メディアグランプリ

何度も命拾いをしていた事に気がついた時、点と点は繋がった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安田伸也(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
気がついた時には、左の腰のあたりにヘッドライトの光があった。
 
とっさに柔道の前受け身の要領で、トラックのフロントガラスを叩き、右に飛んだ。
 
どうもトラックに跳ねられたようだと状況を理解したと同時に、左半身に痛みが走った。
 
しばらく起き上がれずに、道路に横たわっていた。
 
20年以上前のある日、冬の夕暮れ時、仕事先からの帰り道だった。
 
普段から人通りもほとんど無い、とある漁村での事故だ。
 
倒れているわたしに、近所に住んでいるのであろう、おばあさん達が顔を覗き込んできた。
 
「にいちゃん、大丈夫か?」
 
どう控えめに考えても、トラックに跳ねられたのだから大丈夫なわけがない。
 
しかし、幸い意識はある。
 
とっさに受け身が取れたのは、中学生時代柔道をやっていたからだ。
 
アスファルトの地面に叩きつけられる瞬間、柔道で投げられた時のように、無意識に首を引っ込め、身体を硬直させてショックを和らげた。
 
トラックは坂道を下ってきて、クランク状に曲がり、そのまま私が歩いていた路地に入ろうとしたようだった。
 
トラックを運転していたと思われる男性が近づいてきて、ポツリと言った。
 
「ぶつかるまで気がつかなかった」
 
ノーブレーキだったことから、少なくともスピードは2〜30キロ近くは出ていたと思われる。
 
何とか起き上がると、わたしは、トラックのいる場所から2メートル以上離れた場所に倒れていた。
 
結構飛ばされたようだ。
 
男は病院へ行こうと言い、私を抱きかかえてトラックに乗せ約20分ほどかけて一番近い病院へ急いだ。
 
混乱していたこともあるが、救急車を呼ぶなどの考えは思い浮かばなかった。
 
田舎なので、近くに病院が無い。
 
約20分かかって病院へ着くと、CTスキャンを取られた。
 
スキャンが終わり、立ち上がろうとすると先ほどまで操作室にいた検査技士が大慌てで「そのまま動かないで」と叫んでいる。
 
そして、急いで車椅子を持ってきた。
 
「え? そんなに悪いのか?」
 
左半身が痛いだけで、他には何ともないのに。
 
生まれて初めて車椅子に乗せられて、診察室に入った。
 
医師は、CTの画像を見ながら苦笑している。
 
「大丈夫、大丈夫、脳のこんな所に出血があったら、あんた今頃意識無いから」
 
どうも、検査技士は画像に写った影を脳内出血と勘違いしたようだ。
 
診察の結果、左半身の打撲とぶつかった時に左耳の中を切って少し出血していただけだった。
 
冬場で革ジャンを着ていたのも幸いしたのであろう。
 
その日の夜も、寝られないほど痛いわけでもなく、普通に歩けたし出血もすぐに止まった。
 
左半身に痛みはあるものの、仕事を休むほどでもなく、次の日も歩いて出勤した。
 
 
改めて、運が良かったと感じたと同時に柔道をやっていて良かったと思った。
 
今、思い返してみるとこの受け身の技術のおかげで助かったのは、この時だけではなかった。
 
就職前、小さな瓦屋根専門の建設会社で、アルバイトをしていたことがある。
 
その時の現場は、建築中の木造民家だった。
 
瓦を葺く土壁をバケツに入れて、まだ板が渡してあるだけの床が仮設された2階を歩いていたところ、板が外れ1階に転落した。
 
身体が宙に舞ったと感じて受け身を取り、怪我をすることは無かった。
 
その後就職してから作業中に、3メートル近い高所から頭を下にした状態で転落したこともある。
 
その時も、回転受け身の要領で難を逃れ、指を1本亀裂骨折しただけで済んだのだった。
 
 
柔道は、中学時代に学校のクラブ活動で3年程度やっただけで、強いわけではなかった。
 
何度も地区の大会へ出場した覚えはあるが、勝った記憶がない。
 
それほど、わたしは下手で弱かった。
 
そんな、中学生時代の柔道のクラブ活動は、良い思い出も無くただただ苦痛だった。
 
元々気が弱くて、自分の意見を言えなかったわたしは、小学生時代は虐められっ子。
 
そんなわたしは、少しでも強くなりたい。
 
そう思って入った柔道部だった。
 
しかし、その柔道部でも強面の先輩にしごかれるという、試練が待っていた。
 
クラブに入って約3か月間は、柔軟運動と受け身の練習だけ。
 
もちろん、それは基礎だし大切な練習なのだが、一方的に先輩に投げられるのは辛かった。
 
時々、仮病を使って休んだ。
 
しかし、今思い返すと、柔道部で繰り返しやった受け身の練習は、無駄にはなっていなかったのだ。
 
あなたが繰り返し、繰り返し、毎日、毎日やっていること。
 
それがわたしの命を救ってくれた柔道の受け身のように、将来自分を助ける「芸」や「技術」になるかもしれないのだ。
 
Appleの創業者の1人、スティーブ・ジョブズはこんな言葉を残している。
 
「将来を予想して、知識や経験などの点と点をつなぐことはできない。後々の人生で振り返った時にしか、点と点をつなぐことはできないのだ。今やっていることが、将来、自身の役に立つこと。点と点がつながることを信じて取り組みなさい」
 
職場でやっていることが、詰まらないと感じた時。
 
仕事や役割などで自分が損をしていると感じた時。
 
自分の望んでいない部署などへ転勤を命ぜられた時。
 
 
そんな時は、この言葉を思い出して、ふて腐らずに目の前の課題に取り組んで欲しい。
 
点と点が繋がる事を信じて。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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