メディアグランプリ

自己破壊のすゝめ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡邊真由子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「アナタは自分のことを『香港マフィアボスの愛人』だと思って、この世のすべての男性を目で殺してください」
 
勿論アナタの性格が真面目なのはわかっていますよ、と付け加えながらとびきりの笑顔でA先生は私にそうおっしゃった。
 
何を言われているのかわからなかった私は一瞬フリーズする。
 
ただのマフィアではなく、マフィアのボスの愛人ってどんなだろ。
目で殺せと言われてもそれはあの某有名芸能人様の特権で私ごときが容易に使いこなせる技法ではないはず。
 
そんな私の心を察してくださったのかA先生は次にように換言してくださった。
 
「『目の前の男性を手玉に取ってハニートラップを仕掛ける女性スパイ』でもいいです」
 
私は再びフリーズした。
しかし私には拒否する権利がなかった。出来ません、とも言いたくなかった。
現実はフツーの会社員だけれどこの時だけは堂々と香港マフィアのボスの愛人、はたまたハニートラップを仕掛ける女性スパイとして在るしかなかった。
何故ならば、これはA先生が手掛けるアパレルブランドに初めて読者モデルとして採用されたときの撮影現場だったから。
 
A先生は、女性のトータルプロデュースを得意となさっている女性経営者だ。
「魅力のない人はいません。努力をしていない人がいるだけです」と断言なさるA先生の指導はヘアメイクやファッション、仕草、心構えなど多岐に亘り、数年前からはアパレルも展開。そのアパレルの読者モデルとして私は採用して頂いたのだ。
 
今ではネタのように笑って話せるこの『香港マフィアボスの愛人』命名事件は四年も前の出来事。
私とA先生との出会いはさらにそこから数年遡ることになる。
 
忘れもしない。A先生が登壇されたセミナーに偶然参加した時のことだ。A先生は私に衝撃の一言を放たれた。
 
「あなたはキレイだしセンスも良いけれど未亡人みたいなのよ」
 
私はフリーズした。疑問符が頭の中に飛び交う。
 
私は自分の個性を知りたいがためにA先生に出会う前からカラー診断、骨格診断、顔診断、メイク、心理など様々なことを学んできた。
一般人としての服のセンスだってそんなに悪いと思っていなかったし、カラー診断で「見紛うことなきWINTER」と何度も診断された私が好んで着たものは黒や白が主で、時々目が覚めるような赤や青が混ざる。別に悪くはないはずだ。
また、ヨウジヤマモトやコムデギャルソン、ジュンヤワタナベ、ヘルムートラングなどの個性的な服を美しいと感じ、纏った。セールでしか買えなかったけれど。
これらは子どもの頃から憧れた【都会の女性】っぽさを演出するのに最良の選択だと信じて疑わなかった。私は最高傑作の自分のはずだった。
 
それなのに、いともたやすく一刀両断された私は悔しさとやるせなさでいっぱいになった。
これまでの学びや自己投資は一体何だったのか。自己ベストだと信じていた自分の姿は井の中の蛙だったということなのか、と。
 
それからは一念発起してA先生のもとで改めて自分と向き合うことにした。
ヘアメイクはさほどの指摘がなかったものの、問題は服。
 
「これはどうでしょうか?」
A先生に手持ちの服をお見せすると
「ダメです。そういうタイプではなくてこういう感じのものを選んでください」
と何度もNGを出され、その度に心の中で激しい葛藤が渦巻く。
私は教えを乞う立場でありながら激しくA先生に抵抗し続けた。
女性が女性らしく見える華やかな服。誰もが八十点以上の点数をつけてくれそうな服。A先生が提案なさるそういう服は【媚びている】感じがして受け付けられなかった。
 
もっと激しく尖った自己主張をする服でなければ意味がない。外見は一番外側の内面だというのであれば、私は媚びた生き方などしたくない。
 
本気でそう思っていた。人生を斜め四十五度から見ていた私にとってA先生のご指導は徹底的な【自己破壊】を意味した。正直なところ、つらかった。
 
それなのに不思議なものだ。
イヤイヤながらもA先生のご指導に沿った服を纏い始めると周囲の反応が変わるのがわかった。そしていつしか鏡に映るすっかり変わり果てた風貌の自分を「悪くないじゃないか」とさえ思う自分がいた。
一体私に何が起こったのか。一番外側の内面である外見が変わることで内面が変化したのかもしれない。物事の原理はシンプルだ。
 
私はかつて未婚でありながら未亡人の如き風貌だった。
そしてその殻を破ったからこそ、否、一旦自分を壊したからこそ香港マフィアのボスの愛人にまで昇格することができた。今では名刺にこのキャッチコピーを載せたいほど良い個性だと思っている。載せないけれど。
 
つい先日もA先生主催の読者モデル撮影会がおこなわれた。新規参入のかたもいらっしゃる。SNSで既にやり取りしているので初対面のような気はしないけれど、三次元でお会いするのは初めてだったりもする。
その中のおひとりから次のようなお声を頂いた。
 
「マユコさんは本気で香港マフィアのボスの愛人だと思っていました。だって、その表現がぴったりすぎるんですもの。でも性格とかは全然違うんですね」
 
これを聞いた私は「よぉぉぉし!」と心の中でガッツポーズをした。このギャップを楽しもう。自分のものにしよう。
そして、私に話しかけてくださったかたと、あの頃の自分と、まだ見ぬあなたに対してこう思った。
 
思い切って一歩を踏み出したあなたには必ず【自己破壊】の時が訪れる。
恐れずに壊れてしまえ。壊れ切ってしまえ。そこから自分を立て直す力をつければいい。
そうすることでしか見えてこないあなただけの景色がある。
壊れたあとのあなたはきっと、更なる高みに上ったあなた自身に出会うはずなのだから。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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