メディアグランプリ

「クレーム王」の私を支えた「出入り禁止」の話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:武藤正孝(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
私はしがないサラリーマンである。人から称賛されるような人生も歩んでいない。
……怒られた数だけは人一倍だと感じている。
 
とくに20代前半、営業職をやっていた頃は酷かった。
不器用でコミュニケーション力もなく、毎日のようにミスをしては上司に怒られ、顧客からはクレームを受けていた。
 
周囲からは「クレーム王」と揶揄されるほどに。
 
しかしそんなクレームの中に、私の人生の「支え」になっている話がある。
ひと様に披露するべき話なのか悩みに悩んだが……
私一人で留めるにはもったいない話だと感じるため、差支えのない範囲で書き連ねたい。
 
 
新卒でコンピューター関連の営業職についていた私は、
いわゆる「飛び込み営業」を毎日数十件と繰り返す日々であった。
言うまでもなく、良い反応など返ってこない。
 
気持ちが折れそうになる中、それでも稀に契約をとれることがあった。
 
そんな稀な会社の一つに、とある町工場がある。
 
まだ暑さが残る時期だったと思う。私に同行していた熱血漢の上司に励まされつつ、飛び込んだ先であった。
 
社長の娘とおぼしき、不良じみた若い女性が問いかけてくる。
「あんた、そんな仕事で楽しいの?」
「まぁ……楽しくはないですが、仕事ですから」
「ふーん。…… ダサい仕事だね」
吐き捨てるように言われる始末である。
 
強面の社長に当初は苦戦したものの、上司や先輩の助けで契約をとることができた。
私の飛び込み営業での、数少ない成功体験である。
 
……はずだった。
 
無事に納品が済み、導入してもらった様子を伺いに訪問した時だった。
強面の社長が鬼のような形相で出てきた。
 
「お前、何しに来やがった!? お前の仕事は終わっただろ! もう用はない! 帰れ! 二度と俺の前に来るな!」
 
理由を伺う余地もなく、あっという間に工場を追い出されてしまった。
……最後は本当に突き飛ばされて外に出た。
 
何がなんだかわからない。
 
その日の夕方、別で訪問した先輩が私に言った。
「お前、もうあの会社には絶対に行くな。ここからは俺に任せろ。理由はいずれ伝える」
 
……出入り禁止である。
 
 
3ヶ月ほど経っただろうか。
ある日の夜、先輩が神妙な面持ちで私を呼び出した。
 
「例の社長、亡くなったよ。……お前と出会ったときには、もう病気がかなり進行していたそうだ」
 
先輩が、いつになく姿勢を正す。険しい表情で続けた。
 
「社長から……お前を『出入り禁止』にした理由を聴いている。それをこれから話す。お前のこれからの人生に重要なメッセージだ。メモなんか取るな。聴くことに集中しろ。二度は言わん」
 
社長からのメッセージは次のような内容であった。
私個人の胸に秘めるべき部分もあったため、要約である。
 
 
お前(私)は、口下手で不器用なのに営業などという仕事をしている。
残念ながら、100人出会えば99人には嫌われてしまうだろう。
そして、それは簡単に変えられるものでもないだろう。
 
だが、俺はそんなお前の言葉に『嘘がない』と思って契約した。
そんなお前の様子を見て、今までやる気がなかった娘が「後を継ぐ」と言ってくれた。
娘はまだ若い。俺には、取引相手に『嘘がない』というのが何よりも大事だった。
 
おかげで会社の後継ぎができた。
俺の最期の仕事ができた。
 
お前は100人のうち99人に嫌われる。さぞ辛かろう。
だが、100人のうちの1人である俺の人生は変わったぞ。
100人のうち1人でも人生を変えられる。素晴らしいことではないか。
 
お前は、その『100人に1人』に会いに行け。
俺みたいな人間は世の中にたくさんいる。
『100人に1人』は、お前が来るのを待っているんだぞ。
 
だが、人生には限りがある。
 
俺は俺の時代を生き切った。もう十分だ。お前もお前の時代を生きろ。
お前の不器用なやり方で『100人に1人』に会うには、どれほど時間がかかる?
俺に挨拶している時間などあるのか? 
見舞いも来るな。線香もいらん。お前にそんな暇はない。
だから、二度と俺の前に来るな。
 
 
先輩が席を立った。
「……大事なバトンを受け取ったな。絶対に落とすんじゃねぇぞ」
 
 
それから幾度となく辛い出来事があった。
冒頭に述べたとおり、賞賛を受けるような人生でもない。
だが、度々この社長の言葉を思い出し、助けられている。
 
100人に1人。
日本には約1億2000万もの人いる。「100人に1人」は何人になるだろう?
世界には約70億もの人がいる。「100人に1人」は何人になる?
そう考えると、とんでもないスケールの仕事と人の輪が待っている。
 
私は「100人に1人」に出会えているのか?
「100人に1人」の役に立つことはできているのか?
今日出会った相手に嫌われても、明日「100人に1人」の役に立てば良いではないか。
 
そう自分に言い聞かせてはいるものの、この言葉にふさわしい行動が出来ているのかどうか、正直、自信がない。
 
ただ、こんな私にもこのような人がいて、このような話があったのだ。
どんな人にも、待っている・役に立てる(役にたつべき)「100人に1人」がいると思う。
この話が、私のような方の何かの助けになれば幸いである。
それこそ、100人に1人で十分だ。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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