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これって、何の略なの?


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記事:山田THX将治(ライティング実践講座)
 
 
「何故、日本には“〇〇コン”という単語が多いんだい?」
 
と、私に問うたのは、英国人の知り合いだ。
彼は、流暢な日本語を操るものの、在日期間は未だ1年半程の英国紳士だ。彼と私は、最近仕事上で知り合った仲だ。
私より数歳年下の英国人は、海外生活自体が長く、駐在先となった日本の自然が気に入り、遂に家族迄も日本に呼び寄せてしまっていたそうだ。
その上、可能な限り日本で暮らすとも言っている。
 
 
映画やスポーツ(ラグビーやF1)といった趣味が共通した私達は、年代が近いこともあり、直ぐに打ち解けた。特に彼は、英国人にしては珍しく、ビールも紅茶も好まなかった。
これは、全くの下戸の上に、コーヒーばかりをガブ呑みする嗜好の私には、大変好都合だった。何しろ、酔いが回った外国人のたどたどしい日本語は、想像以上に聞き取りにくいものだ。
 
 
彼と知り合った御蔭で、私は一つ知恵が付いた。或ることを教えてもらったからだ。
それは彼と初めて逢った際、私が何気なく発した、
 
「Are you English?」
 
と、いう中学校の授業でも習いそうな一言に始まった。
彼はすかさず、低い声ながら強めの語気で、
 
「No! I’m Irish!」
 
と、答えてきた。
彼は、北部アイルランドのベルファースト出身だった。
私は十分に詫びを入れ、受け入れてもらうことが出来た。
それからというもの私は、日本人が一般的に“イギリス”と何も気にせず呼んでしまう国名を、必ず“英国”と呼ぶ様に心掛けた。
書く際には、“U.K.”と略すようにした。
 
そう、一般的な“イギリス”の正式国名を日本表記すると『グレート・ブリテン島及び北部アイルランド島連合王国(United Kingdom)』と為るのだ。
 
 
そんな彼は、日本語に略語が多くて理解に苦しんでいた。
特に“エアコン”“パソコン”“ミスコン”といった、カタカナ表記で略す外来語の“〇〇コン”の意味を理解出来ずにいたらしい。
私は一つ一つ、“エアー・コンディショナー”“パーソナル・コンピュータ”“ミス(を選出する)コンテスト”と解説せねばならなかった。
それからというもの私は、誰もが使用するコンピュータを“P.C.”と呼び、書する様に為った。
 
反対に、日本語表記する“就活”“婚活”“終活”といった略語は、漢字なので意味が掴みやすく、彼は好んで使っていた。
私は、漢字・平仮名・片仮名、時にはアルファベットも併用する日本語は、難しいかも知れないが、優れた言語だと自慢げに彼に話した。
 
更に、
 
「日本語には“魂”が宿っていると言われているんだ。『言霊』といってね」
 
と、近くに有った紙に走り書きして知らせた。
普段はつっかえてしまう『言霊』が、スムーズに書くことが出来て安堵した。
彼は、妙な納得をし、余計に日本語が好きに為った様子だった。
 
 
そんな彼と或る時、家電量販店へ同行することに為った。
家族を呼び寄せるにあたり、家電を揃える為にだ。私も丁度、乾電池や電球といった消耗品が必要だったので好都合だった。
 
私は彼を乗せた車を、郊外の大型量販店の駐車場に停めた。
そして、入口に在る案内板の前に立った。ロス無く、店内を見廻る為にだ。
家族生活に必要な、冷蔵庫・洗濯機・掃除機といった白物家電(この表現も、彼は気に入っていた)の場所を確認した。
次に、
 
「日本製のテレビは、抜群に機能が優れているから、時間を掛けて選びたい」
 
と、いう彼のリクエストに応えて、AV機器コーナーの場所も確かめた。
 
 
AV機器コーナーを確認していたら、見慣れない(聞き慣れない)片仮名略語が表記されていた。
そこに在ったのは、『ミニコン』の文字だった。
彼は、
 
「“ミニコン”って、何だ? 可愛い女性のコンテストでも遣っているのか?」
 
「それは、“ミスコン”だろーか!」
 
私は、英国紳士らしからぬ彼のボケに日本語で突っ込んだ。
 
「じゃ、“ミニコン”って何?」
 
と、彼は尚も聞いてきた。
私は、一瞬“ミニコン”の意味を失念していた。小さなP.C.では無いことは明白だったが。
そこで仕方なく、
 
「黄色いアニメキャラクターのグッズでも売っているんじゃないか?」
 
と、とぼけて答えてみた。
すると、今度は彼が、
 
「それは、“ミリオンズ”!!」
 
と、すかさず突っ込んで来た。
だいぶ、私との会話は、嚙み合って来た様だ。
 
彼の日本語でのツッコミは鋭い。少し修行すれば、パトリック・ハーラン(パックン)氏に負けない漫才師になることが出来るのではと、私は思ってしまった。
なんといっても彼は、オックスフォード大学の卒業生だ。ハーバード大卒のパックンにだって、学歴負けしていないのだ。
 
 
暫く看板を眺めていた私は、
 
「あっ、そうか!」
 
と、声を上げた。
“ミニコン”が、何の略かを思い出したからだ。
 
“ミニコン”とは、“ミニ・コンポーネント”即ち小型のステレオことだと思い出したのだ。
 
 
量販店のAV機器コーナーへ行くと、“ミニコンポ”為る小型セット・ステレオが並んでいた。
私は思わず、
 
「これは、コンポじゃない」
 
と、独り言のように呟いた。
英国人の彼は、不思議そうな表情だった。
この顛末を説明するのは面倒だった。何故なら、“コンポーネント・ステレオ”為る和製英語を、ネイティブ英国人に説明しなければ為らなくなるからだ。
私は彼に、
 
「名称を略し過ぎると、こうなるんだよ」
 
と、無理やり納得させようと言ってみた。
彼は納得していなかったが、
 
「こういうのを、“略活”と言うんじゃないの」
 
と、実に日本的な切り返し表現をして来た。
 
私は、意外過ぎる彼の発想に、思わず吹き出しながら、
 
「そりゃ、傑作だ」
 
と、答えた。
 
 
北部アイルランド生まれで、日本語が堪能な英国紳士。
 
私は思わず、彼とコンビを組んでM-1にでも出てみようかと考えた。
 
 
もしかしたら、第二の“パックンマックン”に、為ることが出来るかとも。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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