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子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ


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記事:妹尾有里(ライティング・ゼミ6月コース)

子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ」というアフリカのことわざがある。ひとりの子どもを育てるには、村中総出の知恵と支援が必要だという意味である。村中の人が力を合わせなくてはならないぐらい、子どもを育てるのは大変なことなのだ。

それなのに、昨今、地域の力は弱まり、子育てはそれぞれの家庭で担うという傾向が強まるばかり。経済的なことも相まって、子どもを持たない選択をする若い人たちも増えていると聞く。

先日、たまたま同じ日の昼と夜に、「子どもが苦手」だという二人の女性の話を聴いた。

昼間、ナツミさんとカフェでおしゃべりしていた。

どこからか新生児に近いような赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、私は思わず「あ、小さい赤ちゃんの声。可愛いねぇ」と言った。ナツミさんは「やっぱり可愛いって思うんだね」と返してきた。

聞けば、ナツミさんは赤ちゃん連れの人が多く訪れる場所で働いていて、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくると、周りにいる女性の同僚たちは大抵、先程の私のように「赤ちゃんの声、癒されるね」「ほんとに可愛いね」「ほっこりするね」と言うのだそうだ。ところが、ナツミさんは、ちっともそんなふうに思えない。実は、「子どもが苦手で、だから子育てが本当にしんどかった」と打ち明けてくれた。だけど、「そんなこと言ったら、なんて冷たい人なんだろうとか思われそうで、誰にも言ったことがなかった」のだそうだ。

ナツミさんの息子さんは、もう社会人だ。苦手だと思いながらも子育てを頑張ってきたナツミさんには、本当に頭が下がる。「冷たい人」なんて思うどころか、ナツミさんへの信頼はちっとも変わらなかったし、むしろ尊敬の念が増した。

私は子どもが大好きだし、母になることを夢見ていた。そんな私でさえ、子育ての大変さを実感したのだから、子どもが苦手な人の子育ては、どんなにか大変だろうと思う。子育て経験のある人で「子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ」に異議を唱える人はなかなかいないのではないだろうか。

そういえば、子どもたちが小さかった頃、繰り返し見ていた夢がある。忘れていたペットの存在をふと思い出し、「どうしよう。餌をぜんぜんあげてない。死んじゃってたらどうしよう」と物凄く不安になる夢だ。私はイヌもネコも飼ったことがないし、夢の中のペットが何なのか、具体的な姿は出てこない。自分なりの解釈では、子育てに対する責任感の重さから見る夢ではないかと思っている。わが子とペットを同列にするなんてけしからん! という気もするけれど、そう考えるのがしっくりくる。常に気にかけていなくてはならない存在の大切さに比例する責任の重さ、そして、命の重さに対して無意識に抱いている畏怖の念から見る夢ではないかと思うのだ。

ナツミさんから「子どもが苦手」だと聞いた同じ日の夜、ミドリさんとZOOMで話した。

ミドリさんには30代前半の娘さんがいるのだが、「この子が本当に困り者なのよ」と話す。聞けば、娘さんには結婚の意思がまったくないそうだ。子どもも「よその子だったら、ちょっとはかまったりできるけど、自分の子なんて育てられない。育児放棄しちゃうと思う」と言っているそうだ。何とも率直な物言いである。

「だから、もう『結婚しなさい』と言うのはやめにすることにした」と言いながらも、ミドリさんはどこか諦めきれない様子だった。頭では「多様化の時代」とわかっていても、わが子に関することだと簡単には割り切れない、そういうものなのかもしれない。

ミドリさんの娘さんが「自分の子なんて育てられない」と思うのも、もしかしたら、子育ては自己責任という風潮が高まっていることが影響してはいないだろうか。みんなで力を合わせて子どもを育てる社会であれば、娘さんは子育てについて、また違った印象をもつかもしれないと思った。

子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ。

このことわざには、子育てには村中総出の知恵と支援が必要だということに加え、人との関わりの質と量が子どもたちを育てていくという意味もあるそうだ。それぞれが、それぞれにできる形で知恵と力を出し合って、地域の子どもたちの成長を応援していける世の中(昭和の時代までは、日本もそうだったかもしれない)になれば、今よりずっと子育てがしやすくなるのではないだろうか。

以前、学校司書として小学校に勤務していた時に、「『森林浴』ならぬ『子ども浴』ってあるよね」と言った先生がいた。「そうか! 学校にいるとエネルギーが湧いてくるのって『子ども浴効果』だったのか」と妙に納得したものだ。

もちろん、子どもを持たない選択だって尊重したいけれど、子ども好きな私としては、日本の将来への心配より、子育てのハードルが下がって子どもが増えてくれたら、ただ単純に嬉しいのだ。

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2024-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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