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海外に行ったら価値観が変わる、なんてことはありません。


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記事:庭田涼平(ライティングゼミ・4月コース)
 
 

海外に行ったら価値観が変わる?
そんなの、真っ赤な嘘だ。
 

海外に行っただけで、ましてや1週間から1ヶ月程度海外で過ごした程度で簡単に変わることが無いくらい、人が持っている価値観は強固なものだ。
どう考えたって、短期間に経験したものが、それ以上に長い年月を費やして形成された価値観を上回ることはほとんど無いと思う。
短い期間海外に行った経験によって価値観が大きく変わったとしたら、逆にそれまでの長い人生で何をやっていたのか? とツッコミたくなる。
だから、3週間ほど海外で過ごした程度では、自分の価値観は変わらない。
だが、果たして本当にそうなのか?
私の人生が大きく変わるきっかけとなったタイ留学から帰ってきて9年が経った今、改めて私のタイ留学を振り返りながら考えてみる。
 

私がバンコクで3週間を過ごしたのは、当時21歳の時だった。
自己負担額2,30万円程度で海外に3週間行けるというコスパの良さに釣られ、私は軽い気持ちで、タイ王国の首都であるバンコクへの短期留学プログラムに申し込んだ。
同じ大学の日本人学生十数名でバンコクの大学に行き、日本人だけで授業を受けるといったプログラムとなっており、タイ語や英語でのコミュニケーションをそれほど必要としない留学だった。
そのため、タイ語や英語の準備にはあまり力を入れず、半ば旅行感覚で留学に臨んだ。
 

その一方で、当時の私は人生の壁にぶち当たっていた。
大学に入学してから、人生がなかなか上手くいかなかった。
人はそれぞれ、生きてきた年数に応じた経験によって価値観が形成される。
私も、大学入学までの19年間によって形成された価値観を持っていた。
だが当時の私が持っていた価値観では、大学では全く通用しなかった。
入学当初に入院していたこともあって、友人関係はなかなか広がらなかった。
2年生になると入ったサークルでサークル長となったが、同期や先輩との関係が上手く行かず逃げるようにサークルを辞めた。
2人きりで居て良い雰囲気になったと思っていた女性からも、突然LINEをブロックされてしまった。
こうした様々なショックや理想と現実の差に、当時の私は絶望していた。
このままの自分ではダメだ、直感的にそう思っていたタイミングでのタイ留学だった。
 

飛行機での長旅を経てタイに降り立った途端、私は言葉にし難い不安に包まれたのをうっすら覚えている。
バンコク市街地のどこを見てもほとんど日本語は見当たらず、辛うじて分かる英語表記すら無いこともしばしば。
二人乗りかつノーヘルのバイクがそこら中を爆走。
ああ、本当に自分の言葉や常識が通じない海外に来てしまったんだなと、強く実感した。
周りに日本人が沢山居たからなんとかなったが、かなり心細かった。
 

それでも一緒に留学した仲間やお世話してくれる現地の学生に引っ張ってもらい、バンコク市街地のあちこちへと出掛けた。
近くのショッピングモールの屋外に設置されたリングで生のムエタイを観たり、路上で大蛇を首に巻かされてお金をぼったくられたり、食あたりに怯えながら夜の屋台で食べ歩きを楽しんだり、日本人街に行って久々の日本食にほっとしたりと、あちこちに出掛けた。
 

そんな最中、私達は少しトラブルを起こしてしまった。
いつものように同じ留学生数人でバンコク市街地に出掛けたのだが、慣れないバンコクの交通事情に戸惑っていたら、他の留学生に伝えておいた宿への帰宅時間を大きく過ぎてしまった。
他の留学生から心配のLINEがいくつも届いていたし、私はかなりの罪悪感に包まれながら宿に帰ってきた。
当時の私は自信が無く、こうした自分のミスや失敗に対して過剰に落ち込みがちだった。
いつものように大きな罪悪感を抱えながら宿に戻り、他の留学生に「心配を掛けさせてごめんなさい」と申し訳なく思いながら謝った。
すると、留学生の中の一人が「無事で良かったよ。全然気にしなくて大丈夫だからね」といった声を掛けてくれた。
何気ない一言だったが、言葉も通じない異国の地に居るせいか、その言葉が心にスーッと入ってきた。
日本に居るときは、許しの言葉は建前や表向きの言葉のように聞こえ、本心は全く別のことを考えているのでは、と感じがちだった。
だが、タイで受け取った許しの言葉は、自分自身を無条件に受け入れ許しているように聞こえた。
後から振り返ってみると、あの言葉は、しがらみや思い込みといったものから自分の価値観を解き放ってくれるきっかけの言葉だった。
 

その後も、振り落とす気満々のバナナボートに何度も海に落とされたり、現地学生に連れられて小さな島に泊まりがけで出掛けたりと、自由に3週間を過ごした。
タイのおおらかな雰囲気の中で生活しているうちに、自分の価値観を覆い隠していたものから少しずつ自由になっていくのを感じた。
そして、3週間の充実した日々を経て私は帰国の途についた。
 

「庭田、タイに行って性格変わったね!」
帰国後すぐに旅行に行った福岡で友人からこう言われた。
自分でも理由は分からないが、タイに行く前と行った後で変化した行動が多々あった。
特に人付き合いが抜群に上手くなったし、大学で感じていた人生の壁なんて無かったかのようにその後の大学生活を楽しく過ごした。
その当時は、海外に行って価値観が変わったからなのかな、なんて思っていた。
 

だが、あれから9年経った今思う。
やっぱり、私は海外に行っても価値観は変わらなかった。
海外で過ごした3週間よりも、それまでに過ごしてきた21年間の方が価値観に与える影響は比べ物にならないくらい大きかった。
その代わり、海外に行くことで自分の価値観を閉じ込めていた牢獄から自由になることが出来た。
海外という言葉も常識も通じない環境は、価値観を覆い隠してしまう障壁を消し去ってくれるのだ。
残念ながら、最近は円安で以前ほど気軽に海外に行ける環境では無くなったが、自分の価値観に行き詰まりを感じた時にこそ、是非とも海外旅行に行ってみてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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