経営者が発した一言に、真の職人気質を垣間見た
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記事:山田THX将治(ライティング実践教室)
「我が社の製品は全て既製品です。オーダーメイドは、製作していません」
会社経営者の懇親会、その基調講演でその一言は発せられた。壇上には、日本を代表するヘルメット・メーカーの経営者(社長)が立っていた。
中小のメーカー経営者と思われる周囲の参加者の反応は、どこか不思議がる感じに包まれていた。
それはそうだろう、単価の高いオーダー製品を作る技術は、どこのメーカーでも欲しいところだ。しかし、そうした高度な技術は、資本力がしっかりした大手メーカーが独占しているものだからだ。
本来ならば、“モノ作り”が基本の日本の中小企業は、資本力や企業・製造規模は無いものの、技術だけは一流だった筈だ。幾つもの時代を経ることでその実情は、“系列”という名の下請けが主流となってしまった。
そうなると、ブレイクダウンは技術ではなくコストとなり、中小企業は技術を向上させることよりも、コストカットに走る様に為ってしまったからだ。
そしてそれが、日本経済を長きに亘って苦しめた‘デフレ・スパイラル’に陥れた。
私は、ヘルメット・メーカー社長の言葉を聞きながら、昔観たテレビドラマの主人公を想い出していた。
そのドラマとは、1986年にNHKで放映された『シャツの店』というホームドラマだ。脚本が山田太一氏(『岸辺のアルバム』『不揃いの林檎たち』)、演出が深町幸男氏(『あ、うん』『夢千代日記』)という力作だ。
主人公のシャツ職人を鶴田浩二氏(東映の大スター)、献身的に彼を支える妻を八千草薫さん(宝塚出身の名女優)が務めた。
初老夫婦の日常と愛情を描いたドラマだったが、私が深く記憶しているのは、頑固なまでに仕事に徹するシャツ職人の気質だった。
腕が良いので、多くの有名人を顧客に持つ主人公だが、仕事中は一歩も店の作業場から動こうとはしない。従って、顧客は皆、東京・下町の路地裏に在る彼の店へ行かねばならなかった。そこでしか、オーダーの為の採寸をしてもらえないからだ。
それは例え、有名政治家でも同じだった。シャツ職人は、採寸の為の出張する時間を惜しんだのだ。そして時間の全てを、シャツを製作することに当てていたのだ。
こんなシーンが有った。シャツに縫い付ける為のボタンが大量に業者から送られてくる。彼はそれを、一つ一つ検品し10個程の小箱に小分けする。
ドラマの中で彼は、
「ボタンは全て同じに見えるが、一個ずつ微妙に大きさや厚みが違っている」
と、言う。
加えて、
「シャツのボタンは、その箇所によって役目や使用頻度が違う」
と、言うのだった。
何でも、襟元の第一ボタンは最も開閉が多いので、小さめなボタンが最適なのだそうだ。同じく、左右の袖口のボタンは、利き手によって変えなければならいとも言っていた。
私は、鶴田浩二氏が演じる寡黙な主人公の仕事振りが、職人魂の塊に思えた。
加えて、顧客の着心地を考えることに徹した、実に立派な職人に見えた。
そして何よりその姿勢が、モノ作りをする者の規範に見えた。
顧客を分け隔てなく扱うこと。
そんなことも、学ばせて貰った。
ヘルメット・メーカー社長の発言は、まるで顧客に優劣を付けない『シャツの店』の主人公と被る様に私には感じられたのだ。
ただ、一つだけ疑問も残った。
ヘルメットといえば、プロのレーサーだって同社の製品を使っているからだ。数億円の年俸を取るプロのレーサーが、果たして我々一般人と同じ製品で満足するのだろうかということだ。
私は帰宅後、早速その件を調べてみた。
出て来た答は何と、社長の言った通りだった。
そのヘルメット・メーカーは、プロの競技レーサーに対し製品提供やスポンサードはするそうだ。もちろん、レーサー当人の頭に合わせ、インナーパッドは細かく調整もしている。
しかし、ヘルメット本体は例え高価であったとしても、我々一般人も御金を出せば買うことが出来る既製品とのことだった。しかも、インナーパッドの調整だって、同じく頼めば(当然、費用は掛かるが)誰でも可能なのだそうだ。
懇親会の基調講演で、ヘルメット・メーカー社長の『オーダーは受けない』の発言にも、実は続きがあった。
それは、
「顧客の命に軽重は無い」
と、どこか哲学的な言葉だった。
だが、至極真っ当な物言いだった。
私はその発言に、メーカーとしての誇りと、職人仕事としての神髄を垣間見た気がした。
それは、職人気質というものだろう。
私には、顧客に等しく時間を掛けるシャツ職人も、顧客の命に軽重を付けないヘルメット・メーカー社長も、同じ職人気質の塊に見えたのだ。
皆さんは、如何(どう)感じるだろうか。
***
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