メディアグランプリ

苦手なものは、あなたの個性である


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:しのP(ライティングゼミ・集中コース)
 
 
「苦手や、アレルギー食材があるお客様はいらっしゃいますか?」
 
レストランに行くときに、そしてそれがちょっといいお店であれば高確率で、テーブルで店員が注文を取るときに、もしくは注文を取られた後にこんなことを言われる。
 
すっと手を挙げるわたし。
 
「エビアレルギーがあり、食べられないです。でも、深刻なものではないのでスープやエキスとして含まれているものなら問題ありません。」
 
店員の顔が、むむむっと変化する。
 
「ほかの甲殻類はいかがですか?カニやほかの魚介類は大丈夫ですか?」
 
「ほかの食材は大丈夫です。カニはなるべく避けていますがちょっと入っているくらいだったら大丈夫です」
 
「入っているかもしれないので、厨房に確認してきます。少々お待ちください」
 
1分後。
 
「申し訳ありません、こちらのメニューにカニのすり身が少し含まれているようです。この調理方法は大丈夫ですか?」云々。
 
今まで何回繰り返しただろうか、このやりとりを。
 
そして、何度気まずい思いをしただろう。
 
テーブルで注文を取るお店の場合は、注文の時、我々の会話は止まる。
 
人数がおおければ多いほど募る思い。それは
「皆さんの時間を、わたしのアレルギー話で奪ってしまい申し訳ない……そして、店にも手間をかけて申し訳ない……」
 
 
 
小さい頃からアレルギーに敏感な体質で、思い通りにならない自分の体に、まあまあ苦しんできた。小学一年生の時にアレルギー検査をしたらアレルギー食材として「エビ」があり、それ以降、エビは食べていない。大人になるにつれて体の変化もあり、だんだんと、アレルギー検査上では食べても大丈夫な食材になっているが、もはや食べたいとも思わないし、あのプリプリとしているらしい触感に魅了されることはない。
 
エビは大人気食材だからどの料理にも入っていて、メイン料理として鎮座していることも多い。食事会が開催されれば、幹事が良かれと思ってエビがメインの豪華な料理を選び、私がアレルギーがあると知って気まずい思いをさせることもある。
 
「申し訳ない」と思うのだ。
 
初めに「エビが苦手だ」ということを幹事に伝えておけばいいのではないかと思うかもしれない。でも、それはそれで、自意識過剰すぎるのではないかと思う自分がいる。
エビがはいっている料理が出てきたら、自分が食べなければいいだけだからって思うのだ。
 
「自分さえ我慢すればよい」と思うのだ。
 
確かに、食物アレルギーは深刻な問題を含むものも多い。命の危険にかかわることもあるし、最近はアナフィラキシーショックなど広く知られて、敏感にならざるを得ないものだ。
でも、わたしのアレルギーはそんなに大それたものではないし、そこまで周りの人は気を使わなくてもいいのだ。過剰に反応するようなものではないって、思っていた。
みんな大好きなエビ。でも私にとっては迷惑なエビ。
 
しかし、そんなエビも、わたしの個性の一部なのではないかと思う出来事があった。
 
ある日、会社が海外から外国人の研修生を迎えて会議を行うことになった。そしてその事務局役であるKさんの話を聞き、とても驚いたのだ。
 
彼女は毎朝、研修生のために弁当を手作りしているということではないか。聞けば、研修生の中には様々な食事制限を行っている人がいて、グルテンを一切とらないだとか、ビーガンであるからバターが含まれているものは食べないとか、大豆は食べないから、醤油で味付けされているような日本食はだめだ、などの制限があったのだ。
 
会議で提供される弁当ではそのような食事制限に対応しきれないから、対応するために朝4時に起きて、研修生の食事制限に合わせるために弁当を作っているのだそうだ。
 
正直、対応が大変そうだなと思った。
そこまでやるのか。
研修生は、VIP顧客ですかね?
 
わたしは、その研修生達はずいぶんとわがままだと思う。グルテンフリーを実践しているとか、ビーガンであるとかは、その人自身のただの好みである。食べられないものがあれば、食べなければいいのに、食事を残せばいいのにと思った。食べたって、死ぬわけではないものを。違う国に来ているのだから、せめて少しは歩み寄ってよ、合わせてよ。
 
でも、研修生たちはその態度を変えることはなかった。普段通りの食事をすることは、彼ら彼女らにとっては当然の権利であって、個性であり、守られるべきものであったのだ。食べられないから悪いというものではないのだ。だから、申し訳ないなんて一ミリも思ってないのではないか。
 
わたしとは、ずいぶんと考え方が違う。でも、すごく新鮮に感じたのも事実であった。
 
ひょっとしてわたしも、もっと堂々と、エビが食べられないって主張していいのかな……
食事の度に申し訳ないって思うのも、逆に気持ちよく食事ができないということになっていないかな……
負い目に思うものではないのかもしれない。だって、それは確かに、わたしの一部だから。
私の個性だから。
 
そのような考えに至ってから、少しずつ変化が現れた。
「申し訳ない」「自分さえ我慢すれば」そんな思いをすることがないなら、しないことに越したことはない。
 
堂々と、主張しよう。たかがエビ。されど、わたしの、個性の一部。
 
「エビは食べません。けれど、何か悪いですかね?」
 
そんな心持ちでいるのも、時には必要なのだ。
だって、もっと、気持ちよくご飯が食べられるから! 
 
 
 
 
***
 
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2024-08-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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