2.5次元にハマる理由
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記事:ともり あお(文章術1day講座)
2.5次元と言う言葉は、どれほど認知されているのだろう。
漫画やアニメ、ゲームなどの2次元作品を原作とする3次元の舞台コンテンツのことを指す言葉で、「鬼滅の刃」や「テニスの王子様」「進撃の巨人」など、多数の人気作品が2.5次元化されている。
では、2.5次元作品はなぜ人を魅了するのだろうか。
今でこそ2.5次元の沼に生きる私も、かつては2.5次元を敬遠していた。
「いわゆるイケメンが金のかかったコスプレしてるんでしょ」と思っていたし、もっと言うと、「お遊びなんでしょ」とさえ思っていた。
前半については、確かに否定はしない。けれど、後半については違う。2.5次元というのは、生半可なものではない。命を削って作られているコンテンツだ。
私が思う2.5次元の最大の魅力は、「キャラクターの命を感じること」だ。
2次元の世界というのは、作者の見せたいものしかみることができない。漫画でもアニメでも、大切なセリフの際はそのキャラクターがアップになる。そうすることでそのキャラクターの感情や思考にフォーカスし、読者や視聴者を物語の世界へとひきつけていく。
例えば、テニスの王子様の主人公には「まだまだだね」というセリフがある。テニス部に入部したばかりの1年生とは思えない生意気さが、とても印象的なセリフだ。漫画の中では、主人公が紙面に大きく描かれ、他のキャラクターは小さく描かれるか、あるいは風景の中に消えてしまう場面だ。
でも、もしもそれが現実の世界の出来事だったら、主人公以外のキャラクターは消え失せるだろうか?そんなはずはない。中学校の部活の最中に、たった一人の少年を残して他の人間が消え去るなんてことはありえない。つまり、同級生も、先輩も、先生も、その場に存在している。「まだまだだね」という言葉を聞いて、驚く人、笑う人、怒る人、耳に届かず歩き去っていく人など、様々な反応があるだろう。
2.5次元では、その瞬間を目撃することができるのだ。
舞台上では、「まだまだだね」というセリフの主人公に目線が誘導される。具体的に言うと、スポットライトが当たる。そうすると、舞台上にはスポットライトが当たらない、薄暗い場所が存在することになる。そこには前述の通り、同級生や先輩や先生が存在しているのだが、ではライトの当たらない彼らは一体どうしているかと言うと、当然、演技を続けている。
それこそが舞台作品の面白さだ。
漫画を読んでも、アニメを見ても、そのシーンにA先輩が採用されていなければ、A先輩がその時どんな反応をしているのかは想像するしかない。けれど、舞台上でならば見ることができる。つまり、漫画やアニメの「空白」を覗き見ることができるのだ。
空白は他にもある。
例えば、同じ部内のA先輩とB先輩は、作中ほとんど会話をしない。だから、その二人の関係性は「ない」と言ってもいい。ところが、実際の部活動のなかでは、そんなことはないだろう。ウォーミングアップを一緒にすることもあるだろうし、たまたま飛んで行ったボールを取ってもらうこともあるかもしれない。ストーリーに大きく関与しなくても、ふとした瞬間のコミュニケーションがあるのが普通だ。そういった「普通」も、舞台上でならば垣間見ることができる。
2次元では「なかった」関係性が、舞台の背景には「存在する」のだ。
2次元の平面世界に、これまでなかった奥行きや深みを見出す。「2.5次元」と呼ばれるゆえんはそこにあるのだろう。
では、2.5次元が「お遊びではない」理由はなんなのか。
それは、「世界観を維持する」という絶対条件が存在するからだ。私はかつて、2.5次元は「お金のかかったコスプレ」だと思っていた。それは決して間違っていないだろう。けれど、一般のファンがするコスプレと、2.5次元俳優のするコスプレは、大きな違いがある。それは、公式かどうか、ということだ。
一般のファンは、個人の楽しみの範疇であれば、楽しければそれでいい。敵キャラクターと仲良くしてもいいし、あり得ないシチュエーションを再現しても構わない。
けれど、2.5次元作品はそうはいかない。公式として作品が売り出される以上、原作に忠実である必要がある。原作が人気であればあるほど、ファンの思い入れが強い。そのイメージを崩さずに、舞台を作り上げなければいけない。
主人公など主要なキャラクターならば、まだ役作りがしやりやすいのかもしれない。が、当然全員がそういうわけではない。ほんの少ししか発言しないキャラクターであったとしても、その立ち姿や振る舞い、しぐさをファンは凝視している。だから、舞台上にいる限り、決して気を抜くことはできないし、俳優個人の解釈だけで好き勝手に演じられるわけではない。
そもそも、2.5次元に限らず、演技というのは自分ではない誰かの人生を生きるということだ。その「誰か」に想いを持ったファンが多くいる以上、その想いを背負って、その人生を生きなければならない。
2.5次元は、その外見から遊びのように見えるかもしれないけれど、まったくもってそんなことはない。これまで見てきたどの俳優も、みんなすばらしくプロだった。
ぜひ敬遠せず、多くの人に2.5次元の世界を体験して欲しいと思う。
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