メディアグランプリ

順調の中にある落とし穴


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記事:春澤 寛善(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
“負けるはずではなかった”
遠い記憶にある苦い想いが蘇った。
 
スポーツでもビジネスでも、
「うん、良い調子だな。なんか妙だけど、きっと上手くいく」
といった感覚は幾度かある。
気の充実、心の張り、すっきりした視界、みなぎる気合い。
失敗する不安よりも“何とかできる”という思い。
 
でも、なぜかそんな気持ちで挑んだ時に、
試合で敗戦することやビジネスで失敗することがある。
そんな時は早く忘れてしまいたいと思うのだが、
これが逆に記憶の中でしつこく残っている。
 
私は幼少期からアイスホッケーをしていたが、
ジュニア大会で2年連続優勝という実績を残せたことがある。
万年1回戦負けチームが急成長して連勝街道を進んだ。
試合会場では知らない人が私の名前を話題にしたり、笑顔で声をかけられたり、ライバルチームの選手からは友好的に話かけられるなど、注目されていることが間違わず自覚できるほどだった。
 
そんな時に、大事な試合で過去勝利した“負けるはずのない”チームにあっさり負けたことがある。
試合中に何か歯車が噛み合わない感覚。
手を抜いていた訳でも、走りを緩めていた訳でもない。
でも、何かが“ハマらない”感覚。
試合中に気持ちだけ空転している、形容しがたい感覚は今でも記憶に残っている。
“あれは何だったのだろう……”
 
現役引退してもう約30年が経つ。
そんな遠い記憶は心の倉庫奥で埃をかぶっていたのだが、引き出して考えずにはいられない言葉に出会えた。
 
これからそのキッカケとなった日本サッカー代表にまつわる話になるが、少々お付き合いを願いたい。
近年サッカー日本代表の躍進ぶりは多くの国民でも知られているが、メディアでも“常勝軍団”とつい最近まで呼ばれるようになっていた。
“なっていた”という過去形なのが、この話の“鍵”である。
 
サッカー日本代表は「世界一」になった野球“侍ジャパン”と比べると戦績は劣るが、
アジア予選を突破してワールドカップ本戦出場を果たしたのは7回連続を記録している。
また、2022年ワールドカップでは“勝利は絶望的“とされたグループリーグでドイツやスペインという優勝候補と対戦して見事に連破し、決勝トーナメントへ進出した。結果的にはベスト16で終わったが、ベテラン選手と海外で活躍する恐れ知らずの若きスター達の投入が功を奏し、
世界中のメディアも「日本は今大会一番のセンセーショナルだ」と大きく報じた。
 
その大会後も、国際マッチで強豪国といわれる相手に勝利したが、毎試合4ゴールを挙げての連勝だった。
強豪国に“実力で連勝した”ことで“常勝”というイメージにつながった。
 
当初メディアがこの表現をした時、私は時期尚早ではないかと思ったが、
勝ちパターンがあるチーム成熟度を見て「なるほど」と私も納得させられた。
しかし、そんな順調な時期は長く続かなかった。
 
2024年1月に『アジアカップ2024』がカタールで開催された。
日本の国際ランキングはアジア最高位にあり、戦績から文句なしの優勝候補だった。
世界オッズでも“日本優勝”が最高確率とされ、日本国内では“若手選手が経験を積む大会”と見ている人もいた。
しかし、結論からいえばグループリーグ2戦目で伏兵イラクに「1-2」でよもやの黒星をつけられ、
決勝トーナメント進出こそしたものの、ベスト8であっさりと敗退となる“まさかの結末”だった。
一部のエース級選手が離脱したことも原因かもしれないが、
大会途中から選手同士ちぐはぐする場面が多く、強く違和感が残った。
何が問題だったのか。何が原因だったのか。
 
メディアで各サッカー解説者が持論を展開する。
監督の指揮、選手の怪我や交代のタイミング、相手戦術への対策不足、などなど。
どれも正論であろう。
しかし、なぜあの急ブレーキがかかるようなスランプに陥ったのだろうか……。
“あっさり敗退”したことにはしっくりこなかった。
 
いくつか紙面を踊る活字の中に、元日本代表監督の岡田武史氏が実体験をもとに語った記事が目についた。
「ずっと良い時って、日本人って美学に走るんですよ」(※1)
まさに、これこそが最大の敗因であるかのように語っていた。
 
“美学?”
思わずそう感じたが、そこには興味深いことが書いてあった。
 
「目の前の相手に勝つことよりも、俺たちのサッカーはこうだとかね。ちょっとそういう域に行ってた。これ結構苦労するなと」(※1)
是が非でも勝ちたいと“捨て身”で挑んでくる相手には負けてしまうという主旨のことを指摘していた。
 
なるほど、この要素は確かにある。
今回アジアカップでは欧州など海外リーグで活躍していた若手中心で構成されていたが、
今後さらにビッグクラブに移籍したいと目論む選手が多かったに違いない。
そうした背景から、“勝ち負け”よりも“印象に残るプレー”を無意識にも優先してしまった選手がいても不思議ではない。
また、アジア王者としてふさわしく横綱相撲をするような戦いをしようと自負していたに違いない。
おそらく、この元日本代表監督が指摘した“美学”はあながち的外れではないであろう。
 
私も、淡く苦いアイスホッケーの記憶を辿ってみれば、
優勝候補と謳われていた時、自身のプレーだけでなく周囲からの歓声によって“羨望されていること”に意識が向いていたように思う。
自分のプレーだけでなく、立ち姿や表情までも気にかけていたことがあった。
周りの目を過剰に気にするあまり、
勝ち負けよりも“自分の技術が優れている”ことを魅せつけたい、更に認めてもらいたいという思い。
ひらたくいえば“綺麗に勝ちたい”という自惚れ。
“いつか負ける時も来る”という不安がよぎる時は、
“かっこ悪くない敗者”としてどうあるべきかを考えることすらあった。
いつしか、相手のことも自分のことも見えなくなり、
“勝ってきた”という自負心だけで挑んでいた。
いやしくも、慢心を抱きながら。
いざ試合で劣勢になった時、
焦燥感だけが先立ち、何も対策できず“タイムアップ”になった、あの瞬間。
虚しさや儚く寂しい気持ち。
淡く残っていた若き日の苦い記憶。
その原因が何であったか、その答えが見えてきた。
 
見るべきは常に自分であり、
相手や周囲であり、
そして自分なのだと。
 
自分が今何を考え、
周囲事象を正しく捉え、本当に一番何を求められているのかを理解する。
そして、それを邪魔する“妙な自我”が芽生えていないか自分の心へ確認する。
 
ことわざの『好事魔多し』にあやかり、
順調なときほど気を引き締めようと自覚はしていたが、
これからは“心の目”を磨き続けることにも意識していく。
 
もし、今も何かで上手くいかず悩んでいる人がいれば、
一度は自身の深層心理へ目を向けてみてほしいと願う。
きっと意外なところに原因が見つかるかもしれない。
 
 
 
 
***
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2024-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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