メディアグランプリ

「量り売りお菓子に魅せられて」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佳代子(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「お預かりしたのはチェーンの部分のみですね」
(え? そんなはずないでしょう)と、心の中で叫んでいた。
実際には自信がなかったので
「そうでしたか? あんまり覚えていなくてすみません。家で探してみます」
と、口走る。(いやいやいやいや、そんなことあるのか?)
  
手持ちのネックレスのチェーンが切れたので、宝石屋さんに修理に出した。
ヘッドの宝石は「ルビー」だ。
小さいながらもルビーなので、それなりの値段である。
まあ、それはいい。(よくはないけれど)気になるのは店員さんの言葉だ。
 
「石をお預かりした際、お預かり証には石の説明を記載する決まりになっております」
らしい。つまり、書いてないので「ない」のだ。
そんなルールをわたしが知っているわけないし。そんな説明きいてないし。
(わたしにも、落ち度がある気はする)
 
ふたりひと組のタッグで迫られて。説明書きがないから預かっていません。を、強調する。(書き忘れているとか、誤魔化すとかあるよね?)って心で叫んでみた。結局、「ポイント割引ご利用890円」を、支払い「鎖がつながっただけのプラチナ」を引き取って帰ってきた。
 
もともと、わたしは物をなくすのが天才的だった。
落し物、忘れ物、日常茶飯事で
幼稚園という教育の場へデビューした時から
わたしは「物をよく、なくす子」になった。
 
落し物箱には、わたしの物がはいっていた。
それらは、お迎えにきた母にいつも引き渡されて、わたしは注意を受けるはめになる。
 
幼稚園の先生は、落とした のりやハサミを、わざと隠すという教育的指導をはじめ、後ろに手をまわし、それらを持ちながら「○○ちゃんどこにやったの?」と言っていたのを、わたしは気が付いていた。
 
 
 
そんな幼少期に衝撃的な事件が起きた。
 
母に連れられてデパートに行った時のことだ。
普段あまり出かけないせいか電車に乗り継いでついた店は、とても遠く感じた。
 
キャンディーの量り売りをやっていて、母が珍しく買ってくれると言った。
(いつも、「リカちゃんガム」ひとつだったのに!)
 
いろいろな味のキャンディーが山になっていて、好きなだけ詰め込む、という夢のような売り場だ。キラキラとした包み紙の飴を、味もわからないまま好きな色やキレイという理由で透明なセロハンの袋に次から次へと詰め込んだ。
幸せって形容詞を使うなら、この場面のことだろう。
ただし、子どもながらに気を使い10個くらい詰めてやめた。
そして会計された飴はわたしの手の中にいた。
 
その後の帰宅するその時のことは、鮮明に覚えている。
 
デパートから出る正面の自動ドア。
母は時間を気にしていた。
父が厳しい人だったので、家事を済ませないと帰ってきてどやされる
そう言っていた。
 
なのに、手には飴の袋がなかった。
「え?」母は驚いている
売り場に置き忘れてきたらしい。それは覚えている。
 
買ってすぐに飴の袋は、手元から離れていたのだ。
置き癖なのかもしれないが、今となっては真実わからない。
なぜなら、母は引き返すことはしなかったからだ。
 
わたしは目の前の自動ドアをくぐるのを抵抗した。
母が言う「でも、時間がないからあきらめよう」
と言って手をひいた。
すぐそこのエスカレーターをひとつ、ふたつあがっていけば
置き忘れたキャンディー売り場があり、きっとそこにあるはず! 
 
父は帰りが早い。夕闇がせまる、電車の時間もせまる。
 
わたしは、後ろをふりかえりながら歩き、母はふり向きもせずに
デパートを後にした。
 
あの時の感覚は忘れようもなく、いまだに取りにいけばよかったと本気で思っている。
幼少ながら探しに戻らなかったのは納得できなかった。
自分が悪い、けどなんでそんな勿体ないことをするのだろう? と心の底から思ったのだ。わたしが大人になったら絶対にあきらめないで走って戻って探したはずなのに。
 
最悪だ。物がなくなるたびに思い出される。
 
今回のルビーも出てこないだろう。
なにせ持っているはずの自分の記憶が「所在を覚えていない」し
なによりお店の人が全く探求する気持ちがない。
探す気持ちがなければ見つからない。
わたしの教訓だ。
 
周囲の人は「なくすな」とか「自分がわるい」とか
簡単に口にしますけどね。
そういう癖、または性分が抜けない人は必ずいる。
 
うまく付き合っていくしかないのですよ。
それは諦めではないはず。
 
「欠点を直すより なれてしまえ」である。
 
気が済むまで記憶の限り探す! 
この精神で人生大半の紛失物は手元に戻ってきたのだ。
これを言うと、これまた周囲の人間は「威張るな」とか「開き直るな」という
諦めてしまえば、それで終わりなのだ。
 
いま幼児のころを味わった悔しさを噛みしめている。
 
ネックレスを受け取ったその日
目の前にひろがる「量り売りのお菓子」を詰めながら思った。
いまなら忘れても絶対に取りに来る。
 
それと、お預かり証は思ったより大事なことがかいてあるので注意しよう。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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