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コミュ力ゼロの私が,コミュニケーション学の大学教授になった理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:こまつ(ライティング・ゼミ2024年6月開講1ヶ月集中コース)
 
 
私は大学で医療コミュニケーション学の教壇に立っている。
しかしかつての私は……。
 
「こまつ君、君は本当に接客が苦手だね」
「すみません、店長。でも、厨房の仕事なら誰よりも早くこなせます!」
私は焦りながら答えた。高校時代、近所のハンバーガー店でアルバイトをしていた。しかし私は、接客がどうしても苦手だった。お客さんの目を見て話すと心臓がドキドキし、言葉が出てこない。厨房にこもるのが唯一の逃げ道だった。
 
「アルバイトやれてる?」母が心配そうに尋ねた。
「うん、まあなんとか……」本当のところは伝えられなかった。
母は続けた。「医療職になるにはコミュニケーション力が大事だって知ってる?」
私が医療職、特にリハビリテーションのセラピストを志すことになったのは、就職氷河期であったため資格が必要だという認識からだった。自分のコミュニケーション能力を深く考えないまま、セラピストの養成校に入学した。
 
入学式直後の初対面の時、私は新しいクラスメイトにどんな言葉を発していいのか分からず、口を開くのが怖かった。何度か「こんにちは」と隣の席のクラスメイトに声をかけようとしたが、言葉が喉に詰まり、うまく話せなかった。その時、私の心は不安と緊張でいっぱいだった。
 
「やぁ、なんか見覚えがある。同じ高校じゃなかった?」明るい声が私の耳に届いた。
驚いて顔を上げると、そこにはA君が立っていた。彼は人懐っこい笑顔を浮かべていた。
「うん、同じ高校だったね。でも、クラスが違ったから話したことなかったよね」私は少しずつ緊張をほぐしながら答えた。
 
「そうだよね。なんか、見覚えがあると思ったんだ」A君は笑いながら言った。
「ところで、今日のオリエンテーションどうだった?」その質問に、私は少し戸惑いながらも答えた。「緊張した……」
 
A君の明るい性格に引かれ、彼の存在が私の心を軽くしてくれた。彼はいつも自然に人に話しかけ、周りを笑顔にしていた。私はそんなA君の姿を見て、彼のコミュニケーションスキルを真似しようと決意した。
 
まずはA君の「名前+挨拶」を取り入れることから始めた。彼は私を「こまっちゃん」と呼び、朝は「こまっちゃん、おはよう」、夕方は「こまっちゃん、バイバイ」と挨拶してくれた。私はそれを見て「名前を呼んで挨拶することで、相手との距離が縮まるんだ」と感心した。
 
次に、共通の話題を見つけることを学んだ。A君はいつも、「このお店のラーメン美味しかったね」や「今日の授業面白かったね」といった共通の体験を話題にしていた。それを真似て、私はクラスメイトに「今日の授業どうだった?」と話しかけるようになった。これによって、会話が自然に弾むようになった。
 
さらに、A君が頻繁に「いつもありがとう」と感謝の言葉を伝える姿勢にも学んだ。
ある日、A君がふざけて「こまっちゃん、君の笑顔には100点満点だよ!」と言ってくれた。それが私にとって大きな励みとなった。私はA君の姿勢に感化され、同じように感謝の言葉を伝えるようになった。
 
卒業が近づくにつれ、社会に出ることが怖くなった。学生時代とは違い、社会では多様な人々とコミュニケーションを取る必要がある。私は自信がなく、わざと留年して学生生活を続けようかとも考えた。
「まずは挨拶だけはしっかりしよう」と自分に言い聞かせ、なんとか社会に出た。
 
就職先では、先輩からコミュニケーションの本質を学んだ。
「コミュニケーションは相手の気持ちを受け取ることが大事だ!」と先輩が教えてくれたその言葉が、私の考えを大きく変えた。たしかに、私は自分が話すことがコミュニケーションと思っていた。
「あ、そうだったか」私はまさに府に落ちた。実は学生時代のA君はそうしていた。
 
病院のリハビリテーションプログラムに「SST(社会生活スキルトレーニング)」というコミュニケーションスキルの改善を目指すプログラムがあった。それを知った時、「これだ、自分に必要だ」と直感した。だが、同時に自信がなく、避けていた。
しかし、職場の状況により、SSTの指導者にならざるを得なかった。
 
先輩! ジョーダンでしょ? 
いやいや無理です? でも、SST指導者の研修に挑戦した。
 
研修で出会った講師が私に言った。
「あなたは、コミュニケーションに悩んできたからこそ、参加者の気持ちが理解できる。それがあなたの強みです」
その言葉が胸に響いた瞬間、私の中で何かが変わった。「これこそ、自分が求めていた道だ」と感じた。
 
初めて指導者としてセッションを進行した日、私は緊張で手が震えた。そして8年間ほど、患者さんたちが真剣に耳を傾け、共に学び、練習を繰り返した。
ある日、セッションの後、患者さんの一人が私に言った。
「こまつさんもあんなに緊張して汗びっしょりで震えてやっていたのに、今では堂々としている。それを見て、私もコミュニケーションを練習すればうまくなると思ったし、練習を重ねたことで、自信が付きました。人と会うのがおっくうではなくなりました。ありがとうございます」
その瞬間、「自分の経験が誰かの助けになる」と感じ、私の情熱は燃え上がった。
 
それから数年がたった。
今、教壇で学生たちに向かって話すとき、かつての自分を思い出しながら、彼らに伝えたいことが山ほどある。
ある日、学生の一人が私に質問を投げかけてきた。
「先生、どうしてそんなにコミュニケーションが上手なんですか? 」
その問いに対して、私は笑顔で答えた。
「昔、昔は全然話せなかったんだよ」
「練習と経験を積んで、少しずつ上手になったんだ」
 
「コミュニケーションを練習することで、人生が無限に広がる」と信じて、これからも多くの人々にその価値を伝えていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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