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「びっくら」寿司店は4歳の仕事場だ


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記事:きむらあや(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「初見の人の感想」は極めて貴重なものである。
当たり前だが、あらゆる体験における「1回目」は人生で一度きりだ。
私は、自分が何となく通過してしまった「1回目」を、誰かが体験しているのを目の前で見て追体験するのがとても好きだ。
夫に、自分が読んで衝撃を受けた展開のある小説を読ませ、リアルタイムで感想を共有させたりしている。
 
生まれて4年と少しのわが子には、「まだ体験していないこと」に満ちあふれている。
少しずつ「1回目」を増やしていく様子をそばで見せてもらっているが、その様子は私の人生も豊かにしてくれるような示唆に富んでいると感じる。楽しくておもしろい。
 
先日、わが子を連れて回転寿司店を訪れた。5皿食べるごとに、抽選に参加でき、当たればちょっとした景品がもらえる、某チェーン店。わが子は初めての回転寿司店である。
いつも「混んでいるから」「寿司あんまり好きじゃなさそうだから」と思って連れて行ったことがなかったが、お寿司がレーンに載って流れてくるという衝撃の体験の「1回目」の反応をみるには今がベストだと思った。
 
週末で混雑が予想されたため、午前中からネットで順番の予約を取り、万全の態勢で臨む。少し待って、ついにテーブル席に案内された。
広い店内を縦横無尽に駆け巡る寿司のレーンをみて、「おすしがうごいてる!!」と大興奮のわが子。自分のもとに流れてきたえびを見て「とってもいいの?」と嬉しそうだ。
 
うんうん。ここまでは予想の範囲内。でも、この店の目玉は「びっくら抽選」だ。
 
子と私と夫と、3人でめいめいに好きに寿司を頼み、食べ、いよいよ皿が5枚たまったので、子どもにテーブルの隅の投入口に皿を入れてもらうことにする。
 
「ここにお皿入れてくれる?」
「ここ?」
 
まずは1枚、恐る恐る、という顔で、皿を入れる。テーブルの上の皿を子どもの前に集めて置くと、2枚、3枚と投入してくれる。
そして、5枚入れるころには、なぜかわが子の目の色が変わっていた。
投入口の隣に置かれている注文用タブレットで始まっている、抽選の演出は一切目に入っていない。目玉だと思っていたのに……。
 
自分は寿司を食べることもそこそこに、親の取った皿が空いた瞬間、すかさず「おさらいれるね~!」と半ば奪い取り、ひたすら入れまくる。
 
この寿司店であれば、抽選の演出を楽しむんだろうな、と勝手に思っていた私は、「皿を入れること」にドはまりしているわが子の姿はあまり予想していなかった。
 
確かに、皿を入れる感覚は、大人がやってもちょっと気持ちがいい。
500円玉を貯金箱に入れるときと似ているような。
存在感のある大きなものが、入るか入らないか、ちょうどの大きさのスキマに滑り込んで消えていくのを見ていると、毎回「入るかな?」というちょっとしたスリルと、「入った!」という気持ちよさを感じる。何度もやってみたくなる気持ちもわかる。でも。
 
「かーちゃんたべおわった? そのおさら、いれようか?」
それにしても、皿投入への執着がすごい……。
 
本人にインタビューしてみた。
「お皿入れるの上手だね、どうしてそんなにたくさん入れてくれるの?」
「おてつだいだから。『入れて』ってたのまれるとうれしいから」
とのことだった。ふむふむ。
 
私は、わが子4歳にとっての「皿投入」は「やりがいのあるお仕事」なんだと思った。
「皿を入れる」ことそのものは、おもしろくて好き。
親は皿が空くと「入れて」と頼んできて、入れると「ありがとう」と言ってくれる。
「好きなことで人の役に立つ」ことで、達成感と充足感を得て、自信がつくできごとだったのだろう。
 
回転寿司店でわが子の自己肯定感が上がるとは全く思っていなかった。
子どもに、得意なことでお手伝いをしてもらって、しっかり感謝する機会をきちんと作ってあげないとなあ、と、改めて思いながら、エンガワを噛みしめる。
 
親子3人で21皿、「びっくら」抽選は4回できて、1度だけ当選した。
景品のボールの中には、パンダが寿司の衣装をつけているイラストの箸置きが入っていた。
 
夕食のとき、喜んで箸を置く子の姿を見て、いつもはかえって時間がかかるので、親が自分でやってしまいがちだけれど、家族の分のお箸と、ごはんの配膳をお願いすることにした。
 
わが子は、次は何の「1回目体験」を見せてくれるだろうか。夏はキャンプ、花火大会会場に行ってみたい。今年の冬こそは、スキー場で雪遊びをしてみたい。わが子との生活は、やっぱりおもしろくて、楽しみだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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