我が家に代々伝承してきた「にわとりめし」の隠し味を公開
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記事:こまつ(ライティング・ゼミ2024年6月開講1ヶ月集中コース)
「お正月はいつ帰ってくる? ばあさんが、にわとりめしを用意するって張り切っているよ」
年末とお盆前にかかってくる恒例の電話だ。
「にわとりめしを食べたい!」と私の息子たちが電話に向かって言う。電話の主は離れて田舎の山奥で、祖母と祖父と暮らす父からだ。
「にわとりめし」とは生々しい言い方である。
私が幼い頃、それが出される時には、実家で飼っていたにわとりが減っていたのを覚えている。「家畜の命を食べ生きることができる。にわとりのいのちをありがたく頂きなさい」という教育が含まれているだろうか? 「にわとりめし」と誰が言い始めたのかは不明である。
実は「にわとりめし」とは、ゴボウと鶏肉の混ぜご飯で、九州では「かしわごはん」や「かしわめし」と呼ぶ。しかしなぜか私の家族・親戚は「にわとりめし」と呼ぶ。
にわとりめしのレシピや作り方は簡単。
近年は庭で飼っているにわとりを絞めることはなく、スーパーで親鳥と若鳥の鶏肉を同量買う。それを小さく切っておく。ごぼうはささがきにして一晩水につけアクを抜く。次の日にごぼうと鶏肉を炒め、さらにそれを醤油とみりん、酒、砂糖で煮る。そしてごはんを普通に炊き、炊きあがる数分前にそれらを入れ混ぜる。さらに炊き上げ、蒸す。
にわとりめしは、親戚が集まるお正月やお盆、法事、田植え、みかんの収穫の時に祖母が作っていた。私は幼い時にお茶碗5杯も食べたと祖母が言うが、私の息子たちも5杯は食べたことがある。
にわとりめしは、祖母がお嫁に来てから私の曾祖母から伝承されたそうだ。
いわゆるお嫁さんと言われる人たち、つまり私の母、父の兄弟の妻(おばさん)、私の妻、私の弟の妻が、実家以外でも食べようと各地で「にわとりめし」に挑戦した。しかし「かしわごはん」にはなるが,「にわとりめし」の味が出せない。
私の妻も何回も実家から遠く離れた我が家で挑戦した。しかし、にわとりめしとはちがう。父は「にわとりめしは、うちでつかっているしょうゆとうちの畑で取れたごぼうでないと風味と甘さが出ないよ」とよく言っていた。たしかに、にわとりめしには甘い醤油と赤土で育ったごぼうが必要なのかもしれない。
しかし最近になって、私はにわとりめしの隠し味が分かった気がする。
にわとりめしは親戚が集まるお正月やお盆、法事の時などに祖母が作っていた。つまり親戚が年に数回、実家といわれる田舎で山奥の「家」に集まり、近況を報告しあい、昔を懐かしむ会話や雰囲気が隠し味ではないだろうか。
「もういくつなる? 」
「就職したよ」「進学したよ」
「じいさんに似てきたね!」
「じいさんは若い時……」
「にわとり減ったね?」「それよ!」「うそ!」
そんな会話をしながら食べるにわとりめしが最高においしい。
コロナウィルス感染症の拡大で、数年間こんな親戚の集まりが出来なかった。
会うことを自粛した期間に、祖父と父が天国に旅立った。
お葬式で、にわとりめしで祖父と父を供養したかったが、悲しみの祖母にその元気はなかった。
今日は、父の3回忌の日。
久しぶりに田舎の山奥の実家に帰る。途中、施設に入所している祖母を迎えに行き、車に乗せる。祖母に会うのも数ヶ月ぶりだ。祖母は道中、思い出話に花が咲く。よく昔のことを覚えているが祖母は今92歳だ。
私たちは1年ぶりに今はだれも住んでいない実家に着く。玄関のドアを開けると薄暗くしーんとしていて湿った感じがする。
仏壇に花を上げ、線香をつける。法要はしない。私、妻、息子、祖母で仏壇に手を合わせる。
祖母は父と祖父の遺影に向かい「久しぶりに来たよ。じいさんが死んだ年まで頑張るよ。だからまだそっちからの迎えは早いよ」と言う。
法事・法要の食事会のことを「おとき」と言うらしい。しかし今回は用意していない。
代わりに仏壇の前のテーブルを4人で囲み、線香の香りの中、妻が「かしわごはん」のおにぎりをかばんから出した。
妻が「かしわごはんを作ってみたよ。食べてみて」と祖母に言う。
祖母は驚いた表情で「あなたがつくったと? 」と尋ねる。
「むかし、教えてもらった通りに作ってみたよ。食べてみて」と妻は祖母に味見を頼んだ。
「教えたかな?」と言いながら祖母もそれを口にする。
鶏肉が硬いのか何回も噛んでいる。祖母はそれを飲み込んだ。
「ん。いい!」
「これ、いい! うちのにわとりめしや! 食べてみて!」と祖母が私と子どもにも差し出す。
「おいしい! にわとりめしや!」と私は言った。
妻への忖度や気遣いではなく、私は本当に祖母のにわとりめしだ。息子もにわとりめしを頬張っている。
帰る際、再び仏壇に手を合わせた。
妻は「にわとりめし、伝承しましたよ」と手を合わせつぶやく。
次ににわとりめしが食べれるのは、お盆か? お正月か?
その時は、多くの親戚もいることだろう。
ますます美味しいにわとりめしが食べれるはずだ。
待ち遠しい。
そして,次はだれがにわとりめしを伝承してくれるだろうか。
それも楽しみだ。
父の遺影は笑っている。そして「たのむよ」といっているようだ。
***
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