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女がキレるその理由(わけ)は


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田三佳(ライティング実践教室)
 
 
「女ってのはね、共感してほしい生き物なんだ。
だからね『そうなんだ』『わかるわかる』『大変だったねえ』と、この3つさえ言っておけば喧嘩にならないんだよ」
70代とおぼしき大学教授が同年代の男性と麻雀卓を囲みながらそう言う。
「なるほどねえ」
他の3人はふんふんと言いながら誰もがうわの空。
牌を並べるのに忙しい。
(今、すごくいいこと言ったのに。聞きなさいよオヤジたち)と思った。
最近観た邦画『お終活  熟春! 人生、百年時代の過ごし方』のワンシーンだ。
 
だって私にも心当たりがある。
新しい職場に転職したばかりの頃、失敗続きで落ち込んでいた私は思いの丈を家で夫にぶつけた。
「私なりに頑張ったんだよ。でもこんな風に部長に言われちゃってさ……」
私は夫からの慰めの言葉を期待した。
だが夫は言った。
「それはお前が悪いよ。言いたいことをちゃんと上司に伝えたのか? 伝え方が悪かったんじゃないの?」
「え? 伝えたわ。だって……。もういい!」
「もういいって何だよ。せっかくこっちが相談にのってあげてるのに」
結局私のストレスは解消されるどころか、小さな夫婦喧嘩の火種を作っただけで終わった。
夫の言うことはいつだって正論だ。
だけどそれを聞きたかったわけじゃない。
きっと私は愚痴を聞いてほしいだけだったのだ。
こんな時は嘘でもいいから共感するフリをして「お疲れさん」と熱いお茶のひとつも入れて欲しかった。
そしたら夫をもっと好きになり明日も頑張ろうと思えたのに……。
あれから20年ほど経つ。
 
最近私は、脳科学者でありエッセイストでもある黒川伊保子氏の「妻語を学ぶ」を読んだ。
男にとって「女性(特に恋人や伴侶)が突然怒り出す」理由が18項に渡り、丁寧に具体的に説明されている。
あった、あった。
あの時私がキレた理由もちゃんと脳科学で解析されていた。
 
黒川氏曰く、共感のない会話は女性脳にとって大変なストレスとなる。
一方男性脳はトラブルに対して最短時間で問題を解決しようとする。
「気持ちを言い募りたい」女性と「気持ちはできるだけ切り離して状況を分析したい」男性。
パートナーに相談をしても共感を得られないと女性はますます混乱し逆ギレするというワケだ。
どんな的確なアドバイスよりも「共感」が女性に「腹落ちの答え」をもたらすと黒川氏は述べる。
私だってしっかり話を聞いてもらい「きみの気持ちは痛いほどわかるよ」と声をかけられ、上から目線じゃないアドバイスがもらえたのなら、逆ギレすることはなかっただろう。
そして男性がそんな生き物だとあの時理解していれば、愚痴をこぼすのはやめていたかもしれない。
 
またこんな一節にも驚いた。
生物多様性の論理から、多くの男女は感性が正反対の相手を選ぶらしい。
互いの体臭から遺伝子情報を嗅ぎ取って、この相手とは「いい生殖」ができるとわかれば好意を抱くという。
免疫抗体の型が遠く離れているほど子孫の生存可能性が高く「いい生殖」といえる。
だから恋に落ちる相手は、そもそも生体としての相性は最悪、その行動は理解に苦しむわけだ。
ウーンわかるわかる。
また自分の話で恐縮だが、私と夫はまったく感性が正反対だ。
スポーツ全般を愛し運動することが何より好きで陽気な夫。
いったい何が楽しくてトライアスロンなんてやるのか意味不明だが、この酷暑の中でも夫はトレーニングと称して走ったりロードバイクに乗ったり家にじっとしていない。
スポーツ全般に興味が無く運動音痴、インドア派で根暗な私にとって彼の行動はまったく理解ができない。
もしも同じ学校や職場で出会っていたなら、お互い自分には関わりのない、趣味が合わない人間と捉えて親しくなることはなかったに違いない。
それがひょんなきっかけで紹介され、私は一目で人生の伴侶はこの人だと確信したのだ。
私は夫の体臭から遺伝子情報を嗅ぎ取り、いい生殖ができると判断して恋に落ちたのか?
違う、違う。
無意識レベルで、自分とは正反対の感性の持ち主に惹かれてしまったんだ。
がさつに見えて几帳面な夫、丁寧に見えてずぼらな私。
読書好きな私、本をほぼ読まない夫。
他にも枚挙に暇がないほど正反対のふたりが惹かれあったのは不思議でもなんでもない。
生物学的にモデルケースのような話だったのだ。
 
けれどさらに衝撃なのは、女性脳において恋の期限はたったの3年という話。
よく女たちは「彼は変わった」と嘆くが、変わるのは女性脳のほうらしい。
そう、3年も経つと「あばたもえくぼ」と何もかもが愛おしかったはずの相手の、嫌なところがヤケに目につくようになる。
(なんで脱いだ靴下片付けないの、なんで休みの日も仲間と出かけるの、なんで所かまわずおならするの、なんで、なんで……)
小さな不満はまるで雪のようにふり積もるが、それにも理由があったのだ。
それは夫とて同じ事だろう。
 
しかしそんな我々夫婦もすでに今年で結婚生活40年だ。
夫の趣味は何年経ってもやっぱり理解できないが、合宿だ遠征だと適度に家を空けてくれるのは今やありがたい。年中ごろごろ家に居られたらたまらない。
エッセイストのジェーン・スーさんは同居のパートナーとの間に「オール・フリー・チューズデー」と称し、まる24時間お互いに一切干渉しない日を設けているそうだ。
この日の開放感が凄まじいと告白している。
子育て真っ最中の家族なら、24時間は無理でもせめて1週間のうち6時間はパートナーを自由に解放してあげてほしい。
こんな日があるから、また家族に優しくなれるってなもんである。
 
所詮ひとはわかり合えぬもの。
どれだけ惹かれ合って一緒になっても、長年連れ添っても、価値観や考え方が違うのはあたり前だ。
そう思うと気が楽だし逆に面白がれる。
違いを楽しみ、ほどよい距離感を楽しむ。
これが長続きの秘訣なのかもしれない。
 
それはそうと、さっき娘から5歳の孫娘の動画が送られてきた。
昇り棒をスイスイ昇ったかと思えば、なわとびで逆飛びをしている。スゴい運動神経だ。
「オレの遺伝子かな」と夫はニヤニヤしている。
何を言うか。
私が無意識レベルで夫の遺伝子情報を嗅ぎ取った結果が実を結んだのだよ、きっと。
 
 
 
 
***

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2024-08-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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