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同じ場所でシャッターを切ったけど


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:妹尾有里(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
夫と同じ場所でカメラのシャッターを切った。
夫は一眼レフの、私はスマホの。
 
紫陽花の季節。鎌倉の長谷寺や明月院はきっと混みあって大変だろうなと思い、そこまで知名度が高くなくて近場の多摩川台公園に二人で出かけた。紫陽花の名所を検索して出てきた中から選んだのだが、後で以前一度行ったことがある公園だと気がついた。とても気持ちのよい公園だったと思い出し、ワクワクしながら向かった。
多摩川台公園には「あじさい園」がある。色とりどりの紫陽花が咲き誇り、それは見事だった。青系や紫系の花が多い中、濃いピンクの紫陽花がひときわ可愛らしく目を引いた。しかも、それほど混みあっておらず、ゆっくりと紫陽花を鑑賞することができた。大正解!
 
「あじさい園」の他にも、多摩川台公園には見どころがたくさんある。自然林の道、水生植物園、四季の野草園や広々とした広場、そして、古墳もある。古墳時代後期の古墳群で、古墳展示室もある。園内は6万7000平方メートルもあるそうで、散策し甲斐がある。
 
園内のある場所で足を止め、夫と私はそれぞれにシャッターを切った。夫が一眼レフで撮ったのは古墳群の説明が書かれた案内板で、私がスマホで撮ったのは、その看板の向こうの、うっそうと生い茂った木々の合間に丸く覗いていた青空だった。なかなか素敵な写真が撮れた! 夫に見せると「同じ場所で撮ったのにね」と二人の写真の違いをおもしろがった。
 
本当におもしろい。同じ場所にいても見ているものがこんなに違うんだ!
そこで思い出したのが「カラーバス効果」という心理学用語のことだった。特定の物事を意識し始めると、その物事に関する情報が無意識に集まるようになる心理学効果によっておこる現象。人間の脳はすべての情報を取り込むとキャパオーバーとなって処理しきれなくなってしまうため、無意識に選択したことで情報が処理できる仕組みになっているという。カラーバス効果は、特定のことを意識するだけで、関連する情報だけを無意識に集めていく作用がある。自分が見たいもの、普段から意識していること、自分事として捉えていることに自然に目がいく、つまり「人は自分が見たいものに意識を向けている」ということだ。初めてこの「カラーバス効果」の話を聞いた時には、「なるほど、そういうことだったのか!」と非常に納得し、腑に落ちるものがあった。
 
人は自分が見たいものを見ている。同じ場所に立っていたけれど、古墳好きな夫は古墳群の案内板を見て、自然が好きな私は案内板の向こうの木々や空を見ていた。
こんなに見ているものが違うのだから、「言わなくても察してほしい」なんて所詮無理な話なのだ。まだ子どもたちが小さかった頃、私は子どもの世話でこんなに大変なのに、なんで夫は涼しい顔してのんびりとソファで寛いでいるんだろう、なんて怒りが湧いてくることがたびたびあった。恐らく、夫には大変な状況が見えていなかったのだろう。きっと、悪気があってのんびりしていたわけではなく、ただ気がつかなかっただけだったり、何をしたらいいのかわからなかっただけなのだ。あの頃、そのことに気がついていたら、無駄にカッカしたり、がっかりしたり、悲しんだりしなくて済んだのになぁ。ただ、「こうしてほしい」と具体的に伝えれば、絶対やってくれたはず。
家族といえども別々の人格。だから、違っていて当たり前なのだ。その当たり前を忘れて、「家族なんだから、同じように思っているはず」と無意識に期待してしまうことはないだろうか。自分の見ているもの、感じていることは、言葉で伝えなくては相手には伝わらない。
自分と相手が見ているものは違っているかもしれないという視点は、家庭内だけではなく、職場で、社会全般で、ミスコミュニケーションやすれ違いを回避するために、大いに役に立ちそうだ。
 
人は自分が見たいものを見ている。だから、同じ場にいて同じものを見ているようでも、自分と相手は全然違うものを見ている可能性がある。けれども、違いを恐れるのではなく、違いを楽しむことでコミュニケーションが豊かになっていく側面もあるのではないだろうか。同じ場にいて同じものを見ているようでも、受け取っているものが違うのであれば、「私はこう感じたけど、あなたはどう?」と訊くことで世界が広がるような気がする。他者は自分が受け取れなかった情報や自分とは違う考え方、感じ方を教えてくれる。それを互いに「いいね」と言い合えれば、とてもよい空気が生まれそうだ。
似通った人であれば共感することも多く居心地よいだろう。でも、違うからこそのおもしろさがある。昨今よく耳にする「みんな違って、みんないい」という言葉が改めて思い出された。
 
夫と同じ場所でシャッターを切ったけれど、夫婦で全然違う写真が撮れた。
全然違うからこそ、この人と一緒に歩んでいくこれからの人生が、ますます楽しみになった。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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