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子曰く、「四十にして、ぶっ壊せ!」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大場 安希子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「アコちゃんは、ブーダンノワール好きじゃなかったよね」
近所に新しくできたビストロで、メニューにある『猪のブーダンノワール』を見ていた友人が言った。
 
ブーダンノワールとは、豚や猪の血を使った黒いソーセージのことだ。
家畜のあらゆる部位を無駄なく使おうと、ヨーロッパを中心に古くから作られている伝統的な料理で、濃厚な味がする。
私は、ほとんど好き嫌いはないが、このブーダンノワールに限っては、できれば避けたい食べ物だった。ビストロを覚え始めた30代の頃に何度かチャレンジしたけれど、食べると胃がグッと重くなり、それ以上お酒を愉しめなくなるからだ。
 
この日も、軽快にお酒を愉しむため、「そうだねー、できれば別のがいいかなぁ」なんて答えたのだけれど、このお店は素材の良さにこだわっていて、どのお料理も少し変わったスパイスの使い方をしているのか、既知の食材をこれまでとは違った味を楽しませてくれることも知っていた。
そんなわけで友人は、私の返事を聞きつつも、「このお店の」ブーダンノワールを食べたい熱が高まっている模様。
分かる、すごく分かるよ……!
私もこのお店なら、と期待があって「じゃぁ、私はひと口だけいただくことにして、頼もうか」ということになった。
 
さて実食。
このお店のブーダンノワールは、腸詰ではなくテリーヌのような形状になっていて、カカオがかけられている上、林檎のペーストが添えられており、デザートのような風情。
「あれ? 美味しいな」
林檎のペーストが爽やかで、あまり重くなく、でもほんの少しのクセは残しつつ、ふんわりと口の中で溶けていった。
美味しかったので、ひと口と言いながら二口、三口と立て続けにいただいた。
「アコちゃん、ブーダンノワール食べてるじゃん! クララが立ったみたい!!」と友人。
過去にNGと決めたものが、ちょっとOKかも? に変わった43歳のある夜の出来事だった。
 
30代までは、世の中の色々なもの・ことにチャレンジして、「私ってこういう人」が固まっていくように思う。
孔子の論語でも『三十にして立つ』というから、一般的に自分を確立していく年代なのだろう。
その中で、好きなもの、得意なこと、嫌いなものというのも確立されていく。
IT業界でエンジニアとして働く私は、売るよりも「つくる」人として生きていこうと思ったし、「ブーダンノワールは苦手」「英語は嫌い」「ヨガもやってみたけど私には合わない」と結論付けた。
 
自分が確立された後に迎えた40代、論語で言う『四十にして惑わず』となるはずだったが、現実の私は惑いまくっている。
仕事では、プロダクトを市場で試す過程で営業活動も行い、売るために相手を調べて知って好きになっちゃうことがとても楽しいと知った。
だから、つくることにこだわらず「売る人」になるのもアリだと思った。
英語は嫌いで苦手だと思っていたけれど、ふとしたことから英会話教室に通い始め、外国人と話すこと、そこから相手のバックグラウンドや考えを知ることを純粋に楽しいと思った。
私には、この人を知りたいという興味の先に、その人と会話するための言語を習得するという自然な目的が必要で、ただ単語と文法を覚え、文章を読むだけの高校生までの英語の勉強にはその目的がなかっただけだ。
10歳下のカナダ人の先生と仲良くなって、お茶のお稽古に連れていったりもした。
外国人の友人ができたのは初めてで、こんなことが私の人生に起きるなんて、と思った。
先生がカナダに帰る前の最後のレッスンでは、二人で泣きながら手紙を交換した。
こうして、30代までで決めつけた色々なことは、ちょっとしたことで簡単に覆っていった。
意外で、嬉しい戸惑いがたくさんある40代を過ごしている。
 
ブーダンノワールの件もそうだけれど、自分で結論付けたことは、いちど壊してみてもいいのかもしれない。
四十にしてぶっ壊せ! だ。
 
そういえば先日、お世話になっている化粧品のアドバイザーの方に、「最近ハマってることとか、いつもこれ買っちゃうようなものってありますか?」と聞かれた。
「いつも会社の下のタリーズコーヒーで、ソイラテに蜂蜜とシナモンをトッピングしてもらいます。シナモンは風邪予防にもいいみたい」なんて答えたら、「試してみようかな」と言った後にこの質問の理由を教えてくれた。
他人が普段やっていることは自分にとっては新しいことだったりする。
この方は50代で、自分が凝り固まってきてしまうことに危機感を感じていて、それを打破するために他人の習慣や好きなものを聞いて、取り入れるようにしているのだと。
 
なるほど、50代でもぶっ壊したくなるのだ。
年を取っても柔軟な人でありたいと思っていたが、一見すると受け身のような柔軟な姿勢というのは、日々その細胞を壊して新しい要素を入れていくことで作られていく能動的なものなのだと、考えを新たにした。
 
ブーダンノワールの次は、何を壊してみようか。
実は、ディズニーは好きではないと決めつけて、いまだにアナ雪を観ていない。
あるいは推理することに楽しさを見いだせないと思って避けていたミステリー小説か。
先週、近所にできたヨガスタジオのチラシがポストに入っていて、何となく捨てずに取ってある。今なら入会金が無料だとか。
何度か試してダメだったヨガの壁、壊した先に何か待っているものがあるだろうか……。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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