「幸せホルモンを出しまくれ!」盆踊りのすゝめ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大場 安希子(ライティング・ゼミ2月コース)
「Z世代がいま人気だと思う部活No.1はダンス部」だそうだ。
音楽やダンスなどの分野で若者文化をけん引するエイベックスが行った、高校の部活動に関する意識調査の結果が記事になっていた。
サッカー部やバスケットボール部も依然として人気だが、それを差し置いていま現在人気と思うのはダンス部とのこと。
確かに、TikTokなどの友達同士で「踊ってみた」動画がバズる現象をよく見聞きするし、最近の子どもや若い方はダンスの素養が私たちの世代とは段違いに備わっていて、見た振りをすぐに再現できてすごいなぁと思っていた。
近年増えたテレビのダンス選手権やバトルを見ても、技術の素晴らしさ、動きの不思議、演者の熱い気持ちに感動をもらっているから、この調査結果には頷くものがある。
かく言う私も、高校時代は年に1回の運動会でチアダンスを踊り、文化祭でのみ活動するダンス同好会に所属していたから、昭和生まれの割に少しだけダンスに馴染みがある。
どれも期間限定のダンス活動だったけれど、準備期間は勉強そっちのけでのめり込んでいた。
振りを覚えて体に染み込ませ、上手な同級生を見て「こうするとカッコよくなるのか」というちょっとした動きを真似してみる。
皆で動きがシンクロし、音楽とバシッと合うのが気持ちよくて楽しくて、本当はもっと踊りたいと思っていた。
実は、そんな踊りたい願望が叶う素敵なイベントが身近にある。
夏に各地で開催される、盆踊りだ。
私はもちろん、行ったからには見る阿呆ではなく、踊る阿呆。
「盆踊りって、ダンスとちょっと違うんじゃ……」と言われそうだけど、夏の夜の2~3時間の間にその場で覚えた振りで何曲も踊れて、老いも若きも皆でニコニコ、心から幸せになれる素晴らしいダンスイベントだと私は思う。
私が踊り好きなのは、恐らく「盆踊りの血」が入っているからだ。
母方の祖母は、若い頃大変に踊りが好きだったと聞く。
当時はシーズンになると数週間にわたって毎晩盆踊りが開催されていたそうで、祖母は家事もそこそこに夜の会場に繰り出していたそうだ。
母曰く、酷い時は3人の娘の夕ご飯にバナナだけ与えて踊りに行ったとか。
あの昭和のおばあちゃん然としていた料理上手の祖母が、本当にそんなことをしていたのかと信じられないけれど、クラブで踊りまくるギャルのように開放していた時もあったのだと思うと、なんだか嬉しい。
祖母は晩年、介護付き老人ホームに住んでいて車いす生活だったけれど、踊りの話になると一瞬でその頃にワープするのか、とっても滑らかに手が動いた。
私も踊り好きとはいえ、盆踊りに行くようになったのはここ数年のこと。
これはラッキーだったとしか言いようがないけれど、夫もたまたま踊る阿呆だった。
盆踊りに行きたい男性も少ないと思うし、行ったとしても進んで踊りの輪に入っていく男性は少ないイメージがある。
ところが夫は、出かける前にYouTubeで東京音頭を復習していくほどの、極めて真面目な盆踊ラーだったのだ。
そういうわけで、結婚してからは毎年どの盆踊りに行くかを2人で調べて、7月頃から週末の夜に盆踊りの予定が入っていくようになった。
では、盆踊りの何が楽しいのか。
一つには、短時間のうちに「できた」が味わえて、ちょっとずつ上手になることの楽しさがある。
どこに行ってもかかる東京音頭や炭坑節は、「あーはいはい」と覚えるまでもないが、例えば渋谷なら渋谷音頭、六本木なら六本人音頭など各地の独自の踊りがかかるから、その場で覚えることになるのだ。
初めはやぐらで踊る婦人会や保存会の方々のお手本を真似して、一晩のうちに何回か繰り返してくれるうちにだんだんと振りが身についていく。
そして徐々に、「この人の踊り、なんだか素敵!」と思う推しのおばあちゃんが決まってくるので、その人をよくよく見て身のこなしを研究し、取り入れていくという感じ。
炭坑節の「掘って~、掘って~、また掘って」の振りだって、膝を曲げて腰をずっと落としたまま右足・左足をスッスッと出すと粋でこなれた動きになることが分かったのは、研究の成果だ。
二つ目として、踊りそのものがもたらす多幸感ではないか。
踊りはドーパミンやセロトニンの分泌を促し、多幸感をもたらす効果があるということが多くの研究で明らかになっているそうだ。
さらに、他人とシンクロしながら踊ると一人で踊るのとは違って、エンドルフィンという「ハイ」になる脳内ホルモンが出るらしい。エンドルフィンは、モルヒネが摂取されたときと同じ受容体と結びつくことで人体に多幸感を与えるため、「脳内麻薬」とも呼ばれる。
盆踊りは、踊っていると何重にも輪ができていって、「チャンチャン」と曲が終わるごとに皆で拍手が起きる。確かに皆で踊っているという一体感が楽しいような気はしていたけれど、実は脳内ホルモンレベルで幸せな体になっていたのだ。
盆踊りの最高峰として知られる「郡上おどり」は岐阜県郡上市八幡町で開催される伝統的な盆踊りで、7月中旬から9月上旬にかけて30夜以上にわたって開催される。
お盆の4日間には明け方まで夜通し踊り続ける「徹夜おどり」が行われるというから、これは脳内ホルモン出まくりの日本一ハッピーなイベントだ。
盆踊り好きとしては一度は行ってみたい。
人は自らを幸せにするために本能的に踊る。
太古の昔から世界中に踊りの文化があるのも、ディスコが流行ったバブル時代も、仲間と踊ってTikTokに動画をアップするZ世代も同じ原理によるものと言えるだろう。
だから冒頭のダンス部が人気になるのは、新しいことのように見えるけれど、とっても原始的なことでもあると思う。
近年の盆踊りは、開催側も趣向を凝らして存続に努めているので、ぜひ若い方々にもご参加いただきたい。伝統の○○音頭ばかりでなく、DJを絡めたり、YOASOBIなどのJ-POPに振りをつけたいわゆる「新作」も用意したりなど、涙ぐましいほどの変化への対応と努力をしている。
さて、今年の夏も本能の赴くまま、盆踊りで幸せになろう。
いま原稿を書いているWordの奥のGoogleChromeには、「東京盆踊り情報2024年版」のタブがチラついている。
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