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ぼくにだって意思はある~熱きラン活の記録~


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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
気が重い季節がやってきた。
ラン活である。
 
つまり、来年小学校入学を控えた次男5才のランドセルを購入せねばならないのだ。
 
いつからだろう、こんなにもランドセル選びが難しくなったのは。
ランドセルメーカーが多いことに加え、溢れすぎる情報に飲み込まれてしまう。計画性のあるご家庭ではカタログを数社取り寄せ、時間をかけて下見に通い、およそ2~3ヶ月かけて決めるというではないか。
幼稚園のママ友やSNSで「決めた」というのを聞くたび、焦りだけが募っていった。
 
トドのように重い腰をソファに沈ませスマホをスクロールしていると、とある有名ランドセルメーカーでは「このシリーズについては完売しました」の文字が見える。昔に比べてピークが早いようだ。
 
計画性のないトドの尻にもようやく火がつき、梅雨前線がすぐ後ろに迫ってきていた6月半ばの土曜日、我が家もその決戦にいよいよ突入したのであった。
 
手始めに今日行ける店舗をネットで探す。口コミの評価が非常に高いランドセルメーカーが目に付いた。どうやら職人が織りなす匠の技と、店員による丁寧な接客が理由のようだ。スマホの画面には、シンプルなランドセルが並び、紹介ページのデザインも洗練されている。
 
いいじゃないか。
お母さん、そのお洒落な感じ好きだぞ。
何? 宇宙飛行士の体を守る為にNASAで開発された素材を使っているだと!? ますますいいじゃないか! 気に入った! 5才さえよければもうここで決めちゃおう。
 
行く前からミーハー心ダダ漏れで、さっきまでのトドはどこに行ったのか半ばスキップでもする勢いでNASAのランドセル屋に向かった。
 
店舗到着。
完全予約制のため他の客はいない。高評価の期待を裏切らない満面の笑みで店員さんが出迎えてくれた。
 
「気になるものがあれば背負ってみて、是非お写真も沢山撮ってくださいね」
5才に背負わせてみると、ニコニコ誇らしい笑顔を見せる。
 
「もしよかったらお兄ちゃんも背負ってみていいですよ?」
その手があったか。既にランドセル生活をしている先輩が目の前にいるじゃないか。
 
別メーカーを使用中の8才の長男が感嘆の声を上げる。
「うっっっわ! 何これ! 柔らかい! 気持ちいい!!」
そうそう、お母さんそういう感想待ってたんだ。NASA御用達の低反発素材が背中を優しく包み込み、8才はうっとりとした表情を見せる。
 
5才はどうなんだい? 背中気持ちいいだろう?
もう決めちゃってもいいんだよ? 今日はじいじにもらったありがたーいお祝い金を持参してるんだから。
 
だが、肝心の5才の反応がはっきりしない。
何種類かのランドセルを背負わせてみたものの「うふふふふ」とか「ふーーーむ」とか言うだけで進展が望めそうにない。
 
一旦店を出た私たちは近くのカフェに腰を下ろした。
「どうだった?」と改めて聞くと5才は思いがけない言葉を発した。
 
「もう一個のランドセル屋さんにいきたい! 〇〇ってところ!!」
5才唯一の情報源であるテレビで、好きなアニメを見る際に流れているランドセルメーカーのコマーシャルがあるのを思い出した。
 
普段それについて言及することはなかったのだが、5才の頭にはしっかりと根付いていたのだろう。よし、このままの勢いでもう一店舗行こう!
善は急げで、私たちは別のランドセル屋さんに向かった。
 
店舗に着くとかなりの客で大変混雑している。二人しかいない店員さんは絶えずレジ内にて契約についての作業をしており、忙しそうだ。
 
今日決めるのは無理かなぁ、と弱気になった時だった。そんな母をよそに、5才が我が物顔でスタスタと店内に入っていく。慌てて追いかけると5才はさっきの店舗では見せなかった積極さを出し、次々とランドセルを見て歩いた。
 
「これ!」言われるままにランドセルを手渡すと嬉しそうに背負ってジャンプしたりクルクル回ったりしている。鏡に映る自分を見て変顔まで披露する始末。
明らかにさっきと全然テンション違うやないか!
 
気の赴くままにいくつか試した後、昔から本人が好きな青色が綺麗なランドセルのコーナーに近づいた。指さすものを手に取らせてみる。
「じゃあ、ぼく、これにする! 絶対これがいい!!」
 
入店して、ものの5分だった。
「本当にこれでいい? これね、6年間使うんだよ? 大丈夫そう?」
あまりの即決即断に母が動揺する。
 
「うん!!!!!」
彼のまっすぐな瞳には6年先までの意思も反映されていると信じて、結局これにした。肝心の質についても、老舗75年のメーカー、おそらく間違いないだろう。
 
こうして我が家のラン活は急に始まり、その日のうちに終わりを迎えたのであった。
ラン活で想像以上に意思の強さを見せた5才が、子供はみんなそれぞれの胸に羅針盤を持っているのだと教えてくれた。親は生活環境という船を準備する事はできても決定打を放つのは子供自身なのだ。
 
ランドセルも然り。
本人が決めたランドセルとてもいい。自分で決めたという満足感も手伝い、きっと大事に使ってくれることだろう。
 
帰宅後、正直未練の残ったNASAのランドセルのカタログを見ながら脳裏をかすめるものがあった。
 
「育てられる方が決めます。育てる方には選択肢ありません」
子供が自分の思い通りにならずに嘆いた時、子育ての先輩が投げ掛けてくれた言葉だ。
 
そうだよな。どんなに幼く映っても子供には自分の意思がはっきりと存在する。来年の春、息子がワクワクした表情で青のランドセルを背負う姿を想像しながら、私はそっとカタログをゴミ箱に捨てた。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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