メディアグランプリ

一瞬の過ちを避けて輪ゴムのような人間関係を築く


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
大学時代からの友人である彼女のお家に招かれ、手作りの美味しいランチを頂きながら和やかにおしゃべりをしていると、つくづく思う。
あの時、彼女に決定的な態度を取らなくて本当によかった、と。
 
彼女は大学時代から周囲に比べると精神年齢が高く、いつも落ち着いた様子だった。周囲で私たちがケラケラと単純な事で笑い転げるのを「ふふふ」とお姉さんみたいに見守ってくれていた。
 
卒業後も一緒にコンサートに行ったり、飲みに行ったり、と楽しい時間を重ねた。彼女が結婚してからも交流は続き、私は彼女の赤ちゃんに会いに行ったりした。
 
穏やかな関係性に少しの変化が訪れたのは、私が第一子を出産してからだった。
 
「予防接種は受けに行ったかな? スケジュールを立てるのが大変だから要注意だよ」
「湿疹とか出てない? このお薬をもらっておくと安心だよ」
「オムツ替えの時はティッシュを丸めておしりの近くに置いておくと防波堤代わりになっていいよ」
 
ママとして何年も先輩である彼女は、その良さでもある世話焼きの部分を全面に出して「赤ちゃんと快適に暮らすライフハック」のメッセージを沢山送ってくれた。
 
最初のうちは「うんうん、なるほど」と素直に聞いていたのだが、次第にそのアドバイスを聞くことにストレスを感じ始めた私は心の中でこう叫んだ。
 
シャラ――――――――――――――――――――ッッップ!!!!!
 
彼女に対する気持ちが小爆発を起こした。
でもそう思ってしまうのにはいくつか理由があった。
 
まず出産後に陥る「ガルガル期」である。
ガルガル期とは、出産したばかりの女性が外敵をガルガルと威嚇し、母性本能から気性が荒くなる時期のことを言う。これは子供を一緒に育む夫にさえ向けられる可能性もあるのだから、他人なら尚更である。
 
次に私が過度の緊張にさらされていた、という事がある。
既に実母が他界していた為、産後はそれまで年に1~2回しか会った事がない義母の世話になった。義母は控えめで優しい人だったが、それでも同じ屋根の下に暮らすとなるとリラックスとは程遠く、肩がガチガチになるほど気を遣った。
 
更には、第一子がまあとにかく泣く赤ちゃんで、右往左往するだけで毎日は過ぎていき心底安心して眠ることが出来ない日々が続いた。
 
とにかく疲れていた。
誰ともしゃべりたくなかったし、誰の指図も受けたくなかった。
とにかく放っておいてくれ、そんな気持ちだった。
 
その頃、唯一心を許していた遠方に住む姉に電話して愚痴ると、姉はこう言った。
「まあ、その子も悪気はないんじゃない? 辛いときは『うんうん』って適当に流しておいて大丈夫だよ」
 
まったく同じ立場で、義母の世話になりながら二人の子供を産み育てた姉の話はすーっと胸に染みた。このアドバイスで私は友人の事も自分の事も責めないと決めた。返信が辛い時は時間を置いたし、それについて彼女が何か言ってくることも無かった。
 
そのうち、彼女は旦那さんの転勤により各地を転々とすることとなる。気軽に行き来できる距離ではなくなった私たちは連絡を取る回数もぐっと減った。
 
転機が訪れたのは、彼女の次の転勤先が、なんと我が家と同じ校区であるのがわかった時だった。心の中で小爆発を起こしたあの時から約6年の月日が経ち、そのわだかまりはもう消えていた。
 
最初こそ、先にそこに住む者として何か教える側にまわる事もあったが、しっかり者で世話焼きの彼女は次第に本領を発揮した。
 
「子供たち連れてうちに来ない? 一緒にご飯を食べよう」
「ゼッケンもう縫い付けた? まだだったら娘の分と一緒にやるから持っておいでよ」
「預かり先がないの? 家で遊ばせとくから連れておいで」
 
不器用で計画性に欠ける私はあらゆる面でリードしてくれる彼女にたくさんフォローしてもらった。包容力のある強い優しさに触れ、急激に色濃く思い出すのは出産前のことだった。彼女はただアドバイスをするだけでなく出産の準備についても手伝ってくれたのだということを。出産を控えていた私が彼女の家を訪ねた時、赤ちゃんグッズのアレコレをキャリーケースに詰めて持たせてくれたのだ。
 
私はこれから始まる赤ちゃんとの生活を思い浮かべながら、キャリーケースを引いて自宅に戻った。亡き母や遠く離れて住む姉を頼ることは出来なかったが、その分親身になってくれる彼女の優しさがそこには詰まっていた。
 
会えなかった数年の間に、お互い色々な経験を更に積んだ私たちは以前にも増して深い話をするようになった。私の愛してやまない祖母が亡くなった時、その話をすると彼女も同じように泣いた。そうだ、彼女は情に厚くて人の気持ちに寄り添う事のできる人だ。忘れかけていた大事な事を私は思い出した。
 
あの時も今も限りない優しさを向けてくれる彼女に対し、私のひと時のコンディションの悪さで、手中の宝石を手放すような馬鹿なことをしなくて本当によかったと心から安堵している。
 
世間では断捨離やミニマリストという概念が浸透し、いらないものは捨てるという生活が理想的に映る。それは人間関係に関しても同様で「嫌いな人からは距離を置く」という言葉もよく耳にする。ただ、人間関係においては一度こちらから手放したものは同じ関係性で元通りになることは難しい。だからこそ一瞬の「キライ!」に惑わされるのは危険だとも思うのだ。
 
人間関係は伸び縮みする輪ゴムのようなものかもしれない。ある時は急速に縮んで近づき、ある時はお互い認識できる程度に離れる。その時々によって距離感は同じでなくてもきっと良い。
 
自分が快適と思う距離感で、相手への最低限の敬意は必ず持つ。相手がくれる優しさに目を向けつつ、この先もっと軽やかで自由で温かい人間関係を築けたら幸せだ。
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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