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桜咲く頃、涙していた君へ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:春澤 寛善(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
“本当に、ついに終わった“
 
私はベッドに横たわり、ただただ呆然と天井を見上げていた。
窓から暖かい風が顔をかすめ、
太陽の温かみが感じられる、高校卒業式を終えた直後だった。
 
私は幼少期から、両親の教育方針でアイスホッケーを習っていた。
広島県という土地柄でありながら“氷上の格闘技“をすることになったのは、
自治体の支援を得て「社会への融和」と「青少年育成」を目指すクラブチームがあり、
更には「恐怖心を傍らに注意深い人間に育って欲しい」という親の願いが重なったのがきっかけだった。
社会人からジュニア層までが一貫して参加しており、
屈強な体が猛スピードで激突する光景は、幼児の目には壮絶に映り恐怖でしかなかった。
ただ、この環境で育ったことが後に大きな経験値となり、ジュニア時代では有望選手までに成長していた。
中学3年生の段階で、特別推薦を活用して“行きたい大学”を選択させられ、いわば将来を約束されていた。
 
高校時代は普通の公立高校へ進み、勉学しながら全国有数のホッケー選手になることを目指した。
余談であるが、中学時代にお世話になった“心の師匠”ともいえる理系大学生の家庭教師のおかげで、
数学だけはテストで満点を取るほどの得意科目だった。
 
高校でのホッケー戦績は国体でチーム7位、
個人では表彰制度こそないが得点ランキングでTOP5に入る実績を残せた。
アイスホッケーは氷上の競技であり、北海道や青森など北国では特に盛んなスポーツである。
真逆に位置する広島県の高校生が活躍するなど、とても想像つかない結果だった。
幼少期から読み続けていたアイスホッケー月刊誌に選手紹介で記載され、まさに夢見心地だった。
 
高校3年生になり、大学進学は申請書類さえ間違えなければ順当に進むものと確信していた。
学校では周囲が大学受験に焦燥している中、自分だけは違うと優越感に浸っていた。
後に悲劇になることを知らずに……。
 
秋から冬へ季節が変わる頃、
信じられないニュースが舞い込んできた。
 
進学予定だった大学の学生が賭博事件で逮捕されるという、
全国一斉に報道されるほど衝撃的な内容だった。
辛うじて安心できたことは、アイスホッケー部の学生は一切関与していないことだった。
 
“書類さえ間違えなければ行けるはず“の大学に、暗雲が立ちこめていた。
 
それから一ヶ月後、
1年先に同大学へ進学していた兄から連絡が入った。
電話口の向こうで息が切れているのがわかった。
 
「ダメだ。たった今、全ての部で特別推薦枠を閉鎖することが決まったらしい」
 
“嘘でしょ、この俺が行けなくなるの?”
恥ずかしながら、頭に浮かんだのはこんな言葉だった。
 
その後に一般試験を受けたが、記念受験のようにあしらわれた。
同じ境遇で受験した者もいたが全員不合格だった。
 
そして、ついに高校卒業式を迎えた。
“浪人”とは無縁であると確信していたが、
もはやどうすることもできない自分の非力さに絶望し、
ベッドの上でただただ呆然と天井を見上げていた。
まるで沼に沈んでいくような感覚だった。
悔しさと孤独に涙がこぼれた。
 
日が経つにつれ、
父は次第に激しく叱咤してきた。
母は落ち込み口数は少なかった。
両親は共働きで朝から夜まで仕事につき、
姉も兄も私大へ行ったことで、時間も経済的にも余裕はなかった。
 
これ以上お金はかけたくないため予備校は行かなかった。
決意が芽生えた美談ではない。
受験した大学から「次回こそ推薦枠を復活させるので身体だけは鍛えておいてくれ」との要請があったのだ。
この言葉に期待してはいけないと思いつつ受験対策は曖昧だった。走る以外は。
桜が散ることなど意に介さず、
早く来年になって欲しいと願っていた。
 
夏になる頃。
恥を忍んで現役高校生に混じって塾に通っていた。クセの強い先生の英語授業だけは面白かった。
周囲の高校生から失笑されている気がしたが、
俺にはホッケーがあるのだと、言い訳しながら開き直っていた。
姉が地方から帰省し、受験には触れず明るく会話してくれた。
 
紅葉実る秋。
両親は複数事業をしており、商事会社と飲食店を営んでいたが、
その日は商事のオフィスで夕飯を食べていた。
突然兄から連絡が入り、
“もしかして推薦が決まったのか”と、はやる気持ちを抑えて電話にでた。
 
「ダメだ、この大学。受ける価値ない。結局何も変わらなかった。もう他の大学へ行ってやれ!」
私を諭すためか、兄は自身が通う大学を批判しながら電話の向こうで憤慨していた。
 
「それは仕方がないね」
そう言って受話器を置き、
親の顔を見るのが辛くすぐさま電車に乗って家路についた。
乗り換え含めて電車移動で約1時間、
ずっと涙が止まらなかった。
父の悔しそうな顔、兄の悔しがる声、動揺する母の顔が、
ずっと頭の中で巡り、涙が溢れ続けた。
 
この日を境に、父も母も厳しい言葉を言わなくなった。
きっと両親は満身創痍だったに違いない。
 
ある日、
母から父が営む飲食店で夕飯を食べようと優しい笑顔で誘ってきた。
“行っていいのかな”
受験対策しなければいけない時であること、
自分に気を遣わせていることに罪悪感があった。
お店に到着し、
遠慮気味に客席に着いた。
そこには、父が丁寧な手つきと口調でお客様に食事を提供する姿があった。
心身ともに疲れている身体で、
そこまでやるのかと思うくらい、一つ一つが繊細なおもてなしだった。
 
食事をしている最中であったが、無性に涙が溢れそうになる感情に耐えきれず外に出た。
“俺は馬鹿野郎だった”
淡い期待を持ち、大した努力もせず漠然と過ごした日々。
大切なことが何も見えていなかったことに気づかされた。
 
そして、自分への怒りをはっきり自覚させるために、己に向けて大声で叫んだ。
「何が“浪人は辛い”だ。結局俺は何の努力も苦労もしようともせず、ただ浮かれていたんだ。この大馬鹿野郎!」
 
“俺もやらねば。
残された猶予はあと三ヶ月。
やるべきことは分かっている。
もう何も考えるな。
絶対にやる!“
 
その日から、
得意だった数学を軸に、
塾の英語マニアから教わったテクニックをもとに机にかじりついた。
暗記本は手垢でひどく汚れ、指にできたペンだこの痛みは爽快だった。
 
それから、月日がたち、
桜が咲き始める頃……。
 
その日も郵便局員がバイク音を鳴らして自宅ポストに投下した。
焦るも走らずポストに向い、一通の封書を手にした。
“薄い”
不合格通知書のパターンだった。
“やっぱりダメだったか“
 
その30秒後、
思わず口にした。
「えっ、俺の番号があるじゃん!」
その封書には他とは違い、案内状と合格番号一覧だけが入っていたのだ。
“やった! これでまたホッケーができる!”
 
その興奮と同時に、氷が溶けていくような感覚もあった。
“これでみんなを安心させられる”
 
呼吸を整え家族へ報告した。
母は、ただただ安堵した表情で微笑んでくれた。
兄と姉は電話の向こうで喜び笑っていた。
父は、特に言葉を発さなかったが、
後日上京する際、空港で窓を見ながら涙ぐんでいるのが分かった。
 
機上では、雲の上で太陽の光がまっすぐ差し込んでいた。
“行ってきます。必ず大きく羽ばたいてきます”
心に強く誓った。
 
入学式では桜が華麗に舞っていた。
 
桜咲く頃、涙する少年よ。
己を知り、授かる全てに感謝し、
強みをもって諦めなければ、
必ず道は拓けるぞ。
私もずっとこの言葉を忘れないで生きていく。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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