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人間はスマホのようなものなのかもしれない


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記事:鈴木(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
大学に入るまで、障害者と言われる人が苦手だった。
それらしい人を見かけると距離を置きたくなるくらい、怖かった。
突然何をし始めるのかわからず、理解できない行動をとるから、近づきたくなかった。
 
進路選択の時、勉強はそんなに嫌いじゃないし、人に教えてわかってもらえるとなんか嬉しいし、学校以外の世界はよくわからないし、という理由で教育系の大学に進学した。
そこでは、特別支援教育に関する講義は必修だった。
特別支援と言う言葉が何を指しているのかもよくわかっていなかったのだが、講義を受講したら世界の見え方がすっかり変わってしまった。
 
特別支援教育に関する講義の内容は、簡単に言うと、同じ学年の子どもたちと一緒に、同じ環境で同じ授業を受けることが難しかったり、また、受けたとしても同じように理解することが難しかったりする子どもたちに対して、教師はどのように支援をしていくのか、と言うことを学ぶ講義だった。
障害や教育に関する内容や支援方法は時代と共に変わっていると思うが、当時自分が受けた講義の内容と、本で読んだ情報を基に書いているので、そこはご承知おきいただきたい。
 
講義内容の中で一番に思い出すのは、自閉スペクトラム症の人たちに関する話だ。
この障害を持っている人の特性の一つとして、想像することが苦手、というものがあるらしい。
そしてこれが、学校や日常の中で生活するときに、ほかの人たちと同じように理解することを難しくしたり、人とのコミュニケーションで問題が起こったりすることに繋がるのだそうだ。
具体的に言うと、
「学校から家にまっすぐ帰るんだよ」と言われると、「学校から家まで曲がらずに直線のみで家に帰る」という理解をする、というのだ。
この文脈で「まっすぐ帰る」という言葉を聞いた日本人は、「ふらふらと寄り道をしないで、まっすぐ帰る」という意味だということを、当たり前に理解するだろう。
とにかく、察するとか、たとえ話とか、言葉の裏側を読むとか、暗黙の了解などのような、言葉から別の意図を想像することが、極端に苦手らしい。
この感覚で話をすると、すれ違いだらけでコミュニケーションに相当困難が生じるであろうことは、簡単に想像ができると思う。
 
このエピソードを聞いて衝撃を受けた私は、大学の図書館へ行って、自閉スペクトラム症について書かれた書籍や、当事者たちが書いた本を読んでみた。
当事者が書いた本の中には「スカートを履くと、自分の目で足が見えないため、足が存在しているかどうかわからなくて怖い。だから基本的にズボンしか履かない」「登校するときに、自分が学校へ近づいているのか、学校が自分の方に来ているのかわからない」「いつも同じ行動をすることで安心する」など、私には想像ができない感覚や世界の中で生きている人がいることを知った。
同じ人間なのにこんなにも違うことがあるのか、と思った。
 
理解できないと思っていた障害のある人たちの行動は、私の感覚からは理解できないというだけで、その人たちには何かしらの理由があるのではないかと想像する、という方法を習得した。
そして私は、過去に出会った障害のある人の行動を思い返した。
 
中学生のころ、学校に特別支援学級があった。そこに所属していた人は、授業中に廊下の同じ場所を行ったり来たりしていることがよくあった。
私はその行動を見て「なぜいつも同じ場所をぐるぐるしているんだろう。理解できない」と恐怖を覚えて、決して近づこうとしなかった。
だけど、特別支援教育の講義を受けた今なら、想像することができる。あれはきっと、同じ行動をすることで自分を安心させようとしていたのだろう。
「理解できない」と突っぱねるのではなく、「こういう理由があるのかも」と想像できるようになったことで、恐怖心はかなり和らいだ。
理解できない、わからない、で思考を終わらせて理由を考えようとしないから、その先に起こることの想像ができなくて、恐怖心に繋がっていたのかもしれない。
 
そしてこの時に学んだことは、多くの場面で私を助けてくれたように感じる。
社会に出ると、当然のことながら、年齢も出身地も経験も違う人だらけの中で、ある程度同じ目標を目指して行動しなければいけない。
一緒に行動していく中で「なんでわかってくれないんだろう」「どうしてそんな行動をするんだろう」「この場合こうするのが当たり前じゃないの?」などと思うことが、たくさんある。
だけど、相手が自分には理解出来ない言動をすることや、相手を誤解したり、相手に誤解されたりすることは、当たり前のことなのだと思う。
なぜなら、同じ場所で同じものを見ていても、同じように見ているのかどうかすら定かではないし、相手に言った言葉が、伝えたいように受け取ってもらえているかどうかの保障なんてものはないからだ。
同じ年齢だろうと、同じ性別だろうと、同じ家で育っていようと、同じ会社にいようと、人間はみんな違う生き物なんだと思う。
同じ耳や目や口がついていて、手足があって胴体があって大体似たような見た目だけど、中身は人によって全然違っている。
まるでスマホのように。
 
スマホは、カメラがついていて、液晶画面があって、四角くて薄くて手で持てる軽さと大きさなのは、大体同じだ。
買ったばかりの時は生まれたての赤ちゃんで、何も入っていない空っぽの状態。
だけど、何年後かのそのスマホが、ホーム画面も、撮影した写真も、メッセージアプリのやり取りも、カレンダーの予定も、ゲームの進み具合も、誰かと全く同じだということがありえるだろうか。
そんな人は世界中を探してもどこにもいないだろう。
それは、人間の頭の中がそれぞれ違うのと、とてもよく似ているのではないかと思う。
 
人間の中身や頭の中の回路が違っても、人は言葉を使って自分の気持ちを伝えたり、相手のことを知ったり出来る。
言葉が通じなくたって、自分のことを相手に伝える方法はいくらでもある。
そのために、スマホを使うことだってできるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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