メディアグランプリ

夫の思惑に乗っかってみたら予想だにしない未来が待っていた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:仁科ひかり(ライティング・ゼミ2024年6月開講1ヶ月集中コース)
 
 
「そろそろ子供が欲しい」。
付き合って8年ほどで結婚した夫から、ついに言われてしまった。
 
もはや、私にとっては「そろそろ」ではなかった。「もう」である。
結婚するときから何度も言われていたため、彼の「家族が欲しい」という願望については承知していたけれども、こんなに早くか……。
 
夫から放たれるそのセリフには、四方から囲まれて逃れられない空間を作られた、そんな圧迫感を感じさせるほどに威力があった。
 
「んー、確かにねぇ」。
何が「確かに」なのかもはやよくわからないけれど「子供のことを考える気にまだなれない」という言い訳が返せるほどの要素がどこにも見当たらない。
 
仕事は在宅勤務だったし、周りにも子供がいる友人は多かったし、彼の「子供が欲しい」という真っ直ぐな願望を目の当たりにして、私が持っている武器では何1つ歯が立たなかった。
 
私が母親になることに難色を示すのには、いくつかの理由があった。
意見が異なる方もいると思うので、反感を買う可能性があることを熟知したうえで発表することにします。
 
第一に、私はその頃、自分の好きなことを好きなだけやりたいという願望がとても強かった。仕事も趣味も人付き合いも、自分が好きなことを謳歌できる時間を誰にも削られたくなかったのだ。
 
好きなだけ仕事して、読みたい本を読みたい時間に読んで、長風呂しながら興味のあるYouTubeを見る。そんな至福の時間を犠牲にしたくない、と当時の私は思っていた。
 
そして、子供が大得意! というわけでもなかった。
もちろん姪っ子や甥っ子は、何でも買い与えてあげたいと貢いでしまうほどに可愛いかったけれど、自分が母親になるのとは訳が違うことは理解していた。
 
24時間365日子供と一緒にいると思うと、何を話して、何をして遊べばいいのかわからなかった。もちろん子供と遊ぶためのクリエイティブさを備えているわけもなく、一緒にいて子供から「楽しい」と思ってもらえる自信がなかった。
 
今思えば、子供が「理想とする大人」を演じることにプレッシャーがあったのだろうと思う。
 
つまり、自分には母性はないかも、と感じていたのだ。
 
そんな私が、その1年後には母親になっていた。
 
急に「家族」という言葉が、ぶわぁっと自分の目の前に立ちはだかり、母親になった姿を見てみたくなった、もう1人の自分が顔を出してきたのがきっかけだったように記憶している。ここらで知らない世界を見てみなきゃ、と何かに駆り出されたのかもしれない。
 
結局は、夫の仕向ける方向に、事態は好転していったのである。
 
とはいえ、母親になる以上はある程度の知識は備えておきたく、育児やメンタルコントロールなどさまざまな知識に関する勉強も並行して行った。ただ、日々勉強すること以上に、我が子と過ごす時間から得られる経験や感情の方が何倍も価値があると感じたし、心にずっしりと重く響いてくるものがあった。
 
母親になって数年、自分の好きなことだけをしていたときよりも、人間的にアップデートされたような気がする。レベルアップしたかといわれるとよくわからないけれど、生きる世界線は確実に変わった。
 
ポケットモンスターのゲームソフトで例えると「ポケットモンスター 金」で成長していく主人公と「ポケットモンスー スカーレット」で成長していく主人公くらい、見える世界は違うような気がする。(知らんけど。)
 
どちらがすごいとかではなく、それくらい見える世界が違って、周りの環境も変わったということである。たとえ同じドラマの1シーンを見ても、子供がいる今といなかった昔では、考えることや連想されること、なんなら涙するスピードまで違うだろう。
 
こんなに変化するものか、と自分を疑いたくもなる。それくらい勝手に、子供中心の生活に変化し、脳内までも子供一色に染められている最中である。
 
ちなみに日曜日の朝は、すぐにアンパンマンの録画を見出すのがルーティーン。時刻は7時。休日だろうが起床時間は平日と変わらない、むしろ早いことだってある。母親である私は、子供に促され、子供よりも元気にアンパンマンのテーマソングを踊る。眠たいと目をこすっている場合ではない。そんなこと、自分の幼少期にだってなかったのに。
 
なんなら、アンパンマンの各キャラクターの名前も幼少期の頃よりも知っている。私の推しはだだんだん。ほら、推しまでできてしまったじゃない。
 
ただ、休日の朝にこんなにほっこりする時間があるなんて、以前の私は知らなかった。
 
子供が、私の頬に手を当てて「ママぁ、好き」と言ってくると、本当に0.1秒の速さで私の胸の奥深くまでじんわりとあたたかくなる感覚も。なんなら少し呼吸がしにくくなる感覚も。「ダメよ、こけるでしょ!」と叱っても「ママが助けてくれるんだよねぇ?」と上目遣いで聞いてくると、一気に目頭がじわじわと熱くなって、つい目尻が下がってしまう感覚も。
 
体の随所が、サーモグラフィカメラに映るとおそらく真っ赤っかになっているであろうこの感覚を、以前の私は知らなかった。
 
子供は、私にこんなに暖かで人間的な一面を引き出してくれた。その一方で私は今、強さも手に入れなければならない窮地に追いやられている。
 
子供のお手本にならなければならないのだ。
 
私がいくら子供に「片付けなさい」「歯磨きしなさい」と言っても、私がやってみせる方が100倍早い。特にイヤイヤ期を超えて、コミュニケーションが取れるようになった子供を相手にすればなおさら。隣で黙って、一緒に片付けたり、一緒に歯磨きしたり。
 
「これは、私も人生を懸命に生きる必要がある」と腹を括った。勉強することも、人との関わり合いも、仕事への向き合い方も。
頭は子供中心でも、自分の人生は別でレベルアップさせていく必要がある、と悟ったのだ。自分が好きなことをやることが、知らず知らずのうちに子供の活力になるかもしれない。
 
ただ自分以外の人に影響することを考えると、自分の好きなことをやるのがこんなに覚悟のいることだとは知らなかった。
 
「今さえよければすべてよし!」を積み重ねる人生だった私の「遠い将来」を、子供という存在が楽しみにさせてくれた。子供がいることで、守られなければならない強さや、失うことへの不安がつきまとうこともあるけれどそれ以上に、将来を明るく、楽しみにさせてくれていることに感謝して。
 
なんだ、なんにも犠牲にならないじゃないか。夫の思惑通りに物事が進んだら、こんなにほっこりするあたたかい今が待っていたとは。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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