メディアグランプリ

素敵な街に行ったのに書きたいことが見つからなかった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Aiko(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「やだよ、こんな所に住みたくない」
同行していた相方は、コンテンツ感満載の街を前にして宣言した。
 
ライティング講座を受講し始めて約1ヶ月。仕事の領域を除いた私生活からネタを探そうとしても人様に伝えたいほど書きたいことなんて案外無いと気づいてしまったので、女子旅がてらロケハンに出かけることにした。行き先は、バラが咲き誇る横浜・みなとみらい。素敵で映えるものに事欠かない、東京近郊の非日常スポットだ。
 
いつの間にか開通していた上野東京ラインという驚くほど速い各駅停車に乗り、上野からわずか30分で横浜へ。そのままJRで中華街を抜け「石川町駅」に到着。ここからロケハンを始めた。
 
改札を出たら中華街や有名な商店街とは反対方向の上り坂へ向かう。ガレージ付きの大きな一軒家に、「高級車」というよりも「馬力のありそうな車」が走り抜ける高級住宅街は、兵庫県の芦屋に少し似ている。
 
少し歩くと、石垣を覆う小さな赤い薔薇が目に入った。手入れが行き届いたローズガーデンが最初の目的地であるお屋敷だ。
 
「昔、外交官が住んでたらしいよ」と、相方が壁に掲げられた説明書きを読み上げ、二人してその頃の光景を想像する。
 
「えーめっちゃ広いじゃん。ずるい」
「でも、お金を払うのは向こうでしょ?日本の外交官も海外で良い家に住んでるらしいし。スイスでは広くて利便性の良いファミリーマンションに住んでるって」
「ああ、友達がエレベーターがすごかったって言ってた。小説とか映画に出てきそうな、扉の前に柵があるやつ」
 
外交官のお家事情……なかなかに面白そうなテーマだけど、自分の経験談では語れない分野だ。頭の片隅にとどめつつ次の目的地へ向かう。
 
2軒目のお屋敷にはサンルームがあり、立派な鯉のぼりが泳いでいる。ベッドは小さいけど。
 
「うわ、家よりこっちの方がいいじゃん!」
屋敷から出た相方が目を輝かせる。幾何学模様に刈り込まれた生垣、庭の端に設置されたフェンスの先には、横浜の海辺が広がる景色が見える。
 
「いやーこんなエリアに住めれば毎日色々思いつきそうなのに」
「やだよ、こんな所に住みたくない」
コンテンツ感たっぷりの街にキラキラした目を向けた私へ、同行していた相方はそう宣った。
 
「なんで?」
「だってここは遊びに来る所だからいいんじゃん。誰かが手入れしてイベント作ってくれて、ウチらは見るだけで十分。てか、この感じ、毎日はいらないし」
なるほど。そういうものなのか。
 
そこから見晴らしの良い高台エリアを歩くこと約10分。
 
「うわ、ホーンテッドマンションじゃん」
現れたのは外国人墓地。今や観光ガイドにも載っている、明治時代の鉄道職人らのお墓だ。海外式らしく、土葬の風習を匂わせる巨大な十字架がずらりと並ぶ光景は、この日の一番の異国感に満ちていた。
「あの石の十字架、折れないの? 新しいのかな」
 
そんなことを話しながらもう少し行くと、現れたのは立派な教会。
 
「うわ、なんかのロケ地になりそう」
「ステンドグラスあるじゃん!」
足を踏み入れようとしたが、入り口に立て看板。
 
「観光客は入っちゃダメだって」
どうやら日曜日の礼拝中らしい。こんな非日常に日常が根ざしているのは不思議だ。
 
「そういえば、地元にキリスト教系の保育園ができたんだって。友達が家から一番近いって理由で子供入れたんだけど、なんか『頑張る時に十字切るようになったの! 絶対まだ意味分かってない』って面白がってた」
「まじか。小学校はうちらと同じ公立のA小学校行ったんでしょ?」
「そうそう」
 
あそこは宗教を理解できるほど文化レベルの高い土地ではなかったはずだ。アーメン。
 
「で? この後どこ行く?」
時刻はすでに夕方4時。明確なスポットを目指すなら、日没前が最後のタイミングだ。
 
バラの季節だし、イベントも景色も話の種になると思って来たけれど、行き当たりばったりではロケハンも迷子になる。テーマ探しは難しい。
 
「美術館の方で現代アート展やってた気がする」
「え、ちょっと調べるわ」
 
「あー……なんか違うかも」
探訪ルポや口コミをチェックした相方がスマホを差し出してくる。なるほど、確かに我々が求めていたキラキラ感、話のタネ感とは若干趣が異なりそうだ。
 
ネットの海には、人を「行かない気」にさせるパワーを持った文章が溢れていた。
 
コスパ・タイパ重視世代なので、出かける、文章を読むといった能動的な行動の先には「得た感」が欲しくなる。現代アートを見に行けば自分が欲しいものが得られるかというと、ちょっと違うと考えたわけだ。
 
では、このロケハンでネタを探すにはどうすればよかったのだろう?
 
人に伝えたいことを能動的に探す、ということの難しさを実感したのが今回の収穫だった。
「こんな所に住みたくない」ほどに消費者向けの街に行っても、なかなかネタは集まらない。
 
もしあなたがロケハンに行くなら、何を求めてどこに行きますか? 「見て見て聞いて!」の感動を求めるなら、事前にどんな情報を集めますか?
 
秋にも再び薔薇の季節がやってくる。自分としては間違いなく行けば良い気分になる場所だった。きっと行けば幸福度は上がると思う。
 
この感動を切り取って皆さんに伝えるにはどうしたら良いか、考えながら過ごしてみようかと思う。
では。ひょっとしたら、また秋の横浜で。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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