メディアグランプリ

「気にしない」はハワイの合い言葉


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記事:前田三佳(ライティング実践教室)
 
 
なんだ、なんだ、なんだ!
あの楽しげに揺れるお尻たちは……。
Tバックショーツと小さなブラの女性たちが嬌声を上げている。
ビーチバレーに夢中の彼女たちは誰もが申し合わせたようなTバックで、まるでお尻がバレーをしているみたいだ。
あんなに小さなビキニで砂が入ったりしないのか、というより恥ずかしさは微塵もないのか……。
お腹なんか私より出てるし。
驚く私に妹は言った。
「いいじゃない。楽しそうで」
そうか、これがここでの定番なんだ。
私は無理矢理自分を納得させた。
 
ここはハワイのワイキキビーチ。
妹に誘われ、久しぶりにハワイにやってきた。
ホノルル空港に降り立てば、ぐんぐんと迫ってくるような青空と真っ白な入道雲。
強烈な日差しにサングラス無しではいられない。
眩しすぎる太陽に目眩を覚える。
ここ数日私はとても疲れていた。
8日間仕事を休むためのシフトの調整、旅行の準備、留守中のあれこれ。
ハワイの物価高に備えて、スーツケースはレトルトのおかずやご飯をたくさん詰め込んだ。
風邪薬、頭痛薬、持病の喘息の薬、腰痛のための湿布などなど常備薬だけでもかなりある。
日々重くなるスーツケースのように手帳のto doリストはいっぱいだ。
たかが女ひとりの旅に、それもハワイに行くのに、憂鬱になるほど真面目に準備を怠らないと気が済まない。
でもそれが私の性分なのだから仕方ない。
ああ、旅慣れてみたい。
私はもう一度持ち物チェックリストを確認しながらため息をついた。
 
「なんだ。ミカちゃん顔が暗いよ」
さすが妹。図星だ。
ホノルル空港で出会うなり妹が私にそう言った。
彼女の方こそバリバリと忙しく働く合間のバカンスなのに、その顔はもうお気楽極楽モードに入っている。
まったくオンとオフの切り替えが上手い女だ。
それに引きかえ、楽しいはずの旅行なのにお疲れモードでドヨンとしている私。
若い頃のように、ダイビングだショッピングだとアクティブに動く気がしない。
これが老いるということか。
私は66歳、妹は4つ若いだけなのにこの差は何なんだ。
 
そんな私の目に飛び込んできたのが旅の2日目の「お尻バレー」だった。
若いってスゴいな、怖いモン無しだな……。
それに日本だったらイヤらしい視線に晒されようが、そんな目で見る男たちは此処にはいない。
いや心の中で妄想を膨らませていたとしても、きちんと紳士として振る舞っているのだ。
だがビーチを進むと大胆に肌をさらけ出しているのは、若い人ばかりではないと気づいた。
でっぷり太った肝っ玉かあちゃん風も、上品な銀髪のおばあちゃまも、老いも若きも堂々と肌を露出させている。
そしてそれを誰も気にもとめない。
自分のカラダをまるごと受け入れ、豪快に笑っている。
多くの女性がダイエットをし、ありのままの自分のカラダを否定する日本とあまりに違う。
そんな彼女たちがとても眩しく見えた。
 
はじめ私はワンピースの下に着込んだ水着になるのが恥ずかしくて仕方なかった。
「誰も見ちゃいないって……。自意識過剰!!」
またもや妹にキビシク叱咤激励される。
そういう妹はさっさと水着になり海に飛び出した。
「気持ちいいよお~」
なんだ。水から上がった妹もお腹が出ているじゃないか。
(よっし、じゃあ行ってみるか)
ようやく決心がつき私は、水着になり生白いカラダを太陽の下にさらした。
海はまるで入浴剤を流し込んだような美しいエメラルドグリーンだ。
透明感のある海に飛び込み手足を思い切り伸ばして平泳ぎする。
波がほどよく揺れてカラダがチャプチャプと浮き沈みする。
ここは湘南の海ではない。
ハワイの海なんだとあらためて意識する。
もう二度と来ることもないかもしれない。
海に身を任せてしばしの間たゆたう。
すると次第にカラダも心も海に溶け込んでゆくような快感におそわれた。
いつか海に還る日が来る。それもまた自然なことなんだ。
 
海外に出るとほんの数日間の旅でも、日本を客観的に観察できる気がする。
私を含め多くの日本人は生真面目でおとなしい印象だ。
それはとてもいいことでもあるが、一方暗くてなんだかはっきりしない印象でもある。
テレビで日本のニュースを見て感じたが、とにかく暗い。
暗いニュースを暗く読む、真面目なアナウンサーたち。
そりゃ明るい顔をして暗いニュースを読んだら不謹慎とか言われるのだろうが、それにしても暗い。
お通夜か?
こんなものを毎日見ていたら、いつの間にか影響されるだろうに、離れてみないとわからないものだ。
 
最後の日に訪れたレストラン「メリマンズ」では食事の美味しさも然る事ながら、生き生きとカッコよく働くスタッフたちに目を奪われた。
男も女も白シャツにジーンズ、茶色のギャルソンエプロンを身につけ最高に格好いい。
ワイワイとお喋りを楽しむ客たちの合間を魚のようにすり抜けながら、実に楽しそうに動いている。
休憩は交替制でなんと店の客席にスペースを取り、これまたワイワイと食べながらお喋りに興じている。
働くことの楽しさを体現しているかのような人たちだった。
 
旅の最後になって「ミカちゃんやっと笑ったね」と妹に言われた。
笑っていたつもりだったが、それは力のない笑みだったのだろう。
もっとお気楽にもっと楽しく。
きっとそれでいいのだ。
「気にしない」生活と
「人生楽しんだもん勝ち」
それを教えられた旅だった。
またあの海で泳ぐ日を早くも夢にみる私だ。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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