メディアグランプリ

デジタル難民になりたくない


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記事:前田三佳(ライティング実践教室)
 
 
やったね! 
さすが私。
と自分で自分を褒めてみる。
今年も推しのライブツアーのチケットを6枚ゲットできた。
6枚というのは6人で行くということでなく、同じ公演を会場を変えひとりで4回、夫と二人で1回行くということだ。
「好き」は私をどこまでも行動的にする。
ライブチケットは今年から入場時にスマホで獲得したQRコードを見せるタイプに変わった。
確か10年位前までは郵便で現金を振り込んで申し込んでいたし、70年代、海外アーティストのライブを観るには「キョードー東京」の事務所がある青山で朝から何時間も並んでチケットを買ったものだ。
それが今ではオンラインで申込み、スマホに表示されるデジタルチケットとなった。
ファン層が若いアーティストは早々にこの方式に変わっていただろうが、私のような中高年ファンが大半のアーティストはまだまだ紙チケットの世界だったのだ。
今年のライブは初めてデジタルチケットで入場した。
映画館や飛行機に乗る時QRコードで入るのと同じなのだが、ちょっとドギマギしてしまう。
画面がうまく表示されなかったり、万が一スマホを忘れたり落としてしまったらどうしよう、と無事に席に着くまで落ち着かなかった。
それにしてもスマホが無ければまったく不便な世の中となってしまった。
 
今朝私は朝寝坊をした。
出かける用事があったので慌てて身支度をし、スマホとバッグを持って家を飛び出た。
電車で気がつくと充電が5%しか残っていない。
いつも就寝中にフル充電するのにうっかり忘れ眠ってしまったのだ。
おまけに慌てて出たから充電器もない。
電車に乗るのはスマホ決済を使っていないので問題はなかったが、残量が気になって音楽もAudible(声優などが本を朗読してくれるアプリ)も楽しめない。
駅に着きGoogleマップで目的の店を探すこともできず、仕方なく待ち合わせした相手に電話して道を聞く。
店ではPayPayの支払いはもちろん、ポイントすら付けることができない。
帰り道、電池が切れ何の用もなさないスマホがやけに重く感じられた。
これがあの待ちに待ったライブの日だったとしたら、私はどうしていただろうか。
 
私は還暦を越えているが、かろうじてデジタル弱者ではないつもりだ。
支払いには電子マネーを使い、ネットで買い物を楽しむ。
様々な行政サービス、確定申告などインターネットを使い手軽に家で手続きができる。
職場では若いスタッフに時には助けられながら、恥も外聞も捨て聞きながら覚える。
そうやって脇汗をかきながらも新しいことを学んでいくことで、格段に生活は面白く便利になった。
以前ライブに一緒に行っていた50代の知人は、まったくのデジタル音痴でチケットを取ることはもちろんビデオ録画もできない人だった。
すべては大学生の息子や私や周りの知人に頼っていた。
悪い人ではなかったが、私よりずっと若いのに学ぼうとせずいつも人に頼る彼女。
さすがに煩わしくなり、私はそっと距離を置いてしまった。
これから彼女はどうするのだろうか。
 
デジタル・デヴァイドという言葉がある。
必要な情報にアクセスできず、そこから教育、経済、社会的な格差が生まれることだという。
総務省ではこの対策として、高齢者向けに誰もがデジタル化の恩恵を受けられるよう携帯ショップなどで講習会を開いているらしいが、どれほどの効果があるのだろう。
ふんふんとその場ではわかっても結局使わなければ使い方も忘れてしまうかもしれない。
自分の興味があることや必要なことからでもいい。
自ら学ぶ姿勢はいくつになっても持ち続けたいものだ。
 
さて今年やっと取ったチケットだが、1日だけどうしても行けない事態となった。
私は代わりに夫に行ってもらおうと考えた。
だが、待てよ。
もう昔とは違うんだ。
私のスマホに届くチケットであるし、会場入り口で写真つき身分証を見せなくてはいけないから、たとえ夫とはいえ譲るわけにいかない。
女装しても無理があるだろう。
結局私のチケットは「定価トレード」といってオンライン上で「リセール」、つまり売り出さないといけない。
一度オンライン上で市場に出し、運良く夫が買えればいいのだが……。
これまたずいぶんと阿呆らしく面倒な話だ。
便利なようで、とても不自由な仕組みだと思う。
ごく一部の不正にチケットを買い占め高額で売りさばくような輩(やから)のため、
また主催者側の手間や人件費の削減のために開発されたシステムだろう。
確かに紙チケットを入り口でもぎってもらうより、スマホ画面をかざす方がぐっと時短で
入場待ちの長い列も解消される。
だが「便利になること」で置き去りにされる「不便」もあるのではないかと感じた。
 
私はデジタル社会にかろうじて片足かけしがみついている人間だ。
だからこそ片足すらかけようとしない人たちの臆病さも理解できる。
アナログに生きていた時代の温かさもよく知っている。
少なくともデジタル難民にはならないよう、私の持ちうる知識はできる限りブラッシュアップして楽しみたい。
そして哀しくも置き去りにされた人たちがそばにいたなら、手を差し伸べる人でありたい。
 
それにしてもあのチケット、なんとかならんものか。
「夫婦なんだから、入れてくれるだろ」
私よりもアナログな夫よ、それは甘いぞ。甘ちゃんだぞ。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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