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結婚相手は、靴磨きができるかで判断した方がいい


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記事:おまど(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私は、お父さんが嫌いだ。
 
「女性が結婚相手に求めるものは?」なんて雑誌やSNSで特集になっていたりする。
そこに、“お父さんに似ている人”なんて回答が一定数存在していると思う。
昔から、(それだけは、ありえない!!)と思っていた。
みなさんは、この回答に対してどう感じるだろうか。
 
私は、子どもの頃のお父さんとの思い出がひとつもない。
私のお父さんは警察官。
私たちが寝てから帰ってきて、朝起きたときには家を出ていた。
夜勤があり家にいない日が多かった。
何か事件が起こったら電話がかかってきて、休みの日も仕事に行っていた。
出張も多かった。
単身赴任で、何年も離れて暮らすこともあった。
お父さんと一緒に過ごした時間は、きっと少ない方だと思う。
正直、旅行に行った記憶もない。
学校の行事や部活の本番も、すべて仕事だった。
家族での思い出は、毎年お正月に和歌山のおばあちゃんの家に行ったことぐらいだ。
 
そんなこともあり、家のことは、ほとんどお母さんがやってくれていた。
勉強を見てくれたのも、中学・高校の吹奏楽部の本番に来てくれたのも、毎日毎日怒ってくれたのも、すべてお母さんがやってくれた。
兄弟3人、反抗期のときは、お母さんとぶつかり合いながら学生時代を過ごしたのを覚えている。
お母さんには申し訳ないことをしたなと今でも思っている。
 
家でのお父さんは、お母さんとケンカばかり。
家にいると思えば、いつも寝ていた。
はっきり言って、ちゃんと話した記憶がない。
小学生のときはあまり思わなかったけれど、中学生になってからは、そんなお父さんのことをどんどん嫌いになっていた。
話しかけられても無視。
何をされたわけでも、嫌なことを言われたわけでもないけれど、なんだか、とてもムカついた。
 
大学のとき、初めて実家を出た。
料理を作ること、洗濯をすること、掃除をすること、バイト代をやりくりして1か月の生活費を考えること……、お母さんのすごさがわかった。
自分は1人で生きていると思っていたのに、生かされていたんだということがリアルに理解できた。
この4年間、本当に家を出て良かったと思っている。
 
大学を卒業して京都に戻ってきた。
自分の目標であった教師をすることになった。
また、実家での生活が始まった。
働くようになって、お父さんよりも早く家を出て、遅く帰るようになった。
「いってらっしゃい」
毎朝そう言われても無視していた。
なのに、毎朝毎朝、必ずお父さんは「いってらっしゃい」を言い続けた。
私がどんなに遅く帰っても、家族が全員寝ていたとしても、お父さんはパジャマ姿で本を読んで必ず待っていた。
「お帰り。じゃあ、先に寝るわ」
そう言ってから、毎晩お父さんは寝室に行った。
(もう、待ってなくていいし! 待っててなんて、1回も言ったことないのに……)
いつもそう思っていた。
今考えれば、本当に素直じゃなかったと思う。
 
教師になって3年目、初めて担任をすることになった。
それが決まってから、入学式までの間、毎晩遅くまで準備に準備を重ねた。
“生徒のために!”ただそれだけの思いで、一生懸命準備をした。
そして、初めて自分のクラスの生徒に出会う入学式の朝を迎えた。
家を出ようと玄関に行くと、そこにはお父さんがいた。
私の靴を磨いていた。
「何してるん?」
「社会に出たら、一番に見られるのは靴なんや。靴が汚れているだけで信頼を失うことがある。だから、靴だけはきれいに磨かなあかんねんで」
お父さんは、そう話しながら、慣れた手つきで一生懸命私の靴を磨いていた。
靴を磨いているお父さんを見ながら、ふっと昔のことを思い出した。
 
中学・高校のときの吹奏楽部のコンクール、入学式、卒業式、入試の日、就職試験の日……。
大事なことがある日の朝、私の靴は、きれいに磨かれて玄関に並べてあった。
(きっとお母さんがしてくれていたんだと思っていたけれど、あれ、お父さんだったんだ……)
「よし、頑張っておいで。いってらっしゃい」
「うん、いってきます」久しぶりに返事をした。
よくわからないけれど、素直に「いってきます」が口から出てきた。
 
今、私の靴は、旦那が磨いてくれている。
付き合っているときから、靴や皮のカバン、皮の財布を磨いたり、コートやニットは着るたびに必ずブラシがけをする人だった。
「小さい頃から、野球の道具を磨いてたから、それがクセになって……」
なんて言いながら、初めて私の靴を磨いてくれていた姿を今でも覚えている。
別にお父さんの姿を重ねているわけではないが、その姿を見ているのは安心感があって大好きだ。
「よし! きれいに磨けたから大丈夫! 頑張ってきいや!!」
と、大事なことがある日は、必ず朝、きれいに磨き上げた靴を履く私を送り出してくれる。
 
今も、私はお父さんのことはあまり好きじゃない。
でも、今、私のそばにいる人は、お父さんと同じ、靴磨きが上手な人だ。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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