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勝つために負けることを知った僕にできること


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ともち(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「すべてのことに手を抜かない人こそ一人前」
「崖をのぼった先に大きな成長がある」
 
かつての僕は、大真面目にそう信じていた。
 
そう信じるようになったのも仕方ない。
僕を育ててくれた両親は真反対の性格だ。
父は、他人の指示に従うのが嫌だという理由で20代に自営業を始めた自由人。
母は、3人姉妹の長女で面倒見のよいしっかり者。気配りと責任感が服を着たような人でもある。
 
僕はどちらかといえば母の血が濃いようだ。
その母の“英才教育”を受けたこともあり、僕は幼い頃から何でも一番になるまで頑張った。
同級生が30人ほどの小さな土俵だったため、たまたまその頑張りが報われることが多かった。
 
「ともちくんは、勉強も運動もできて偉いねぇ」
 
「いえいえ。まだまだです」
小学生にして謙遜の技術を身につけていたので、近所のおばさんたちから「偉いねぇ」をもう1点頂戴していた。
 
頑張って成果を出し「偉いねぇ」ポイントを手堅く得る。
僕はこの“ゲーム”をとても気に入っていたし、無意識に自分らしさをそこに見出していた。
 
 
それが後に自分を苦しめることになるとはつゆ知らず。
 
 
学生時代まではゲームのルールが単純だったのだと思う。
 
定期テストは範囲が限られていたし、正解ありきだった。
正解があるのだから、全教科90点以上を取るよう努めた。
先生や友達の意図も自然と汲み取り、まとめ役として学級委員やキャプテンになることが多かった。
 
母譲りの根性も備わり、多少の病気では休まなかった。
部活動で肩を脱臼しても、激痛に耐えながら練習を続けた。
 
「頑張ること」でたくさん評価してもらえた。
その結果、「頑張ること、耐えること」が僕の中でどんどん強化された。
 
就職先を選ぶ時もそうだ。
内定先の中では最も自分に合いそうにない社風の会社を選んだ。
その方が自分を鍛えられると思ったからだ。
 
自分の力量を超えるゴリゴリの営業職を選んで毎日終電まで働いた。
達成できるかわからないのに、目標数字を自分から上げていった。
誘われればどんちゃん騒ぎの飲み会に明け方まで参加することもあった。
 
とにかく頑張った。
倒れそうになったら、もっと頑張っている人を見て自分を鼓舞した。
その頃の僕は「頑張る教」の模範優等生だった。
 
ところが、学生時代とは違うことがあった。
頑張っても、頑張っても、結果がついてこなかった。
 
マッチョな自己啓発本を読んでは、頑張りが足りないのだとお尻を叩いたが、残念ながら結果は変わらなかった。
 
でもすぐにはその現実を受け入れられなかった。
 
情けないことに、環境や他人のせいにしたこともあった。
自分は全力を出していないのだとカッコ悪い言い訳をした。
 
責任を引き受けるのが怖かったのだ。
内心では「だっせーな、俺」と思いながらも、自分のプライドを守ることで精一杯だった。
どんどんドツボにハマった。
 
 
このままではいけないと思い、転職してゲームチェンジを図った。
徐々に自分に向き合うようになった。
 
足りなかったのは「頑張り」ではなく「自分に素直になること」だと気づいた。
 
とはいえ、それまでのマイルールを手放すのは口でいうほど簡単ではなかった。
それなりにうまくいっていた経験があればなおのこと。
 
僕の場合は、「すべてのことに頑張らない」というルールを新しく採用した。
「頑張ることと頑張らないことを見極めること」と同義だった。
 
たとえば、すべての人に好かれようとするのをやめて、好きな人との時間を増やした。
気乗りしない仕事は断って、得意な仕事で貢献するようにした。
苦手の克服ではなく、得意を磨くことに注力した。
しんどい時には「あーしんど」と口に出してサボることもした。
夜中まで勉強や仕事するのをやめて、7時間は寝るようにした。
 
 
すると、面白い変化が起こった。ストレスが格段に減って、幸福感が増した。楽しい時間が増えて、収入も増えた。「世の中は厳しい」から「世の中は意外とやさしい」と思えるようになった。
 
僕は自分の「負け」を認めることで、ずっと生きやすくなった。
いわば、負けを認めることで、勝ちやすくなったのだ。
 
「長所で人を助け、短所で人に愛される」と聞いたことがある。ゆるく生きることで幸福感が増すことを、僕は今になって知った。いや、頭ではわかっていたが、体でわかるようになったのは最近のことだ。
 
その道の熟達者からすれば、僕はまだまだ白帯レベルなのかもしれない。でも、もっと脱力することでどんな景色が広がるのか楽しみなのだ。その世界をもっと味わいたいのだ。
 
そして、もう1人その世界を味わって欲しい人がいる。
 
母だ。
 
ここまで母は、たくさんの苦労を重ねてきた。苦労を自分で引き寄せている感も否めないが、息子の贔屓目を差し引いても頑張ってきたと思える。父の会社も母のフォローがなければとっくに潰れていた。
 
母もいつの間にか70歳が近くなった。帰省する度に、背が小さくなったように感じる。余生は少しゆっくりしてもらいたい。眉間のシワを減らして、笑いジワを増やしてもらいたい。
 
母の性格からすれば、ゆるりと生きることの難易度は高いだろう。
だが、僕には心強い脱力の先生がいる。
 
父だ。
 
父と母は性格が真反対ということもあり、価値観の違いから随分ぶつかった。夫婦喧嘩もしょっちゅうあった。幼い頃、僕はそれが大嫌いだった。なんでこの2人が一緒になったのだろうと不思議で仕方なかった。
 
 
だけど、今更それを責めても意味はない。
この2人だから一緒になったと考えてみると、父の「いい加減さ」はここへきて必要なのかもしれない。父の「いい加減さ」に苦しめられたと信じている母が、それによって楽になり、父に感謝する。
 
うーん、なかなかドラマチックな展開じゃないか。
 
これこそ、僕が彼らの息子として生まれてきた理由なのかもしれない。
実家に帰る楽しみが1つできた。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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