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たまには時代に逆らって手紙を書こう

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:珠海(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
代書屋。
この初めて目にする言葉を知ったのは、1冊の本だった。
「だいしょや」と読むそうだ。かつて、日本の識字率が低かった頃、依頼者の代わりに手紙を書く職業があった。
 
在宅ワークといえば今は珍しくもないが、私が子どもの頃は内職と言われており、その1つに封筒やハガキの宛名書きがあった。字がきれいに書けると、自宅でも仕事ができるのだと思ったものだ。
その宛名書きも、今はパソコンが使えれば誰でもできるので、必要とする人は少ないだろう。
 
「代書屋」とは、宛名書きの代筆ではない。依頼者が直接話す言葉を書き記す場合だけでなく、依頼者の代わりに手紙の文章を考える場合もある。文字を書く美しさだけでなく、文章力も必要となる職業だ。
 
 
インターネットの普及により、メールやSNSで手軽に近況を報告できる時代になった。私が中高生の頃は、ペンフレンドというものがあったが、現代ではメール友達、いわゆるメル友が主流だろう。年賀状終いをする人は増え、私も7年ほど前に、年賀状の代わりにSNSやメールで新年の挨拶を送ることが多くなった。
 
ふと、最後に手紙を書いたのはいつだろうと考えた。
昨年末に書いた2枚の年賀状だけだ。
7年前に終えた年賀状だったが、3年前より復活した。
 
3年前の元旦、自宅ポストに、2枚の手書きで宛名書きされた年賀状が入っていた。
 
1枚はかつての上司。
彼女は定年退職後も継続雇用で働いていたのだが、期間終了後は、別の職場でパートタイム勤務をしていた。3年前、その職場も退職したことを年賀状で報告してくれたのだ。部署が変わっても年賀状だけは続いていた。SNSで繋がってからは、年賀状も自然と途絶えてはいるが、新年の挨拶だけでなく、季節ごとの挨拶もSNSで済ませていた。近況を知っていても、知り合いから届く年賀状は自然と心が和らぐ。懐かしい上司の字に、もうあれから15年近く経ってるのに、一緒に働いていた頃が思い出される。
もう1枚は、当時5歳だった甥からだ。
ハガキ一面に、鉛筆で書かれた平仮名の新年の挨拶。保育園で字を習う時間があり、字を書くのが大好きな甥は、初めて年賀状を書いてくれたのだ。
何度も書き直したのだろうか。消しゴムで消した跡が残っている。「ま」が逆になったり、「ざ」が「ぢ」になったり、鏡文字にならないように、覚えたての平仮名で一生懸命書いたようだ。妹や義弟が教えたのだろうか。そんな情景を想像し、集合ポストの前で、しばらく幸せな気持ちに浸っていた。
 
年賀状終いをした私の家には、返信用の年賀状がなかったので、近所のコンビニへ年賀状を買いに行った。新年の挨拶の定型文が印刷された年賀状だったが、なるべく多くの言葉が添えられるように、余白が多い物を選んだ。
毎年年賀状を出していた頃、宛名と新年の挨拶は印刷をして、ほんのちょっと一言を添えている程度だった。
だが、この2枚の年賀状の宛名は、もちろん手書きだ。決して多くはない文面だが、心を込めて書いた。宛名も含めて下書きをしたため、思っていた以上に時間がかかったが、書き終えた年賀状は、まるで初めてラブレターを書いた時のような、心が温かく、こそばゆい感じがした。
 
書き終えた年賀状をすぐに出したくて、郵便ポストへ急いだ。
年賀状を投函した瞬間、凝り固まっていた私の心が、ほぐれていくかのように、体中の力が抜けていくような感覚を味わった。
 
あれから3年。毎年2人から年賀状が届く。
 
3年間の間に、甥の字も上達し、鏡文字もなくなった。
かつての上司の字も変わらず、健在なようだ。
 
年賀状に書かれた文字を、指でそっと撫でてみた。
SNSやメールでのやり取りは簡単だが、手書き文字には想いがこめられている。毎年100枚近くの年賀状を送っていた頃、投函直前に書いた文字は、急いでいる私の心が映し出されていただろう。心を込めて書いた年賀状は何枚あったのだろう。
今は2枚しか書かなくなった年賀状。
これ以上増える必要はない。この2枚の年賀状は、十分心を通い合わせている。
 
本を読み終えると、今度は手紙を書いてみたくなった。
以前は便箋と封筒を別々に選んで買えたが、今はそんな店も少なくなり、便箋と封筒はセットで売れている。手紙を書く機会が減った現代では、便箋と封筒を別々で売るよりセットで売った方が無駄がない。少し淋しい気持ちもするが、それもまた時代の流れなのだろう。
利便性を追求し続けた結果、私たちの暮らしは豊かで便利になった。
文明機器の発達というのだろうか。新しい機械により、家事に使う時間も昔よりずいぶん減った。それなのに、どうして時間に追われている人が多いのだろう。
どんなに便利な世の中になっても、空いた時間には、また別の用事や出来事が入り込んでしまうのだろう。
 
私も忙しい時間を過ごす日々だが、ひと昔前は、SNSやインターネットは使っていなかった。SNSやメールは便利だ。どこにいても簡単にやり取りができて、時間もかからない。
 
時代に逆行しているかもしれないが、今度の休みは、ゆっくり時間をとって、旧友に手紙を書こう。
彼女と過ごした、楽しかった時間の感謝の気持ちを伝えたい。
 
すこし遠いのだが、便箋と封筒を別々で購入できる店を見つけた。まずは彼女に合う便箋と封筒を選びに行こう。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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