メディアグランプリ

時代に乗れない父をガラパゴス化させておきたい娘

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:珠海(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
 私の父はガラケーという2つ折り携帯の愛用者だ。
私も含め、父以外の家族はスマホを利用している。
 
 私がスマホを使い始めたのは2013年だった。当時、街中では若い人たちを中心に、少しずつスマホを使う人を見るようになった。職場や友人など、私の周りでもSNSを利用する人が増えてきたが、各携帯会社のキャリアメールで特別困ることはなかった。だが、私のスマホ購入の大きなきっかけとなったのは、店頭でのタッチ決済や、駅の改札をスマホで通過する姿をみて、「カッコイイ」と感じたことだった。
 スマホを使うと決めたのはいいのだが、機種選びに時間がかかった。IT系に弱い私が、スマホを持つことは一大事だった。当時は携帯会社によって扱う機種も異なっていた。色々な事情や状況を吟味した結果、世界中でユーザーが多いという機種にした。今となっては信じられないが、当時のその機種では、タッチ決済や鉄道の改札などのアプリは対応しておらず、憧れのタッチ決済などはできなかったのだが、持っているだけで自己満足感を高めてくれた。
  
 IT系に弱いのは私だけではない。両親も妹も同様にIT系には弱い。私がスマホを使い始めてから遅れること4年。結婚を機に、ようやく妹がスマホを持った。
 
 5年前、母が突然スマホを持つと宣言した。すでに実家から離れた場所に住んでいた私が最初に思ったことは、「色々聞かれたら面倒だな」だった。簡単なスマホ操作のことを聞かれるぐらいなら答えられるだろうが、こまかいことは答えられない。身内だからこそ、素直に聞いてくれないこともある。
 
「スマホ教室に行ってね」
考えた末に私が母に言った言葉だった。
 
私がスマホを持った10年前にもスマホ教室はあったのだが、開催回数は少なく、代わりに携帯会社に操作方法を相談することも可能だった。今は基本的な操作方法については、各携帯会社で開催されているスマホ教室で習うことができる。
母はさっそくスマホを契約したと同時に、スマホ教室へ参加した。慣れない指での操作に、使い始めは苦労していたが、すぐに慣れたようだ。元々パソコンも仕事で使用していた経験と、好奇心旺盛な性格が幸いした。帰省すると、スマホについて聞かれることもあったが、私と機種が違うのでわからないことも多く、娘をあてにすることもなかった。スマホの機種変更をしても、自力で使いこなす母に、私は面倒を感じることはなかった。
 
 
我が家で唯一の化石。
それは父のことだ。
 
父にも数年前から、携帯会社からスマホへの機種変更の案内が頻繁に届いた。父は頑としてスマホ使用を快諾せず、逆にどうしたら今の携帯を使い続けられるか聞いていた。父にとっての携帯電話は、通話とキャリアメールだけで充分だったのだ。
 
その父が、ここ1年ほどスマホに興味を持ち始めた。
誰かが置いてあるスマホを見つけては、スマホについて聞いたり触りたがるのだ。
最近では、小さい子どもからスマホを守るように、父の前でスマホを置かなくなった。
 
父は昔から頑固な人だった。
父も新しい物に興味は持つのだが、自分がわからなければ簡単に諦めてしまう。一方で、強い興味があるものに対しては、教室に通ったり詳しい人に聞くなど、よく言えば探求心が強い性格でもあった。
父は理解するまで何度も同じ質問をするので、聞かれる方は大変だ。質問に答えてくれる人を決して逃さない父はスッポンのようだ。
 
父がスマホを持つと、自分が操作方法を理解できるまで、しつこく母や近くに住む妹に聞くのだろう。
母は好奇心旺盛なだけあって社交的だ。対して父は頑固なだけでなく人見知りもある。スマホ教室に通わせても、わからないことはその場で聞いたりせずに、帰ってきてしまうだろう。
 
 父がスマホを購入したことを想定してみた。
 
 
 スマホ教室に参加。
 操作方法をわからないまま帰って来る。
母に聞く。
父が理解するまでに時間がかかる。
母がイライラする。
夫婦喧嘩勃発。
母が私と妹に父の愚痴を言う。
 私と妹もイライラする。
 
 
父もいつかはスマホに慣れるのだろうが、それまでの道のりを考えると途方に暮れる。まさに家庭内戦争になりかねない状況だ。
 
「何としても父にスマホを持つことを諦めさせよう!」
と決意する一方で、
「新しい興味に取り組むことは、認知症予防に良いのではないか」
と、普段は影を潜めている優しい娘の私が、頭の中で囁くのだ。
 
 
 家族で集まっていると、父が聞いてきた。
「お前たちが使っているグループは、わしは入れないのか?」
 
 母は誰よりも早く答えた。
「お父さんは入れないよ。だから私が色々と話しているでしょ」
 
 
母も父がスマホを持つことを防衛したいのかもしれない。
父と長く時間を共有している母は、私以上に、父へスマホを教える煩わしさへの恐怖を抱いているのかもしれない。
 
 
私は父のガラパゴス化存続は、家庭内平和を守ることに繋がっていると確信した。
 
 
「お父さん、今の特殊詐欺は巧妙だから、スマホを持ったら被害にあうかもしれないよ」
 
優しい娘の私は、スマホに興味を示す父に、今日も優しく話すのだった。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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