2杯目から3杯目への考察
＊この記事は、「絶対麗度ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事：伊藤美那（絶対麗度ライティング）
『結局やっぱり、美人って得だからいいよねぇ』
突然の言葉に耳がピクピクする。
天気の良い休日。友人を待ちながら一足お先にスパークリングワインを飲もうとしたその時、女性二人の会話が聞こえてきた。羨むような妬むような、そんな声。両隣のテーブルは、たぶん違う。怪しまれない程度に周囲を見渡すけれど、どこの席かはさっぱりわからない。
それなりに混んでいるお店で、それほど大きな声でもないのに耳に飛び込んでくる言葉。なるほどこれが、カクテルパーティ効果というやつか。
気を取り直してグラスを口に運びながら、心の中で勝手に返事をする。
『そりゃあ、得でしょ。私だってもう少し綺麗なら、もう少しイージーモードで人生送れたはず』
午後の陽射しは心地よく、友人からは少し遅れると連絡があった。仕方ない、もう一杯飲んでしまおう。程よく冷えた繊細な泡を楽しみながら、心の中で更に喋り続ける。
『でも別に、得したいから綺麗になりたいっていうのは違うよね。じゃあ、私の目指しているものって何だっけ？』
１月から始まった絶対麗度も早いもので折り返し地点。この６ヶ月で少しでも綺麗になれたのか。改めて考えだすと、ついついグラスを傾けるペースが速くなってくる。
毎月の秘めフォトを見れば、表情のバリエーションが増えたなとは思う。こんな顔ができるんだ、と自分じゃないような不思議な気分で写真を眺めていることがある。
周囲から見たら誤差かもしれないが、少しずつではあるが体重が落ち、スカートのウェストに余裕を感じるようにもなった。
それでも、一緒に参加した方々には敵わない。輝く笑顔。愁いを帯びた横顔。引き締まった腹筋と無駄のない背中。人と比べても仕方ない、とわかっていても止まらない。
でもね。口に運びかけたグラスをテーブルに戻し、立ち上る泡を眺める。
輝いて見える彼女たちが、実際には悩み苦しみ葛藤していること、その中でも美しくあろうとしていることを今の私は知っている。その前向きな強さこそが、彼女たちの美しさの理由であることも。それぞれに知性と優しさを持ち、外見に頼らない内面からの美しさを放っている。
それに対して自分はどうだろう？いつの間にか目標も目的もあやふやになっていたのでは？
絶対麗度を始めれば。一年間参加し続ければ。それだけで何もしなくても綺麗になれる。綺麗になれば自動的に幸せもついてくる。そんな安易な考えでは、きっと何も得ることはできない。いくら天狼院書店だって、何も考えずにぼんやりしている人の人生がインスタントに【変わる】魔法があるわけじゃない。自らの意志と考えで【変える】決意が必要なのだ。
その覚悟を持つ人だけが美しくなれるし、たくさん悩み苦しんだ分だけ幸せに近づいていける。
そこまで考えて、もう一度心の中で同じ問いを繰り返す。『私の目指しているものって何だっけ？』
1月から今まで、多くの人に出会ってきた。この一年はできるだけ自分をオープンにして、様々な場所に出かけていこうと決めた。その中で久しぶりに憧れの女性にお会いすることができた。
美しく強くフェアな女性。私なら耐え切れないほどの経験を重ね、艶やかにほほ笑む。誰かに癒されるのを待つのではなく、周囲にパワーを供給できる存在。
そんな方に『あなたにお会いすると私も元気になれる』そう言っていただけた時、心の中がふんわりと暖かくなるのを感じた。
周囲を明るく照らし、向き合った相手の良い所を見つけ、素直に口に出せる人。そんな人に私もなりたい、強く思った。そのためには。
人を包み込む笑顔、相手に寄り添うまなざし、清潔で穏やかな口元。それが私の目指す美しさ、なのかもしれない。そんな人はきっと内側から輝き、周囲に素敵な人が集まり、幸せを感じることも多くなっていくはず。
グラスを口元に運んで、自分が笑顔になっているのに気づく。ほろ酔いだけじゃない、ゆるゆるとした幸福が感じられて、何だか良い気分。目指すものが見つかっただけで、まだ叶ってもいないのにもうご機嫌。自分の単純さがちょっと可愛くすら思える。
もし今、美人は得か？ と訊かれたらさっきとは違う答えが出てきそう。
『確かに綺麗な人は得する機会も多いと思うよ。でも生まれ持っての美貌だけが美しさじゃないし、得することが幸せとも限らない。日々美しくあろうと、理想の自分に近づこうとする姿勢が、自分を幸せに近づけてくれるんじゃないかな』
綺麗事？ そうかもしれない。でも人を妬んで羨むより、自分にベクトルを向けて努力する方がよっぽど美しい。
結論が出たところで、グラスに残ったスパークリングワインを飲み干す。うん、やっぱり美味しい。人からもらった得で幸せになるのではなく、自分で得られる幸せが私にはきっとよく似合う。
友人が来るまであと10分、よし、3杯目だな。
＊＊＊
この記事は、天狼院書店の「絶対麗度ライティング」にご参加の方が書いたものです。
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