メディアグランプリ

教科書から伝わるエール


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記事:おまど(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「今日の宿題は、全部の教科書に丁寧に名前を書いてくること。ちゃんとネームペンで書いてくるんやで!」
毎年、始業式や入学式の日に、私が必ず出す宿題。
新しいクラスとクラスメイト。
そして、折り目のついていない、まっさらな教科書たち。
生徒たちにとって、どきどきワクワクのその日が今年もやってきた。
 
いつもこのときになると、私が必ず思い出すエピソードがある。
それは、私の教科書の裏の名前のこと。
 
私の教科書の裏は、必ず母の字で私の名前が書いてあった。
学生時代、何も考えたことはなかったが、いつもそこには母の字があった。
4月の入学式や始業式の日。
家にたくさんの教科書を持ち帰ると、次の日の朝、すべての教科書に私の名前が母の字で書かれ、机の上にキレイに積まれていた。
「自分の名前ぐらい、自分で書くから置いといて!」と年齢が上がるにつれていつも言っていたのに、高校を卒業するまで、私の教科書の裏には必ず母の字があった。
 
大人になり、教師という仕事をするようになって、母に初めてこの教科書の名前の件について聞いたことがある。
「そういえばお母さん。なんでいつも私の教科書に名前書いてくれてたん?」
「そのこと? だってお母さん、あんたが小学校2年生のときに、絶対子どもの教科書には私が名前を書いてあげるんやって決めたから……」
「なんでなん?」
そのとき、母は少し恥ずかしそうに、私も忘れていた思い出を教えてくれた。
 
私には、8歳下に弟がいる。
弟が生まれたのは、私がちょうど小学2年の始業式手前の春休み。
母は、産院で1週間ほど入院していた。
毎日毎日、弟と母に会いに、私は産院に一人で通っていたらしい。
春休みが明けて新学期が始まってからも、毎日毎日、学校を出てから家と反対方向の産院まで、大きなランドセルを背負って遠い道を歩いて通っていた。
 
その日は始業式。
「2年1組になってな、担任の先生は1年生のときと一緒の先生やねん!」
その日も母に、たくさんその日あった出来事を話していた。
そして、「こんなにいっぱい教科書もらってんで! お母さん、見て!!」
お母さんに新しくもらった教科書を渡した。
母は、「お母さんな、今から赤ちゃんにおっぱいあげなあかんから、また明日話そう」
母がそう言うと、いつもは「わかった! また明日来るな!!」とすぐに帰る私が、その日はもじもじして帰ろうとしない。
なんでだろうと思いながらも、母は「また、明日話そう!」と私を送り出そうとした。
「……うん。ばいばい……」
教科書をすべてランドセルに戻し、元気なく私は産院を出た。
母も、急に元気が無くなった私を心配していたようだが、次の日もいつもと変りなく産院に来た私を見て、安心したらしい。
 
それから数日して、母は弟と退院し、家に帰ってきた。
そして、私の勉強机の上に置いてあった私の教科書を見て、母は涙が出た。
すべての教科書の裏に、私の字で「ながの円か」と書かれていた。
1年生で習った「円」という字だけは漢字で、それ以外は不揃いな平仮名で。
「あ、そうか。この子は、教科書に名前を書いてって言いに、わざわざ重い教科書を全部持って、遠い産院まで一生懸命歩いて来たんだ……」
それから母は、私が「自分の教科書の名前ぐらい自分で書くから!」と言っても、私が見ていない間に教科書に私の名前を必ず書いていた。
 
この話を聞き、小学2年の時の出来事や気持ちなんて、もう忘れてしまっていたけれど、手書きの名前に込められた母の思いが少しわかったような気がした。
中学、高校と年齢が上がっていくごとに学校で過ごす時間が多く、家にいる時間は確実に短くなっていった。
土日でさえも、部活で1日中いない日が多かった。
でも、私が不安なく学生時代をどんどん過ごしていけたのは、教科書の裏に、必ずそこに母がいたからだと思う。
きっと、文字から母のエールを感じていたんだと思う。
 
私が大学を卒業し、教師という仕事をするようになり、「自分の教科書ぐらい、自分で名前を書きなさい!」なんて言っていったことを思い出す。
でも、このエピソードを聞いた今は、教科書の裏に保護者の方の字を見つけると、「おうちの方がエールを送ってくれてるんだね!」と言える自分がいることに気づく。
じゃあ、自分にできることは何だろう。
 
私の学級通信の第1号目は、毎年必ずクラス全員の名前を手書きしている。
4月の会議で、初めて自分のクラスの生徒たちが誰かがわかってから出迎えるまでに、この第1号にたくさんの時間をかけて。
「この子たちが、どうか1年間、楽しかったと思えるクラスにできますように……」
1人1人の名前の意味を考えながら、心の中で何度も呼名をしながら。
1文字1文字に、思いを込めて。
これが愛情ってものなのかな……、なんて。
 
母の思いに、少しは近づけているかな。
これが私のエール。
少しでも届いていますように。
 
 
 
 
***
 
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2024-04-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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