メディアグランプリ

隙ありと見抜かれ海に沈んだコロッケパン


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:izmy(ライティング特講)
 
 
鎌倉で一人旅。
長谷寺で観音様をお参りしながら桜を見て、江ノ島の温浴施設で夕焼けを見ながら温まり、リッチにラグジュアリーホテルに宿泊する。
 
翌朝、浜辺に座って海を見ながらブランチをしようと、ホテルのペストリーショップでコロッケパンを買った。
 
七里ヶ浜に腰を下ろし、持参していたポテトスナックをひとカップ全て食べる。
ホテルベーカリーのコロッケパン、さぞ美味なのだろうと楽しみにビニールの包みをあける。
いままさにシャッターチャンス、というくらいに満面の笑みだったはず。
大きな口を開けてちょっともったいぶりながらゆっくり顔を近づけたその瞬間。
 
コロッケパンが消えた。
私はただの一般人。マジックではない。
海へ抜ける風。
大きな羽を広げた鳥は視界のど真ん中でホバリングをしながら、海面にボテっと何かを落とした。
 
「私のコロッケパーン! 獲るならちゃんと食べろー!!!」
 
ホテルの高級コロッケパンはほぼ原形のまま、海に沈んだ。
 
音もなくかっさらうトンビの狩猟能力には驚いた。
鳥ならもっとバサバサと翼の音が聞こえると思っていた。
ほんのちょっと風だけ残して、一瞬で奪うのだ。
 
それからは食べ歩きをするたびに上空を何度もキョロキョロしながら
「いまヤツが狙っているから気をつけて!」
と注意喚起して思い出話をする。
その話を何度も聞いている家族は「はいはい、コロッケパンね」と呆れ顔。
 
それから約15年後。
再びやられたのだ! 
 
青空いっぱいの気温25度超えの八景島。
磯にかがむ人や、アオサギのようにずっと首を下に向けてアサリを探索する人々で溢れていた。
ゴールデンウィークらしい光景。
海の公園の潮干狩りエリアから少し離れた波打ち際で磯遊びをした。
 
春の磯は、貝やお魚たち、アメフラシなど、海の生き物たちがたくさんのたまごを産み、命をつなぐ素敵な場所だった。
 
ひざ下まで海の中をじゃぼじゃぼと歩きながら、夢中で生き物探しをしていたら、お腹ぺこぺこ。
 
気温は高めでも海水はまだ少し冷たい。
足を乾かしながら、ひなたぼっこをしたい気分だった。
 
売店で焼きそばとチュロスを買う。
シナモンシュガーたっぷりのチュロスは子どもの頃からの大好物だ。
 
近くにあった大きな石の上に座った。
お尻があたたかい。天然岩盤浴のようにじんわりと熱が伝わる。
 
空を見上げるとトンビが旋回していた。
いつも見かける1羽2羽のレベルではない。人の多さに比例しているかのように10羽くらい上空を飛び回っている。
海岸は色とりどりのワンタッチテントで埋めつくされていて、日差しとハンターから身を守っている。
 
これは危ないぞ。
 
一口ほおばるごとに体の影にチュロスを隠して空を見る。
 
半分くらいまで食べると持ち手となる白い紙袋にすっぽりチュロスは隠れた。
用心すれば平気だ。
 
ふと目を逸らした瞬間。
「ギャー!」
芝生にバサっと紙袋が落ちた。
 
手の甲には赤い筋状の傷が1本、硬い翼が掠めた跡。
人差し指が少し赤くなっている。
何かが強く当たったようだ。
バッティングセンターでバットにボールがほとんど当たらない動体視力の持ち主は、何か茶色いものが通り過ぎた、くらいの認識でしかなかった。
 
指があることにホッとした。
猛禽類の大きくてガッチリ厚みもあって鋭いくちばしを想像するとゾッとする。
 
そして、私の足元に落ちたチュロスは紙袋入りだから、セーフ。
まだ食べられる!
 
屋根の下に移動して残りのチュロスと焼きそばをいただいた。
 
彼らの観察眼はすごい。
隠しているのに見透かしている、私の隙を。
 
それなのに、
「隙があるように見せた方がモテるようになるかもよ」
なんてアドバイスされることもある。
 
普段の生活は気張って「しっかりしてます」の顔をしているけど、実はほとんどの時間をぼんやり過ごしている。なぜ人間のオスは見抜けないのか? 
「なぜ私、モテないんだろう?」とか一言も相談していないのに、突然おせっかいなアドバイスをしてくれた男に聞いてみればよかった。
 
自分なりに考えてみると、隙があるから狙いにいくのではなく、甘くて美味しいものを持っているかどうかを検知してから隙を探すのかもしれない。
恋愛事情だけでなく、出世争いや人間同士のマウンティングなども奪いたい何かがあるから狙われてしまうのだろう。
 
私は私が手にした美味しいものは全部自分で味わいたい。
シェアしたいと思う場面があれば半分こするし、それは自発的な行動だ。
ぼーっとしていたら無くなっていた、は悔しすぎる。
抜け感や余裕は演出しても、隙はやはり見せてはいけないのだ。
 
15年経っても「あのコロッケパンはどんな味だったのだろう」とトンビの後ろ姿とコロッケパンが海のど真ん中に落下する様子が鮮明に思い出される。
そうだ、今年中にコロッケパン買いに行こう。まだ売っているかな? 
隙だらけの私へのリベンジ。次は絶対、海が見える屋根の下で食べるぞ。
 
ますます暑くなってレジャーの季節到来。
海辺のハンターに注意しながら今年の夏も楽しもう。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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