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病みかけていた僕を劇的に変えた、たった一つの言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たぴおCA(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
寝られなかったの? と聞かれたら、いやそんな日はなかった。けれども、よく寝たと思って起きたら夜中の3時ということが何日も続いた。目覚ましを6時にかけても、すぐに起きられる日なんてそれまで一度もなかったのに。
 
病気にかかったの? と聞かれたら、やはりそんなことはなかった。しかし、起きると経験したことのないダルさを感じる。そして、朝だけ毎日下痢だった。準備を済ませて家から出るとお腹の調子は悪くない。食欲もいつもと変わらない。ただただ、そんな朝が来るのが毎日怖い。
 
何か苦しい。働く意義が見出せない。もうすぐ子どもが生まれるのだから、頑張らなきゃいけないのに……
 
そう。僕は病みかけていた。
 
この状況をなんとか変えたいと、動画を観たり、本を読んだりして、とにかく情報を集めた。運動、筋トレ、朝散歩、入浴、腸活、ヨガ、瞑想、ポジティブ日記……
 
メンタルに良いと言われることを知ると、なんでもすぐにやってみた。すると、驚くことにどれをやっても良くなったような気がするのだ。ただ、それは曇りの日に見える、一筋の太陽の光でしかない。時間が経てば、またどんよりとした雲に覆われているような気分になる。
 
こんな生活が1カ月ほど続いたある日。本を読んでいた時に、病みかけていた僕を劇的に変えるたった一つの言葉と出合った。
 
「苦しい時に相談できていますか?」
 
それは、小さな子どもでもできる簡単なこと。ただ、この簡単な「相談する」ということが実は「因数分解する」ということだったと、その時はまだ知らなかった。これは、相談を通して因数分解することが、私にとって病みそうな自分を変える最も有効な手段であると気づいた時の話である。
 
 
 
今から2年前、教員生活11年目の秋。
 
担任しているクラスでトラブルはほとんどなかった。嫌な教員仲間がいるわけでもない。例年よりも早く帰ることができている。目の前に広がる環境に何一つ不満はない、と思っていた……
 
しかし、家で妻には「なんか病みそう」と相談して、毎日話を聞いてもらっていた。妻はいつも温かい言葉をかけてくれた。結婚していなかったらおそらく仕事を休んでいたと思う。
 
「苦しい時に相談できていますか?」という言葉との出合いをきっかけに、妻以外に職場で相談できる人はいないかな? と就寝前の自分へ問いかけてみた。「あの人はちょっと……」「この人もなんか……」なんて頭で浮かべていると、ほとんど気の許せる人がいないことに気づく。それでも職場の人を思い浮かべて、ようやく1人だけ頭に浮かんだ。共通の知り合いがいる先輩だった。翌日、すぐにその先輩に話しかけた。
 
「なんか最近、働く意義が見出せなくて……」
藁にもすがる思いで言うと
「そっか。どんな気持ちなの?」
と心配そうな目をしながら聞いてくれる。
「何か、満たされないような感じがして……」
と自然に反応した自分の言葉で気づいた。「僕は満たされていなかったんだ」そう思いながら下を向いていると
「クラスはどう? ちょっと最近の思っていること、みんなで話しをしてみたら?」
とアドバイスをしてくれた。
 
「それが、このモヤモヤの解決になるかわからない。けれど、やれることはなんでもやってみよう」と算数の授業を学級会に変えた。教室ではなく机のない多目的室に移動し、全員で円になり床に座った。そして何が始まるのだという表情をしているみんなの顔を見ながら聞いた。
 
「最近のクラスのこと、先生のこと、思っていることを聞かせて」
 
最初は、戸惑っている様子の子ばかりだったが、一人が話し始めると風船の結び目がほどけたような勢いで子どもたちは話し始めた。子どもたちが言いたいことは大きくこの2つだった。
 
「先生にはもっと一緒に遊んでほしい。遊ぶ時間を取ってほしい」
「先生が言っていること、正しいとは思うけど、細かすぎる」
 
それを聞いて、
「ごめんね。そんなこと思っていたんだね」
目をつぶって謝った。
 
そう言ったわけではなかったが「俺たちにもっと興味をもってほしかった! 一緒に楽しい学校生活を創りたかった」と言っているように聞こえた。
 
それは、それは辛い時間だった。けれどもその辛い時間が気づかせてくれた。異動、学校文化の違い、通勤時間の増加、新しく知り合った教員とのコミュニケーション、結婚による新しい生活……そんな変化に対応できていない自分がいるということを。
 
自分の経験への過信。余裕のなさ。しっかりやっているように見せなければと人の目ばかり気にする生活。子どもたちの思いなんて気にせず、とにかく効率的に「それは~だから、やっちゃダメ」と一方的に言う毎日。
 
たしかに、教室で辛くなるようなトラブルはなかったが、そんな私の思いを見透かし、ずっと冷めた目で担任を見ていたのだろう。大人だったのは子どもたちの方だった。自分の教員としての力量不足を痛感し、とにかく情けなかった。
 
思い返すと、正直に話してくれた子どもたちに感謝しかない。子どもたちの思いを受けて、自分なりの反省と、これからどうしたいのか、その時の思いを素直に伝えることができた。話し合いの後、感想を書く時間をとった。
 
「先生のこと勘違いしてました」
「思ってることが言えてよかった」
 
なんて書いている子がいた。それでクラスが大きく変わったかといえば、ドラマみたくそんなにうまくはいかなかった。一度崩れた信頼関係は、それほど簡単に修復できない。けれども、子どもたちも僕自身もその話し合いで少し心が軽くなったように思う。
 
 
 
時間が経ってわかった。あの時苦しかったのは「何に苦しんでいるのかわからなかった」というのが一番の原因だったと。今では、こんな形で文章にすることができるし、誰にこの記事を読まれたってなんとも思わない。ただ、あの時の僕はそれができなかったから辛かったのだと思う。
 
言葉にすることで、自分で自分の考えを客観的に理解できるし、誰かに聞いてもらうことで自分一人では気づけないことに気づける。ヒトって自分のことは意外によくわかっていないものだなと痛感した。
 
これは足し算や引き算が混ざり合った式を、整理して見やすくする因数分解と同じである。相談することで、複雑にからまった曇りの原因を、一つひとつほどいて目に見えるように分解することができるのだ。
 
原因がわかれば、行動を変えやすい。子どもたちに積極的に話しかけてみよう、教員仲間にあいさつのついでに一言話すようにしてみよう等、ポジティブな行動をしたいという意欲が出てきた。なにより自分の話を聞いてくれる人がいると思えると幸せな気持ちになれた。その時、ようやく心の天気に晴れ間が見えた気がした。もちろん、雲が一つもなくなった感覚ではない。だが、それまでの生活から考えると劇的な変化だった。
 
 
 
そんな経験をした2年前から、心が曇った日は一日もない、なんて言えば嘘になる。そして、あの時と同じようにどんよりとした雲におおわれないかと心配している自分もいる。
 
しかし、以前の自分とちがうのは因数分解すればいいと知っていることだ。「だから、きっと大丈夫」と心に言い聞かせる。ただ、時間が経てば辛かったことを忘れてしまうかもしれない。そこでもう一度この言葉を未来の自分に贈る。
 
「苦しい時に相談できていますか?」
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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