メディアグランプリ

育児中の私がビーチフラッグの速さでスマホを握りにいく理由


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
全っ然、追いつかない。
 
その小さなお口から次々繰り出される名言ならぬ迷言を書き留めるのが全然間に合わないのである。
 
約二年前に始めたX(旧ツイッター)で、私は日々の生活を備忘録代わりに呟いている。ギリギリの体力で進めるアラフォー育児の現状、ラブラブ期など地平線の彼方に消えた夫婦のガチ喧嘩、つい叫びたくなるほど感銘を受けたコンテンツなどなど。
 
それらの投稿の中でも上位にランキング入りするのが、次男5才の迷言なのである。
 
昨日は珍しく二人きりの日曜となり、5才を連れてマクドナルドでハッピーセットを楽しんだのだが、店を出た瞬間、彼はこう言った。
 
「なんか、ダイナミックだったね」
母は頭の中で(ダイナミック……?)とハテナを生やしながら聞いた。
「え、そう?」
 
すると5秒間黙り込んだ後、彼はこう問うた。
「ねえ、ダイナミックってなに?」
 
ずこーっからのずこーっ。
お母さん危うく商店街でひとり新喜劇を展開するところだった。びっくりさせるなよ。どうやら聞くところによるとテレビで聞きかじった「ダイナミック」を早く使いたかったらしい。「ダイナミック」の言葉の意味を改めて調べてみると(力強く、生き生きとしているさま)とある。意味もわからん言葉をただ使いたいからという理由だけで、この世に放ってみるなんて力強いにも程があるだろ。間違いない、君はダイナミックだ。
 
本人にとってはいたって真面目な発言が聞き手側からするとズッコケそうになる事が多々ある。最近では5才が何か言い出し始めると途中から(これはいいネタになるぞ)とXで呟くことが頭をよぎり半分うわの空になるのだから本当によくない。しかし、放った瞬間の鮮度そのままに書き留めておくことで5才の臨場感が文章に残る。船釣りに出たら釣った魚をその場で捌いて刺身で食べるのがうまい。そういうことだ。
 
後から見返しても色鮮やかな子育て日誌とも言えるXの呟きの数々は、私にとって宝物だ。
 
今日も今日とて、彼は私の頭にハテナを生やしにかかった。
幼稚園のお迎えに行った際、彼はどうにもこうにも納得がいかないという表情で車に乗り込んだ。
 
そして舌足らずの喋りでこう言った。
「ちょっとおかーつぁん!? 水筒がなくてよーちぇん(幼稚園)のお水もらったんだよ。お昼ごはんの時に見たらリュックに入ってたの。どういうこと???」
 
いや、そういうことだろ。
単なる見落としを何かの事件に巻き込まれたみたいに言うなよ。と、思いつつ頭の中では(早くこれをXに書かなければ! 一言一句漏らさず5才が言ったテンションそのままに文字に起こしておかなければ!!)と焦る。可愛い面白い支離滅裂だろが渋滞しだして、私の中のHGがセイセイセイと静めさせる。
 
なぜ私が焦るのか、これにはもう一つ理由がある。
子供にはその年代ごとの楽しさ面白さ可愛らしさがあると思っているからだ。我が家の5才の場合、まだ自分が面白い事を言っているという自覚がまるでない。大変無防備に放つ言葉の数々は、まるでこんぺいとうのように一粒一粒がキラキラの可愛らしさに満ちている。
 
また舌足らずのせいでいまだに赤ちゃん言葉のように聞こえてしまう彼の喋りを私は密かに楽しみ気に入っていたのだが、検診で療育を進められ今は定期的にトレーニングを受けている。検診を担当した看護師に「舌足らずな喋り方が小学生に上がった時にからかいの対象になることもある」と言われてしまってはさすがに放っておけない。
 
だからこの舌足らずな喋りももしかしたらもう少しでサヨナラするときが来るのかと思うと少し寂しい。そういう背景もあって、この舌足らずで無防備な喋りを1ミリたりとも見逃したくない! という心意気で家事はサボっても呟きはサボれないのである。
 
かと言って8才の長男が面白くないかというと全然そんな事はない。学校やお友達という私が足を踏み込める範囲が狭くなった分、彼が仕入れた知識や新しい感情を垣間見せる時、私もまた新鮮な気持ちでそれを聞くことが出来るし、以前に比べて賢くなった彼が時折見せるとんちんかんな場面に遭遇すると、それはそれで身悶えする程の感情に襲われる。そして漏れなく私は文字として残すのである。
 
先日兄弟喧嘩が発生した時、8才が5才に放った「もう一度赤ちゃんからやりなおせばぁ?」という悪態に対し5才が「せっかくここまできたのにぃ?」と切り返した時母は記録する為すぐさまスマホを握った。その速さはまるでライフセーバーが行うビーチフラッグであった。
 
いいぞ、もっとくれ。
もっとその無防備でアンバランスな今の時期にしか味わえない幾千もの可愛らしさをお母さんに放り込んでくれ。
これからも彼らの熱き迷言を取りこぼさないようにする為、母は秒でスマホを握りに行く。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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