自立することを一人で立って歩くことだと思っていた捨て猫のような私
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:尾崎コスモス(ライティング・ゼミ4月コース)
自営業者になったのは、30代だった。
多くの飲食店従事者は、最終目標を『自分の店を持つ』ところに掲げている。
私も25年以上、飲食店で働いていたが、そんな夢を持つ若者がほとんどだった。
自営業者になることを、その頃は、自分だけの力で生きていくことだと思っていた。
自営業となってから、程なくして、自分だけの力では、何もできないことを悟った。
寿司屋を開いた私は、オープンしてから2年間、休みなしで働いた。
オープンしてみて、お客様の入り具合を見てから、定休日を決定しようと考えていたからだ。それは、売上という意味もあるが、「来てみたら休みだった」というお客様を1人でも少なくしたかったのだ。来たら休みだったなんて、機会損失もいいところで、下手をすると、もう二度と、そのお客様は来ないかもしれない。お客様は、そのお店の定休日なんて覚えてくれない人がほとんどなのだ。
2年間、休みなく働いた時、周囲の親しい人に言われたのは、「大丈夫?」だった。
誰も、「頑張っているね」などとは言ってくれない。
そのことを、当初はとても疑問に思っていた。なぜ、頑張っていると言わないのだ、私は誰にも迷惑をかけずに生きているではないか。
迷惑をかけずに生きることがいい事ではない。
それは、独立する前に所属していた会社の社長に言われた一言で、気がついた。
開店してから7年ほど経った頃、100円寿司に押され、店の資金繰りが厳しくなってきた時に、店を買ってくれるという人が現れた。
もがき苦しんで、泥沼にハマっていく経営者を多くみてきた私は、従業員を路頭に迷わせるくらいなら、自分の変なプライドは捨てて、丸ごと買ってくれる会社に面倒を見てもらうことにした。
すると、その翌日、一本の電話がかかってきた。
「もっと、相談してくれよ〜」
前会社の社長だった。何を言われているのか、わからなかった。
「人に迷惑をかけることだけはするな」と父から厳しく言われて育ってきたからだ。人を頼ることと相談することは、何が違うのか理解できなかった。
いえいえ、ご迷惑をかけるわけにはいかないと思いました、と伝えると、社長は「迷惑だなんて、思うわけ無いやろ!」と、少し強めの口調で返してきた。その時は、社長の気持ちが全くわからなかったのだ。
それまでずっと、人に頼ることをしてこなかった。
中学生の頃、高校進学をすることも、どこの高校を受験するかも相談しなかった。
学校を卒業して、家を出る時も、誰にも相談せずに決めた。
学校を卒業して寿司屋になったのも、結婚したことも、両親には30歳近くになって初めて伝えた。
地元を離れて、地方に住むことも、東京に転勤になることも、また地元に戻ってきたことも、全てが事後報告だった。
この癖は、今でも抜けておらず、天狼院書店でライティングを学んでいることを、昨晩妻に、初めて話した。
どうも、人に相談できないのだ。
この原因を考えてみたことがある。なぜ、自分は人に相談しないのか。
考えた結果わかったのは、どうやら私は、人の困った顔を見ることが苦手らしい。
子供の頃から、人の顔色を見て生きてきた私は、人が困った顔をしていると、自分の方が不安になる。
小学生の頃も、友達が怒った顔をしていると、自分が何かしたのではないかと、気が気ではなかった。
自分が原因で、相手が困っていると知ると、いたたまれない気持ちになるのだ。
もう、心から、ごめんなさいと思ってしまう。
こんな性格が、どうやら原因らしいと気がついた。
自分から持ちかけた話で、人が困った顔をすることが、耐えられないのだ。
どうしたらいいのか、わからなくなる。
これが良くないことだとも気がついている。
しかし幼い頃に「人に迷惑だけはかけるな」という言葉の意味が、自分では理解できないまま放置したことによって、人に対して何が迷惑なのかという、線引きが上手くできなくなってしまったらしいのだ。
だから、今でも、人に相談するときは、必要以上に申し訳ない気持ちになる。
人に相談することは、ためらうくせに、人から相談されることは嬉しく感じている。
頼られることも、相談されることも嬉しいから、相談された側の気持ちも、なんとなくは理解できるし、「相談してくれよ〜」と言った社長の気持ちも、今はよくわかる。
だからこそ、こんな経験をしてきたから言えることがある。
自立するということは、誰にも相談せずに生きることではない。
相談できる人を増やしていくことが、自立なのだ。
人は一人では生きられないし、一人で判断していいことは少ない。
「君は一人にしておくと判断を間違うから」という理由で、今の職場の社長は私を拾ってくれた。まるで捨て猫である。これでは自立なんて夢のまた夢だ。
ただ、こうした相談できる人を、人生で何人増やすことができるかが、人生の充実度に直結するのだと思う。相談できる人を、一人でもいいから持つべきだ。
誰にも相談できない人生は、周りに人がいても、孤独で寂しいものになる。
私も、もっと早くにこのことに気がついていたら、もっと長く寿司屋をやれていたと思えてならないのだ。
きっと助けてくれる人は周りにもいるはずだ。
SOSは、極限状態になってから出すものではない。
相談できる人を持とう。それを自立と呼ぶのである。
***
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