勇敢な戦士たちの勲章はとびきりの笑顔だった
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記事:義永 直巳(ライティング・ゼミ2月)
先日、保健師で集まる会があり、新型コロナウイルス感染症の対応を振り返るというテーマで話を聞いた。この新型コロナウイルス感染症への対応の背景に、私たちの仲間である保健師たちのいろいろな物語があった。
保健所で新型コロナウイルス感染症の対応をしてきた中堅の保健師、新規採用でいきなり新型コロナウイルス対応の現場で働いてきた若い保健師、専門サポートチームで施設などの集団感染の対応をしてきた保健師、中央で宿泊施設や相談センターなどの調整をしてきた保健師など、それぞれの立場で当時のことを振り返りながら話をしてくれた。
ある中堅の保健師は、毎日朝から晩まで電話対応や疫学調査に追われていた。感染拡大初期には、何もかもが手探り状態で、日々変わる指針に従って対応するのは大変だったという。特に辛かったのは、住民からの厳しい言葉だった。「電話が繋がらない」「どうしてもっと早く対応できないのか」「私たちはどうすればいいのか」といった問いかけに、答えが見つからないまま対応することが多かった。その中でも、一緒に働く同僚の支えが大きかった。彼女は、毎晩遅くまで働きながらも、同僚と励まし合いながら乗り越えていったという。
一方、若い保健師は、採用されてすぐにコロナ対応の現場に配属され、経験不足の中で不安に押し潰されそうになっていた。新規採用の保健師で、未知のウイルスについての知識も乏しく、先輩保健師たちに助けを求めることが多かった。しかし、先輩たちはいつも優しくサポートしてくれたという。「最初は不安でいっぱいだったけれど、先輩たちの支えがあって何とか乗り越えられた」と彼女は振り返る。
さらに、専門サポートチームに所属していた保健師は、集団感染が発生した施設での対応に追われた。防護服を着て、日々、施設に出向き、感染予防や感染拡大防止対策を施設職員と一緒に考え対応した。施設の職員たちのガードが固いところを、指導ではなく支援したいということを強調して、様々な施設に入り込んでいったという。病院や高齢者施設で感染が発生すると、たちまち風評被害に晒される。慎重な対応が必要だった。そんな中でも、施設の職員たちが一丸となって感染拡大を防ごうと努力していく姿が見られるようになったという。
私は、児童相談所で組織のリーダーとして職員の健康管理や業務の調整などをしていた。保健所がとても逼迫した状態にあることを知りながら、自分の職務を全うするのが精一杯で、保健所の業務を手伝うだけの余裕はなかった。そんな中で、保健所から対応してほしいという家族の相談が何件かあった。両親が新型コロナウイルスに感染し、子どもらの世話をする人がいないという相談だった。私は、濃厚接触者の子どもたちが生活できる場所を探すことになったが、受け入れ先を見つけるのは非常に難しかった。それでも、少しでも保健所の人たちの役に立ちたいという気持ちで、子どもたちの生活場所を見つけ、対応した。
保健所の最前線で新型コロナウイルス感染症の対応をしてきた仲間たちの話は、過酷な状況だったことを物語っていた。それでも、未知のウイルスと対峙し、住民の健康を守ろうという気概に溢れていた。「使命感」と簡単に言うが、使命感だけでやり遂げられることではなかっただろう。皆が口々に言っていた「周りの人の優しさに助けられた」ということが大きかったのではないだろうか。刻々と変化していくウイルスの特徴を知り、その時の最善を考えながら、いろいろな人たちと繋がり対処していく。それを4年もの間ずっと続けてきたのだ。保健師だけではとても乗り越えられない。人は誰かの力を得て強くなれるのだ。
保健師会の後、同期の保健師で懇親会をした。同期であり、学生時代の同級生でもある気心の知れた仲間たちだ。いつものように、集まると言いたいことを言い合える。気兼ねなく何でも話せる仲間がここにいる。退職した私もまだ仲間として認識してくれていることが嬉しかった。新型コロナウイルス感染症対応は確かに大変だったけれど、大変なことばかりではなく、得たものも大きかったと話す。大変な局面を乗り越えると、組織は強くなる。リーダーシップを発揮し、組織をより進化させていく方向に舵を切っていった同期の仲間を誇らしく思った。彼女らはすでに前を向いて進んでいる。
新型コロナウイルス感染症が5類感染症に分類されて1年が経った。
今年のゴールデンウィークは観光客で溢れかえっていた。どこもかもが密集していてもみんな平気になっていた。4年前は「密を避ける」が合言葉であったのに、まるで新型コロナウイルス感染症なんてあったのか? というような状態だ。
保健師たちは新型コロナウイルス感染症のことを過去のこととして忘れることはないだろう。その間に経験したすべてのこと、傷ついたことも助けられたことも、全て彼らの中に生きているのだ。そして、それは勲章のように誇らしく彼らの中で輝いていた。満面の笑顔として。
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