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上履き入れ替え事件が教えてくれた素敵な男子の育て方


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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
事件が発覚したのは、穏やかな昼下がり、次男を幼稚園に迎えに行った時だった。
わかりやすく「おこりんぼ」みたいな表情をした5才を連れて、園長先生がニコニコしながらやってきた。
 
「上履きがね、どうやらお兄ちゃんのだったみたい」
毎週月曜日は土日のうちに洗っておいた上履きをそれぞれ兄弟に持たせるのだが、上履き袋に入れる際、どうも反対に入れてしまったらしい。
 
やってしまったー!!!!!
5才には悪いが、心配してしまったのは8才の長男の方だった。小学3年生の月曜日は六時間授業だから朝から夕方まで約8時間ほど学校にいることになる。しかも、今日は、体育館で反復横跳びのテストがあるとか言ってなかったか!?
 
靴下の裏をグレーに染めながらひんやりとした床の上を歩いたり、ツルツル滑りながら反復横跳びのラインと格闘している姿を想像したら、大変申し訳ない気持ちになった。
 
なぜもっときちんと確認しなかったのかがっくりとうなだれながら、もう一つ頭をかすめたのはある種の恐怖だった。
 
これめっちゃ責められるやつやん……。
長男は小さい時から気持ちの切り替えが下手で、失敗などの対処に時間がかかるタイプであると同時に、他責思考が強めで「お母さんがちゃんとしなかったからでしょ!」とこれまで何度責められたかわからない。
 
お母さんとは、そういうものなのかもしれない。
とある程度割り切っているつもりだが、こちらも人間、長時間非難されると削られる。
 
少々ヤケクソ気味で検討した結果、デカい声でまずは謝ることにした。
デカい声で相手を圧倒しよう……もとい、こちらの落ち度であったことを先に認めて早々にそのリングからお互い降りる事を目標としよう。
 
方針は固まった。
夕方四時過ぎ、標的である長男がオートロックのピンポンを鳴らした。
来るぞ、アイツが来るぞ。無駄にドキドキしながら彼が玄関に入ってくるのを待つ。
 
ドア開けて入ってきた長男は少しばかりの疲弊を滲ませている。
 
「ごめん!! 上履き間違っちゃった!! ごめん!!」
失敗の内容をごめんでサンドイッチすることで少しでも彼の溜飲を下げることを試みる。
 
どうしたことだろう。
その後に続いた彼の様子に私は目を疑った。
 
顔の周りに星を散りばめているかのようなキラキラの笑顔でこう言ったのだ。
「いいよ、いいよ! 俺もお母さんに任せきりでごめん! 自分でやればよかったね」
 
え……?
誰ですか、この王子様みたいな男は。
私が8年前、ヒーヒーフーしながら産んだ長男で間違いないですか?
 
確かに最近あらゆる場面で成長を感じさせる長男ではあった。不登校からの復帰を果たし、お友達とよく遊ぶようになって、ハツラツとした毎日を送っていた。
しかし、こんなにも爽やかで大人っぽい対応を見せたのは初めてだった。
 
高度経済成長期のカラーテレビ普及率みたいな急成長についていけず、さっさと手を洗いに行った長男の背中をポカンとした顔で見送った。
なんかよくわからんけど、むちゃくちゃいい男臭を振り撒いておる。
 
この驚きを全世界に向けて発信したく、日頃活用しているSNSで早速呟いた。
お返事をくれた方が何人かいたが、その中でも特に目を引くものが一つあった。
 
「まさに自分で準備させなさいっていう天の采配だったんだろうね。さすが子供たちはわかってるよね」
 
そういう事だったのか!!
目からポロポロと鱗を落としながら(そういえば)と思い出し、この方の過去のフェイスブックでの発信を遡る。
 
天の言葉のような発信をするこの方は、私が「自力整体」というものを始めるきっかけとなったカリスマ講師である。長くなるのでここでは省略させていただくが、自力整体とは整体治療家が発案した慢性的な不調を改善するため自身で行う治療法のことである。
 
あった、あった。これだ。豚キムチの記事。
一男一女の母でもあるカリスマ講師は、子育てしながら仕事をしていたが最近生活に大きな変化が起きた。以前より単身赴任をしていた夫に加え、進学で家を出た娘。残されたのはカリスマと社会人の息子さんの二人になった。
 
そこで今年の春、カリスマは息子さんに対してこう宣言した。
「これからはルームシェアにする」
つまり、一緒には暮らすが、お母さん業・主婦業を完全に卒業するという訳だ。
 
最初のうち息子さんは(とか言いながら結局俺の面倒を見てくれるんだろう)と踏んでいたらしいが、母の本気を見せつけられてようやくルームシェアとしての自己の責任を果たすようになったらしい。
 
二人にとって新生活が心地のよいものになってきた頃、日々自炊を頑張っていた息子さんは母の作る豚キムチがどうしても食べたくなる。懇願された母は超久々に息子のために鍋を振った。
 
その時の息子さんの想像以上の感激ぶりにカリスマは驚かされた。
食べる前に「美味そう! ありがとう!」、食べている最中に「やっぱり美味い、ありがとう!」、食べ終わった後に「美味かった! ありがとう!」
ルームシェアを始める前は当たり前の顔をして食べていた息子さんから、たった一食の豚キムチでありがとうのシャワーを浴びせられ幸せを感じたそうだ。
 
カリスマの記事は最後にこう締めくくってあった。
「男は 世話しない、干渉しない、好きにやらせると本当にいい男になっていく」
「そして女を大切にできる男になるんだね」
 
これは東洋医学でいうところの陰と陽、つまり男女の育て方には違いがあるという考えからきているらしい。今回知らず知らずのうちに「世話しない」を実施した結果受け取ったこのギフトは、私にとってこれからの子育ての大きな指針となった。きっとカリスマの息子さんは自炊してはじめてその苦労を知り、その分母への感謝が揺るぎないものになったのだろう。
 
また私の長男も、私がいつも通り完璧に準備していたら、「今までお母さんがやってくれていた」ということに気付きもしないで時は過ぎ去っていただろう。失敗をしたことで、人任せにせず自分で準備する事の大切さを知ったのだ。
 
世話を焼かない方がいい男になっていくなんて、元来ズボラの私には願ったり叶ったりの事である。万歳。これからは母として手が抜けるところはどんどん抜いて、将来「君は一体誰だ」と思わず呟いてしまうくらい素敵男子に育つことを期待している。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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