて、少しずつ冷静になってきた。
 
そういえば。
私が言われたイラっときたことって何だっけ。
そうだ。先月、初対面の人に私の職種のことを説明したら
『決められたことをやっていればいいんですよね』
と言われ、カチンときた。
単純作業だと思っているんだろうな。私は言われた直後に状況に応じて色んなケースがあることを伝えた。そうか、その人の知っている知識だけで、目の前にいる私の話も聞かずに決めつけたんだろうな。そこまではわざわざ言わなかったけど。
 
そこまで思い出して、ああそうか、私は同じことをしていたんだ、とやっとわかった。
あのお店の店主の方は、きっとこだわりを持って味を追求してきたのだろう。他には真似できない味や作り方を研究したのだろう。それをよくわかっていない急に来た観光客の私に、適当なまとめ方で感想を言われてカチンときたのだろう。失礼なことを言ってしまったんだ。
 
結局のところ、何が不快にさせたのかわからない。私が受付を終了したお店に押しかけていたのかもしれない。一見さんだから、そういう対応だったのかもしれない。
良くも悪くも一期一会。
 
 
それでも非日常の中でないと起きないことだったと思う。
同じ毎日を繰り返していたら、知らない人とこの衝突をすることもなかった。
そして、私は突然の出来事に対して不快に感じ、悲しくなった。そして痛感した。
 
鏡の向こう側とこっち側のように、非日常と日常は違うのにどこか似ている。
 
またあの非日常の場所に行くことはあるのだろうか。
流石に今回は私も凹んでしまったが、苦い思い出を塗り替えるためにまたあのお店に行くことはあるのだろうか。
私はまた会ったら今度は何と言うのだろう。
今はまだ想像ができない。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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